1話 勇者
地下街-メランコルデ。
いわば大人の街とも言える。
娯楽な店、ギャンブル店、居酒屋。
その他色々…まさに「自由」を感じる場所だ。
ピカピカと照明が光り、地下全体を照らす。
ド派手が過ぎる地下街に青髪のエルフが住み込んでいた。
---行きつけのカジノ。
「…今日こそは勝たせてもらうよ。」
リンネが椅子に座る。
純白のフード付きローブを羽織り、だらしなさそうに椅子にもたれかかる。
ローブが大きく、少しずれ落ちていた。
邪魔くさいと思い、椅子に掛ける。
黒色のキャミソールが露わになるが、そんなこと構わず、トントンとテーブルを叩いた。
どうやらリンネの相手は金髪の若いディーラーのようだ。
「おや、これはこれはリンネ様。
そんな格好しちゃって…ここら辺は野蛮な連中が多いですよ?」
それを聞き、呆れたように周りを見回しながら言う。
「……誰も……私を…狙ってない……。
やっぱり!若い子がいいんだ!!」
テーブルを叩きながら、盛大に泣き崩れる。
酒が入ってない…シラフでこれ。
ディーラーは、笑いを堪えるように手で口元を隠す。
そしてゆっくりと本題の話をし出した。
「えー、それでは始めますか。」
「今日こそは絶対に負けない!」
ニヤリと笑い、チップを取り出した。
ここでこの世界のチップの金額についてお話ししよう。
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通貨単位の呼び名「デラム」
1デラム=1円
そしてチップの金額について
チップは色によって金額が異なり、チップを出して掛け金を決めます。
白=100デラム。赤=500デラム。
青=1000デラム。緑=5000デラム。
黒=10000デラム。紫=50000デラム。
黄=10万デラム
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「ブラックジャックでよろしいですか?」
「BJでよろし。」
ふふ、とディーラーは微笑み、カードをシャッフルする。
「あ、細かいルールはなしね。」
リンネはそう言いつけ、テーブルに肘をつけ、何デラム賭けるか悩んでいた。
ブラックジャックでは、プレイヤーとディーラーの対決であり、プレイヤーは掛け金を決め、ディーラーはお互いに二枚ずつ配る。
21点を超えず、カードの合計が21点に近い方が勝
ち。
21点を超えたら「バースト」といい、その時点で負け。
ディーラーは最初の一枚目を裏にし、二枚目を表にする。
プレイヤーは二枚とも表。
配られたカードに応じて「ヒット」「スタンド」「ダブル」等のアクションを選択する。
「ヒット」は山札から一枚追加。
「スタンド」は追加しない。(その点数で勝負)
「ダブル」は掛け金を二倍にし、一枚追加。
ディーラーは16点以下なら必ず「ヒット」しなければいけない。合計が17点以上になるまで引き続ける。
合計点を比べて勝者を判定。
J.Q.Kは10点。
Aは1点か11点か選べる。
ディーラーとプレイヤーの合計点が同じ場合はドロー。
最初にAと10を受け取った場合「ブラックジャック」となり、掛け金の1.5倍の賞金を受け取る事ができる。
他にも細かいルールはあるが、まあよしとしよう。
つまり、かなりの運ゲーの勝負である。
そして異世界カジノ最大のポイントである……
ディーラーにバレなかったら魔法使ってよし!
だけど、バレたら即終了。
所持チップは50枚。
今回は白、赤、青、緑、黒。
白は20。赤は10。青は10。緑は5 。黒は5。
手始めにこれだ。
リンネはチップを決め、テーブルの真ん中に置く。
白5枚。赤5枚のようだ。
合計で3000デラム。
「では…」
ディーラーがカードを二枚ずつ配る。
リンネはジッと二枚のカードを見つめた。
8と…4。
合わせて12…。
引くべきか、引かないべきか。
もし、10以上のカードが出たら、バースト。
初めて魔法を使って勝負してみるか…
やばい、楽しすぎる。
とりあえずリンネはヒットにした。
「ヒット。」
ゴクリ……
カードが一枚配られた。
5…!……17か。
ヒットやダブルは、5以上の数字が出たら負け。
だけどスタンドは…この4の間はデカすぎ!
…………んー。
「それにしても…カジノで魔法を使う輩が増えたね。」
「ええ。本当にイカサマが多いですよ。
でも、たまに惚ける奴もいるんですよね。」
「そういうのはどうしてるの?」
「………「契約」ですよ。
店に入った瞬間、命の契約が結ばれている」
そう…。「契約」によって、心臓に小さな針がささっている。
契約の内容は…魔法によるズルをしてはいけない。
発動条件は。
ディーラーがなんの魔法を何に使ったのか気づくこと。
「確定的な証拠」を掴まれるまでは命の契約は発動しない。
バレたら終わり。
「スタンド…」
リンネはスタンドし、、17点に決定した。
ディーラーが一枚目の裏になっているカードを表にする。
……7と8。15…。
次のカードを引いた。
……Q=10!
25…バースト!
一回戦はリンネの勝ち。
3000デラムは倍となり、6000デラムになった。
すぐにリンネは、チップを前に出す。
「…なっ……」
その光景を見て、ディーラーは驚いた。
いくらなんでも、バカすぎる…。
「全ベット…!」
一世一代の大掛け勝負!
ディーラーは噛み締めるように、興奮を抑えカードを配った。
どうやら、リンネは魔法を使う気満々らしい。
恐る恐るカードを確認する。
5と…K。15か。
数字としては微妙だけど勝たせてもらうよ!
まずは透視魔法で山札を見る。
8か…ま、そう勝たせてくれるわけないか…。
なら次は、ディーラーの裏になっているカード!
今の手持ちは10…裏のカードは…A!?
21点…!ブラックジャック!
嘘でしょ…もう最強の組み合わせ完成じゃん。
このままでは勝てない。
全てのチップ(金)が消える。
…だけど、私が全ベットした理由は…見つけたのさ。
確実に勝てる奥の手が…!
「ヒット…」
本来なら8が来て終わりだけど、大丈夫。
2に置き換わっているから…!
幻影魔法を使い、8を2に見せる。
そして次の山札のカードに透視魔法を使う。
…2!!
計画通り…!
「ヒット」
またもや2のカード。
ディーラーは不審な目になる。
これで合計19点。
これで終わりではない。
さっきの2を複製魔法して、もう一度ヒットする!
これにて…21点!
次にディーラーの裏になっているカードAを、幻影魔法を使って、Lにする。
これで21点から20点になって私の勝ち!
「魔法…使いましたね」
少しばかりリンネは顔を引きつる。
冷や汗もかいてきた。
ディーラーの真剣な眼差しにリンネは顔を逸らした。
だが、これが狙い。
今ディーラーの脳には「分からない」が蠢いている!
幻影魔法を使って3枚とも2にしたのか。
それとも本物の2を複製魔法か。
まさかの両方か…。魔法を使っていないか。
まったく分からない…!
「……負けました…」
リンネの狙いは混乱!そして言葉の裏を取った策略
一つだけでなく、たくさんの魔法を使うことによって、相手を混乱させ、「確定的」をだんだんと弱らせる。
しかも、一方の魔法を言い当てられても、もう一方がわからなければ、確定的ではなくなり、契約は発動しない。
所持していた95000デラムは倍となり、190000デラムとなった。
すぐに換金所へ向かい、190000デラムを手にしてカジノ店を出た。
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銅貨1枚=1デラム。銀貨1枚=10デラム。
金貨1枚=100デラム。
1000デラム以上は札だ。
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リンネは勝った札を仕舞い、居酒屋に行く。
ある目的の為、標的を捕まえるのだ。
肉の香ばしい匂いを嗅ぎ、リンネはお腹が鳴る…。
しかし、我慢した。
地下街の大通りを通り、隅にある居酒屋の前で出待ちする。
すると、酔っ払った中年男性冒険者二名が店から出て帰ろうとしていた。
「ハハハ!それで、俺はズルして勝ったんだよ!」
「ハハ!最高じゃん!」
リンネは二人の会話に入り込んだ。
「あの〜…実は今日泊まれる宿が無くてぇ、もしよろしかったらお二人のどちらかの家に泊まらせてくれませんか?」
胸元を見せつける…。大してないのに……。
男達はあっさりとリンネにOKを出した。
リンネの身体を触りながら、人気のない路地裏へと案内する。
---路地裏。
「えーと…家は?」
「お嬢ちゃん…こんな夜遅くに外に出たらダメだよ〜」
「お兄さん達みたいな野蛮な人が襲ってくるからねぇ。」
リンネの腕を強く握る。
だんだんと呼吸が荒くなった。
「…っ痛い…」
言葉を漏らした。
そんなこと聞きもせず、男達は服を脱がせようとリンネの服に触れた。
ローブを取り、キャミソールに手が差し掛かった瞬間…。
リンネが手を広げ、杖を呼び出した。
「杖よ来い!」
魔力の結晶が集まり、だんだんと杖の形になっていく。
すぐに男達の手を振り払い、両手で杖を握った。
華麗なステップを刻み、ある場所を狙う。
「永眠魔法」
一瞬の隙をつき、二人の金的に杖を叩き込んだ。
男達は悶絶し、股間を手で押さえる。
リンネは間髪入れずに次の魔法を繰り出した。
「拘束魔法!」
光の鎖が現れ、男達を縛った。
ざまぁみろと言っているような顔をし、地面に魔法陣を描く。
「おい!この小娘!さっさと解きやがれ!」
地面に転がりながら、惨めに叫ぶ男達。
リンネはそれを耳にせず、自分語りをする。
「勇者が死んでから、私への侮辱が始まり、ずっと生きるのがしんどかった…
毎日毎日自分を殺しながら過ごした。
だけどね…一方でこんなことも考えていたんだ。」
男達の方を向き、目を合わせた。
瞳には光が無く、ドス黒い色が広がっていた。
「こんな私が最強取ったらさぞかし気持ちいいんだろうなって。」
「な、何言ってんだよ…」
怯える様子で訴えかける。
それを見て、リンネは優しく説明した。
「今から君たちには、私の実験となってもらう。
新しい勇者を召喚する為に…」
男達二人を魔法陣の中に入れ、自身の杖も入れる。
国王に貰ったとても高価な杖。
より高い価値を持つ者を呼ぶために…
「これより、転移魔法で勇者を召喚する。
それの生贄として、君達二人にはなってもらうよ」
「ふ、ふざけんな!なんで俺達が生贄なんかにならないといけないんだ!!」
「黙れ」
非常に冷たい声。
喉に声が詰まる。
息をするのもやっとのくらい…
リンネから殺気が溢れ出ている。
すぐに殺気を抑え作り笑いをし、場を和ませた。
「でも、安心して!君達は死なないから!」
「嘘つけ…!!等価交換は…何かを得るために、同等の犠牲(命)を払わなければいけないってことは知っているぞ!」
「そう…。でも、それは"今まで"の等価交換。
私はこの100年、転移魔法について考え対策を思いついた。それは"複合魔法"による中和だ!」
「要するに…転移魔法と転送魔法を合わせる。
それにより、生贄型の等価交換からただの等価交換となるんだ。
ただの等価交換は…簡単に言えば同じレベル同士の交換かな?」
「つまり……俺達は…?」
緊張で額から汗が垂れ流れる。
すぐにでも、力ずくで拘束魔法を解いて、逃げたいところだ。
「まあ、、勇者の住んでいた世界に行くってことかな?」
「ふざけんなぁ!……やっぱり犠牲がいるじゃねぇか!!」
……いや待てよ。転移魔法には丸3日かかる。
しかも、それの複合魔法……
最低でも一週間はかかるぞ!?
「ふふ、転移魔法は時間がかかると思ってるね。
ごもっとも、でも安心して100年間練習して今では私の中で一番得意な魔法になってるから!」
嘘だろ…!?転移魔法が一番得意な魔法だと!!?
しかも、杖もなしにやる気か!!
「完全無詠唱による、転移魔法と転送魔法の複合。」
リンネの周りに魔力が集まり、砂埃が舞う。
魔法陣も魔力を感じ取り回転し始めた。
そして心の中でこう叫んだ!
エクスチェンジ!!!
辺り一面眩い光に包まれ、リンネは目を閉じた。
風が起き、飛んできた砂が口の中に入ってゴホゴホと咳き込む。
そして風が止みゆっくりと目を開けた。
魔法陣の真ん中に黒い影が映る。
そこには…新たな黒髪の青年が立っていた。
初めて勇者が現れた日同様、感動により目が染みて、リンネは青年に抱きついた。
キャラクター紹介
名前 リンネ
特徴 エルフ 青髪 とにかく背も胸も金もない。
魔法使い。
得意な魔法 転移魔法と転送魔法の複合魔法。
エクスチェンジ。
新たな勇者を召喚して冒険に臨む。




