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そんなアシュフォードに町人たちが駆け寄ると、彼も緊張をくずした。
とにかく町人たちには怪我なく事を収めたのだから、彼のしたことは町にとっては英雄的行動である。
だが殺されたあの星頂人はやはり気の毒であり、心の底からは喜べないのだろう。
歓声に乗り切れないアシュフォードがふと目を下ろし、地面に落ちた金貨を拾う。
決闘の合図を告げた金貨である。
「金貨を投げるとは粋な奴だな?
ーーおーい、これ誰のだ?」
アシュフォードが指で摘まんだ金貨を天に向かって伸ばしながら町人たちに聞く。
すると埋もれた町人の中から1つ手が上がった。
そして手を上げた人物が群衆を掻き分けて、今まで目立たなかったその姿を皆に晒す。
「あたしのです」
手を差し出したのは投げた本人、アリス。
しかし町人たちの反応は『誰?』というものである。
アリスは余所者。
当然ほとんどの町人が初めて見る顔である。
ーーが、しかし。
アリスの顔を一目見たアシュフォードは言葉を失った。
指で摘まんだ金貨がするりとこぼれ落ち、再び地面を転がる。
それがゆっくりとアリスの足まで到達すると、持ち主はそれを拾い上げた。
「ありがとうございます。
アシュフォードさん・・・で良かったですか?」
アリスが微笑む。
だが未だアシュフォードは一言も発しない。
まるで信じられないもの、この世に存在しないものを見たかのような、驚愕の表情がそこにあった。
「ま・・・『マーサ』・・・?」
どうにか声となって出てきた言葉。
その言葉を聞いてアリスが小さく笑い声を漏らす。
「アシュフォード?
知り合いの娘さんかね?」
アシュフォードの反応を見た町長が尋ねた。
アリスの顔を知っているようなのに、何故そこまで驚きの表情を見せているのか?
町人たちも困惑気味である。
「いや、まさかそんなはずは・・・。
だが、しかし・・・どう見てもーー」
困惑しているのはアシュフォードも同じだった。
アリスの顔。
それが今、現在、自らの視界に在るということが信じられないようである。
「マーサ・・・マーサ、なのか・・・?」
そして再び口にするその言葉。
アリスは弱ったように頭を掻きながら笑みを返している。
「お父さん、どうしたの?」
「ま、マリア・・・」
「この人はアリスさん。
私の命の恩人よ」
「アリス・・・?」
アリスの脇から出てきたのは娘・マリア。
『アリス』という名前を聞いて、アシュフォードは今一度、食い入るようにその顔を見つめる。