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そして場が一端静まり返る。
ーー緊張の瞬間だ。
集まった町人たちには今回の勝負がどういうものか、事前に伝えられている。
これでアシュフォードが勝てば現状維持で良し、負ければ上納金が上がってしまい、負担が増える。
何としてもアシュフォードに勝ってもらいたいところだが、当の本人は両手を腰に置いて余裕の姿勢。
星頂人の方はやや中腰の姿勢で、手は銃を直ぐに握れるように側で待機させているというのに。
ひょっとしたらアシュフォードはまだ構えていないのではないのか?
合図を頼まれた町人たちは動くべきか躊躇っているようで、中々『その時』は訪れない。
町人からすれば負けられない戦いであるから、慎重になるのも無理はないと言える。
だが一向に誰も合図を出さないのを見たアリスがふと腰に下がった布袋から一枚の金貨を取り出した。
そしてそれを指で強く弾くと、金貨が曲線を描くように空中に飛び上がる。
高く飛んだそれは町人たちの頭を越えた辺りで落下し始め、その途中にアシュフォードの脇を抜ける。
そして、金貨が遂に地面に降り立ち、静まり返った町に金属が跳ねる音が響いたーー。
ーーそれは一瞬だった。
火薬の音が金貨の跳ねる音に続くように響き渡り、同時に星頂人の銃のホルダーが地面に落ちた。
星頂人は一瞬戸惑った。
合図の音を聞いて銃に手を伸ばしたらそれがないのだから。
それが地面に落ちていたのに気付くのに幾ばくかの時を要したのだった。
町人も同じである。
『勝負の終わり』が分からなかった。
火薬の弾ける音は聞こえたが、どちらの銃から発射されたのか。
また発射されたのにどちらも撃たれた様子がないのは何故なのか。
分かったのは撃った本人のアシュフォードともう一人、野次馬に紛れたアリスだけである。
「(ひゅう。やっるーっ!)」
アリスは心の中で歓喜の賞賛を送りながら、手を振りながら指を鳴らした。
「ーー勝負ありだ」
そしてアシュフォードがようやく勝ち名乗りを上げた。
彼の右の腰。
ホルダーから抜かれた銃が星頂人を捉えている。
彼は銃を引き抜くや左の手の平で撃鉄を起こし、そのまま右手で引き金を引いた。
その行動が余りに早かったため、誰にも見えなかったのだ。
ーーアリスを除いて。
その勝ち名乗りを聞いた町人が一人、また一人とアシュフォードが勝った事実に気付き歓声を上げ始める。