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第二十話 ~洞窟の謎と”古代種”~



「おう。話してみなー」


飛び出ている石の上に腰を下ろし、ナフェリアの目をしっかりと見る。


「一切の生物がいない………糞など、マーキング行為すら見当たらない………この時点で少なくとも数年にわたっては人間以外の生物が訪れていないと、推測できました」


正解だ。師匠の話だと、実際にはここには人間以外の生物は百年という単位で来ていないらしい。

それを知っている師匠は本当にあのぺたんこボディで何歳なんだと突込みもしたくなるが、とりあえず今は置いておこう。


「さらに外を見れば、この洞窟の内部にはほぼすべての植物の根すら侵入していません………内部にある樹の根は外にある巨大樹とは別の種類のようですけど、恐らくは内部だけで育っている―――洞窟内に自生している、いいえ………洞窟内でのみ自生できる植物と見ていい筈です」

「………ふむふむ」


それも正解。

唯一この洞窟内に存在している木の根っこは、この”聖域”内にのみ自生する特殊な植物だ。

”古代根”というその植物はある特定の状況が揃った時のみ樹木として育つ。逆に状況が揃わなければ、発芽が可能な種のまま永遠に存在し続けられるという、この世界に無数ある特殊な植物の中でもかなり奇妙な生態を持った樹である。

この樹木は樹のほぼすべての部分を地下に埋めているのが特徴で、そもそも光合成をおこなわない。俺たち普通の人間が想像するような葉をつけることもない。


「洞窟内部にたまっている水は、多分ですけど………この樹が運んで来たんじゃないでしょうか………。根の副次作用によって地下水脈を作り出すことが出来る………はい。私はそう推測します」

「どうしてそう思う?」

「地形及び地質的問題です………洞窟内部の構造は、私が知らない材質ですけど………水で溶けるような材質ではないことは、わかりますから………そうなれば、水は流れていないと洞窟を削れないのでこうして水が溜まっているだけというのはおかしいな、って」


うーん。うーん!

今すぐにでも頭を撫でたくなる気持ちを抑えて、小さく笑う。ああ、いいぞ。正解だ!

そう。この洞窟は洞窟そのものが特殊な素材でできている。そのため、雨水なども本来ならば洞窟内部へと入ることは無く、水が溜まることはあり得ないのだ。

しかし”古代根”があることによってこの洞窟内にも水が供給される。まあ正確には”古代根”が生命維持に使用する水をとある方法により洞窟内にため込んでいるだけであり、人間である俺たちが勝手にそれを利用しているだけなんだが。


「………特殊な根と特殊な洞窟の材質………根のことはこれ以上分からないので、次は洞窟についての推測です………侵食以外で洞窟が作られる理由は色々とありますけど、この洞窟はそのどれでもない、というのが私の考えです」


………本来、洞窟が出来るには風化や侵食、溶食などの作用が必要だ。

だが、この洞窟の素材はなんとそのどれをも受け付けない。なにせ万物融解剤をどんな風に調合しても一切エリクシールを回収できないからな。今の命核解者の技術ではこの洞窟を由来とする研究を進めることは不可能である。


「そもそもが、洞窟として存在するものじゃない………なら、なにか。この洞窟に見えるこの場所はなにか………」


ナフェリアの瞳が一度瞬く。


「―――基本的に生態系で自分よりも上位のヒエラルキーに存在する生物の近くには、下位ヒエラルキーの生物は近づきません………マーキング、つまり縄張りは生物除けの効果がある………この洞窟は既にマーキングを受けた後、いいえ」


視線は青く輝く鉱石へと向いた。


「この洞窟自体がなにかの生物の痕跡なのだと思います。そしてその痕跡は………生態系における龍種よりも上位に存在している”なにか”の死骸………ここは、とっても強い生物が死んだあとに残った、体内の痕跡なのではないかと、私はそう考えました―――あ、あの。合っていましたか、先生?」

「大正解~!俺の弟子は優秀だなぁ~!!」


ついでに言うとヴィヴィや師匠レベルの才能があるということも分かったわけだが!

なんにせよ凄いことだ、ナフェリアの頭を胸元に引き寄せるとそのままぎゅ~っと抱きしめた。


「あ………ぅ、ふ、………」

「ん、あ。ごめん苦しかったか?」

「い、いえ!もう少し、このままでお願いします………」

「そっか、分かった」


苦しくないならよかったよかった。

ナフェリアが満足するまで胸元で頭を抱きしめ、ついでに髪を撫でているとかなりリラックスした感じの呼吸が伝わってきた。

気負われていないなら、先生としては嬉しい。距離を取られるとちょっとやり難いんだよな。師匠ともかなり距離が近かったから。


「ありがとうございました………あ、あの。またこれやってくれますか、先生………とっても落ち着くので………」

「うん?ああ、全然いいぜ。頼まれればいくらでも」

「………ふふ。やった………」


微笑みながら何かを呟いたように見えたけど、まああまり深く追求するものでもないよな。

さて!ナフェリアがしっかりと正解を導き出したところで”古代根”についての情報なども交えて、詳細な解説をしようか。


「ナフェリアが正解した通り、ここはとある生物の死骸の痕だ。知っての通り、この世界での生態系の頂点に存在するのは”龍種”と呼ばれる存在なんだが、中には例外もあるんだ」

「”龍種”よりも、強いんですか………?」


ナフェリアの頭の中にあるのは恐らく”地龍”だろう。

実をいえば地龍は”龍種”の中では下位に属する生物で、かなり弱い部類である。まあ人間程度なら簡単に食べちゃうけどな。


「ああ、強い。といっても”龍種”にもさまざまな種類があるから”龍種”よりも全部が強いってわけはないけどな………具体的に言うと、龍の頂点に存在する”超龍”と呼ばれる四体の龍がこの世界で間違いなく、全生物の中で最強に近い存在なんだが………まあこいつらは種族じゃなくて個体だから省くか」

「”超龍”………?」

「今の”龍種”の直接の祖先だよ。ちなみに全員が雌で長大な寿命と膨大な魔力を持ってる。頭もいい」

「そ、そんなの存在がいるんですね………」


正真正銘、怪物の部類であり、師匠ですら逃げるので精いっぱいだったとか………若い頃だったから今ならわからんとか言っていますけどあの人本当にやばいですよね?なんで”超龍”に会ったことあるんですかね?

まあそれは置いといて。


「この世界で”龍種”よりも強い存在は何通りかあるけど、有名なのは”古代種”と”変異種”だな。”変異種”は名前の通り既存の生物が何らかの原因で異常な能力を得たものとかだけど………”古代種”は古の時代から姿を変えず、特異な能力と生態を今の時代まで保持し続けている存在だ」


”超龍”達よりもさらに古い時代の龍もいれば、龍どころか他の一切の生物とも違う性質、生態を持つ生物もいる。どれも個体数が少なく、そして知能が異常に高く―――普通の生態系に属する生物からは恐れられているというのが特徴だ。

個体数が少なく繁殖も少ないが、一切生殖行為を行わないわけでは無い。何かしらの手段で子は残しているということだけは分かっている。

”古代根”も実は”古代種”だ。名前の通りだけどな。この根っこは、通常の現代生態系では残り続ける”古代種”の死骸を唯一分解することのできる植物で、普段は”古代種”の体内や体表に寄生し、宿主が死ぬまで種のまま存在している。

老齢の”古代種”が死滅したところでまず茸のような胞子をばら撒き、種の種のようなものを新たな宿主に寄生させた後、死体に残った”古代根”の種は樹木の根を形成し、”古代種”を分解、自然に還元させる。この際に”古代種”の外殻を融解させ、死骸の外と周囲の環境を接続させるんだが洞窟内部の水などはそれによって発生したものだ。

ま、なぜ死んだ”古代種”を分解させるのかは分かっていないんだけどな。水平伝播を行わせるために”古代根”も”古代種”と一緒に自然に解けるのかとか色々と推測だけは出来るが。


「この洞窟は”古代種”である”岩盤龍”が死んだ後に出来たものだといわれてる。あ、言ったのは俺の師匠ね」

「”岩盤龍”………ですか」

「ああ。実物を見たことはないからそれについての説明は出来ないけどな………」


なにせ個体数が、なぁ。

是非生きている”岩盤龍”にあってみたいけど。と、俺の命核解者としての欲望はさておき。


「―――さて。じゃあある程度の解説も終わったところで」


立ち上がって伸びをしながら、ナフェリアを見下ろす。


「一旦、家に帰りますか~」

「は、はい………!」




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― 新着の感想 ―
[一言] 見下ろす?あ、ナフェリア座ってるのか。それかオルトちゃんが岩か何かに立ってるのかな? 幼女を抱きしめる幼女。 尊! 地龍、龍の中ではザコだったのか。 超龍ヤバイやん。 岩盤龍、どんな奴…
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