10.ありふれた「ホブゴブリン」と「ラーメン」と「自衛隊」
あいかわらず仕事がバタバタで推敲もままならず。
ちょこちょこ直します。すいません。
第3階層でたっぷり睡眠を取りお風呂にも入ってリフレッシュしたボクたちは、第4階層への階段口を目指して峡谷の中を進んだ。第3階層の主なモンスターは『黒妖犬』『吸血コウモリ』『巨大ネズミ群』。稀に『ゴブリン呪術師』。黒妖犬のモンスターハウス3部屋と吸血コウモリの巣3部屋に当たった。峡谷の路上で遭遇した分も含めて黒妖犬99匹を殲滅する。吸血コウモリは小型犬ほどの大きさがあり、パグみたいな潰れた鼻と湾曲した牙が特徴。噛まれると麻痺毒を注入され、意識あるままミイラになるまで血を吸われる。そしてとにかく大量に群れていて、部屋の床は降ってくるコウモリの糞でヌルヌル。なによりとんでもなく生臭い。これはもう燃やすしかないと全員一致。フロアがオープンタイプだしモンスターハウスにはコウモリが外へ出るための天井穴が開いているから不完全燃焼の心配なく魔力マシマシで火の柱を何本も作る。ミカンさんもシオンもファイヤボールを撃ちまくった。なにせ大量にいるから適当撃ちでもよく当たる。魔石の数は189個だったけど経験値は204匹分のポイントが入っていた。落ちた魔石は燃え残った糞の山に埋もれてしまったのだろう。誰も掘り返そうとはいわない。ボクはネズミの尻尾の生っぽい感じが苦手だったから、ネズミの大群部屋に当たらなかったのは幸いだ。そしてモンスターハウスのラストはゴブリン部屋。38匹中、3匹が呪術師だったみたいだ。でも魔法を唱えてる暇なんて与えなかったからルーチン作業みたいだった。雷撃ち込み。シオンを先頭に全員で突撃。身構える暇さえ与えず殲滅した。
4階層への階段に到達した時点で得られた経験値は、黒妖犬で19800、吸血コウモリで32640、ゴブリン呪術師集落で4400。合計で56840。ミカンさんも含めてボクたち全員がレベル40にあがる。ボクは今回筋力にも2ポイント振り、フィジカル面も強化した。身体中の骨や腱がピキパキ組み替えられていく感覚がある。筋肉もギュッと絞られる感じがした。ダンジョンには鏡がないから自分の姿を見ることはできない。なのでシオンに見てもらう。シオンいわく、どことなくプロポーションが引き締まったように見えるらしい。ボクの性自認は最初の世界の性別を引きずって男に傾いている。だから男自認の強めなボクとしては、プロポーションを褒められてそれほど嬉しくは思わない。ただしボクの中にはこの世界で神代湊として生きて死んだもうひとりのボクの意識が同化していた。同位体の神代湊は生まれてから死ぬまで女だったわけで。別宇宙から来たボクとこの宇宙で生きたボクは、なんの違和感もなく混ざり合い融合している。なんだけど、こういう性自認の側面ではちょっとだけアンビバレンツが生じたりするのよね。女自認のボクが、脳か心臓の隅っこでウキウキ喜んでいたりしてね。やれやれ。ルキナの世界への転生で、転生者の男女比率バランスに偏執狂レベルでこだわったルキナのお陰で女ボディを与えられてからというもの、性自認に関してはいまだに定まらないんだよね。
筋力を少しあげたり戦闘系に少し振り分けたのは、ミカンさんの加入でボクのポジションがやや前衛寄りになるからだ。
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名前:ミナト
【獲得経験値:123600】
【ステータス覚値:0/40】
筋力:5 敏捷:8
知力:12 精緻:6
生命:4 感覚:5
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シオンはこの世界で戦闘力特化を目指すみたいだ。
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名前:シオン
【獲得経験値:123600】
【ステータス覚値:0/40】
筋力:8 敏捷:11
知力:5 精緻:8
生命:2 感覚:6
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ミカンさんは全体的な底あげ。
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名前:ミカン
【獲得経験値:123320】
【ステータス覚値:0/40】
筋力:4 敏捷:8
知力:9 精緻:8
生命:4 感覚:7
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ここまでで得た魔石は2カラット魔石が224個。5カラット魔石が69個。ドロップキーが4本とドロップキーとは形状が違う鍵が5本束ねられた鍵リングが1束落ちてた。ドロップキーはモンスターハウスの隠しドアを開けるためのキーで、真鍮色。この鍵束は銅色をしている。ドロップキーよりやや小ぶり。ネットでも見たことない鍵だったけどなんとなく使い方が想像できた。次の部屋の討伐後に宝箱に使ってみる。宝箱が罠を作動させることなく開いた。ビンゴ。宝箱の鍵だった。使うと昇華して消えてしまったので、残りの鍵が4本。宝箱4個分。これはもっと深い階層で出てくるだろう構造の複雑な罠の宝箱に使うことにする。カチャカチャ音を立てて敵に居場所を晒さないようふわふわ素材のミニ巾着袋に入れ、腿に着けたレッグポーチにしまった。
宝箱のお宝は、ひとつ目が『魔石ランタン』。これはネットでよく見かけた。見た目もランタンだからすぐわかる。2カラット魔石を入れると12時間光り続ける。次の宝箱からは2階層でも出た薄紫にかすかに光る籠手が出た。革というかゴムみたいに柔らかく腕にフィットし、手首から肘前にかけてカバーしてくれる。しかも着けているのを忘れるほど軽い。裏に魔法紋がみっしり刻まれていることから、なんらかの魔法が働いて表面の耐久性を増す魔法籠手だろう。ふたつ手に入ったからひとつダメにしてもいいんじゃね、というシオンのお言葉に従い試しにサバイバルナイフを叩きつけてみた。刃の当たる瞬間だけ超絶に硬化し、ナイフが無惨に刃毀れする。なのに籠手には傷ひとつついてない。前衛で接近戦も行うボクとシオンが盾代わりに左腕に着けることになった。後に鑑定でわかったのは『不破断の籠手』という名前とその超絶性能。なんと魔剣をもってしても断ち斬れないという究極の籠手だった。
みっつ目の宝箱からは結界魔導器に似たアクセサリーボトルが出た。結界魔導器と同じく大きさがスリムな香水瓶ほど。フィリグリーと呼ばれる金属編み籠で保護された魔法文様入りのガラス瓶だ。結界魔導器は魔石を入れることで、結界に近づこうとする生物に対して精神的な排斥波動を生じさせる。休憩中にこの魔導器を試した結果、これは魔導器を中心に半径5mの球状空間の空気を清浄に保つ作用があるとわかった。その範囲内の空気を高原の清々しさに保ち、湿度は低めでさらに20度前後の快適な温度に保ってくれる。結界の中なら焚き火をしても煙が煙くない。なんていうか人間にとって不快な要素をすべて浄化しちゃうような感じだ。もしかしたら有毒ガスすら浄化しちゃうのかもしれない。『浄化魔導器』と呼ぶことにした。よっつ目の宝箱からは『知恵の腕輪+5』が出る。身に着けてステータスパネルを開くことで、簡単に性能が知れる。これは無条件でミカンさんに着けてもらう。
いつつ目の宝箱から出たのは蓋が魔法文様で装飾されたコンパクト。もっと化粧しろとでも。大きなお世話を焼かれているのかと思いつつ蓋を開いてみたら、中には青く輝く凸レンズみたいのが収まっていた。蓋に魔法文様が装飾されていたし、これも魔導器なら魔力を流すんだろうと見当をつけて微弱な魔力を流してみる。手の平の上に直径2m近いホログラムの立体画像が浮びあがった。どう見てもボクたちが攻略しながら進んでいる3階層の立体マップだった。中心にボクたちを表すのだろう白い点がみっつ。円形の北の端に赤い点が3つ。ボクたちが進もうとしている方角だ。西の外れ近くには密集しすぎて点に見えなくなってる塊が蠢いている。北の赤い点は南に、ボクたちの方向に動いてた。向かってくる点の位置とボクたちの間の峡谷に分岐がないので10秒ほどで遭遇するはず。シオンとミカンさんに注意喚起して戦闘態勢を取る。マップ上で赤い点が中心の白い点と同じ位置を占めたとき、現実に峡谷の奥から黒妖犬の群れ3頭が現れた。先制の優位さは圧倒的だ。瞬殺でシオンが2頭、ミカンさんが1頭を屠る。このコンパクトケースは『生体感知器』だとわかった。エコーロケーションで感知できる範囲の5倍はあるから重宝しそうだ。
むっつ目の宝箱からは投擲武器が出てきた。忍者道具でお馴染みのクナイという武器だ。手に持って小型ナイフとして使うもよし、手裏剣として投げてもよし、柄の後ろについているリングに紐をつけて振り回してもよし。穴掘り道具にもなる。それが6本。柄に魔法紋が刻まれていたので魔力を流してみたら、壁の岩にほとんど抵抗もなくスルッと刺さる。魔力を切ると壁に固着したように固定されるから足場にも使える。なかなか便利な道具だ。2本ずつみんなに配った。ベルトにはいろんな物を差し込めるツールループが着いているのでそこに差し込む。
最後のゴブリン呪術師集落が隠していた宝箱には、以前収集した魔法銃に似たハンドガンが収まっていた。似てはいたけど意匠が違う。装飾された文様は雷系統に読めた。当然シオンが試し撃ちを試みる。圧縮弾の代わりに小さな雷球が撃ち出された。壁に当たってバリバリっと無数の電気放電を生じさせる。雷を撃ち出す魔法銃なのはわかった。問題は威力だ。人を感電死させる威力なのか、それとも気絶させるだけの『スタンガン』なのか。ミナト実験台になってよっていうシオンの言葉を拳骨で威嚇して丁寧にお断りする。生体感知器で周囲を探すと、少しルートから外れるけどそう遠くない通路を敵性生物が2体徘徊していた。ちょっと寄り道して試し撃ちに行く。黒妖犬が狩ったゴブリンを捕食していた。いつもとは順番を変えて、ミカンさんが先頭で突撃しシオンが中距離から雷銃を撃った。バチッと弾ける音。こちらの接近に気がついて振り向いた黒妖犬の1匹に雷球が命中した。黒妖犬が苦鳴とともに跳ね飛ばされ地面に叩きつけられる。第2弾がもう1匹にも命中し、駆け出そうとした身体が空中に弾け1回転して地面に落ちた。最初の1匹が必死で立ちあがったけどふらふらだった。ミカンさんもずいぶん討伐に慣れて、躊躇いなく剣を振る。1撃で首を落とした。それが最も苦しませない倒し方だからだ。
「スタンガンだったかー。うーん。やっぱ、遠くからペチペチはスリルがないわね。ウチは突撃のほうが好みだわん。ミナト、持ってて」
ダンジョンで銃が撃てるなんて報告聞いたことがない。おそらく世界初。世界がひっくり返る発見だろう。売ったら億の値がつくだろう貴重品をシオンは放り投げやがった。
「1発目と2発目で、込める魔力量変えてみた?」
「うん。1発目は軽く、2発目は『ふんすー』って気合込めたけど効果は同じだったよー」
なんて話をしながら進み、ついに4階層への階段口に達した。行き止まりの峡谷の正面に黒ぐろとした穴が空いてる。時間は24時。つまり真夜中。
「現在24時です。よい子はお家で寝ている時間ですね。ボス戦の前に休憩して英気を養う事もできます。ちょっと距離ありますけど、奥へ行けばキャンプに適した空洞もあります。ミカンさんはどうしたいですか?」
「私ですか‥‥はい。まだ起きて7時間くらいしか経ってないですよね。少しお腹が空いた感じはしますけど、食べてすぐボス戦っていうのも身体が動かない気がするし。このままボス戦を済ませて、第5階層のセーフエリアで休んだほうがいいんじゃないかと思います」
「シオンもそれでいいかい?」
「ういっす。でも、小休憩はしよう。オシッコしたい」
階段入口のすぐ手前の分岐が茂みと折れ曲がりでちょうどよい目隠しになるので、順番にトイレを済ませる。さっぱりしてから水分補給して、階段に入った。
「ミカンさん。ボス戦は初めてですよね。相手はホブゴブリンです。っていってもゴブリンがちょっと大きくなっただけっていうんじゃなく、オーガくらいに大きな巨漢です。ゴブリンが身長140cmほどミカンさんが170cmだから肩ぐらいですよね。ホブゴブリンは200cm超えてます。ミカンさんがホブゴブリンの肩までしかないサイズです。体格はプロレスラー並み。ゴブリンはひょろひょろですけど。どっちかといえば小型のオーガって思ったほうがイメージしやすいかな。オーガは3m超えもざらですけど」
「ホブゴブリンは動画で見ました。まさかこんなに早く戦うことになるなんて思ってなかったですけど‥‥」
シオンが足を速めてミカンさんに並び肩を叩いていった。
「ホブゴブリン自体はー、いまのミカンさんのステータスがあればアマチュアみたいなものよ。落ち着いて当たれば動きは直線的だし、力任せだし、隙だらけ。ただ怪力なのは間違いなくて、振り回してくるハンマーを受け止めようなんてしたら剣ごと身体もへし折られるわね。だから相手との戦いっていうより自分の恐怖心との戦いになる」
「自分‥‥ですか?」
「ビビって身体が硬直する。怯えて腰が逃げる。怖くて目をつぶる。全部自分の恐怖心が自分の身体を支配しちゃってる状況ね。恐怖心はだいじだから押し殺せっていうんじゃなくて、不必要に支配されないようにしなくちゃいけない。集中して、目を凝らして、縮こまった筋肉を解して。さがりたい心に負けずに、必要な一歩を踏み出すの。ウチもミナトもできるって信じてるんじゃなくてステータスの数値で現実的にできることがわかってるの」
「たまにいいこというなあ。シオンは。怪力でハンマーを振り回してくるけど、よく見て見切れば避けられる。1度避けるとハンマーの重さで腕が伸び切るから、隙だらけになるんだよね。そこが狙い目。ミカンさんの着けてる防御シールドは、ハンマーの一撃をまともに喰らっても持ちこたえるはず。だから最初の一撃はあえて喰らうつもりで、じっくり見てみてもいいんじゃないかな」
「あの‥‥なにか、私が先頭で真正面で相手するみたいな流れになってるんですけど‥‥」
「戦闘時の度胸って、実戦でしか身につかないのよねー」
シオンが死刑宣告みたいにいう。ミカンさんは足を止め、長い間を取った。
「わかりました。おふたりのいう通りです。やってみます」
そして長い階段をビル5階分くらい降りたところで、大きな広間と真正面にそびえる巨大な門が現れた。3人で門の前に立つ。無数の文様と怪物のレリーフで装飾された石の門だ。
「ロダンの『地獄門』みたいだね」
「確かに上の方にあるイタリア語の碑文は『この門をくぐる者一切の希望を捨てよ』って文言だけど、実際にロダンの造った『地獄門』の彫刻には碑文は入ってないんだよね。考える人の像もついてないし。レリーフのモチーフはヒエロニムス・ボスの『快楽の園』の地獄パートみたいだし。なんか適当にごっちゃにした感じ」
「でも。雰囲気あります。門の威容だけでビビりそうです。ちょっと精神統一させてください」
「ゆっくり自分のペースでいいよー」
ミカンさんは目をつぶり、3回深く深呼吸を繰り返す。それからゆっくり剣を抜き出した。顔をあげ、両側に立つボクとシオンに目を合わせてうなずく。自分から扉に手を当て押し開いた。部屋に足を踏み入れる。どことなく田舎のお便所の臭い。とんでもなく広い広間だった。ドーム球場ほどの広さと高さ。邪悪な教会があったらこんな感じかと思う。なんていうか捻れた意匠。彫刻もレリーフもモンスターに喰われる人間を描いている。
「荘厳なる悪趣味って感じねー」
シオンが的確に表現してくれた。遙かドームの彼方、巨大な玉座に巨大なゴブリンが座っていた。遠くてはっきりは見えなかったけど多分笑ったんだろうと思う。ゴリゴリと音を立てるハンマーを引きずりながら立ちあがった。退屈してたんだろうね。そうそう頻繁に人が降りてこないだろうし。ボクたちが引き起こしたダンジョンゴールドラッシュで、もう少ししたらホブゴブリンも大忙しになるかもしれないけど。ボクたちはミカンさんを先頭に三角隊形で進んでいく。床は石畳だ。大理石の床ほどじゃないけど滑りやすいから気をつけないと。ミカンさんに告げるとミカンさんは前から目を離さず頷いた。いい感じに集中して、しかもちゃんと周りも聴こえている。
大広間の半分ほど来たところで、ホブゴブリンが壮絶な咆哮を放った。ハンマーを両手で抱え持ち地響きを立てて突進してくる。ミカンさんを見た。やや姿勢を低くしているものの、腰が引けているわけじゃない。足も止まらず、着実に進んでいる。自然体な構えだ。しかし、まあ、さすがにボス。圧が凄い。ミカンさんはうっすら口を開きゆっくり呼吸をしている。期せずして『息吹』っていう呼吸法に近くなってた。
暴走する大型車並のスピードでホブゴブリンが突っ込んでくる。ミカンさんも必死の勇気を振り絞って前に出る。瞬きしてないことで極度の集中が窺えた。距離3m。ホブゴブリンはあと1歩。ミカンさんはあと2歩の距離。ホブゴブリンがハンマーを引いた。真上に振りかぶるかと思ったら、横に引いてる。横殴りに振ってきた。ミカンさんがひゅっと喉を鳴らしながら膝を曲げ上体を倒す。ダッキングという回避法だ。左手を地面に突くほど身体を低く屈めてる。頭の上を空振りしたハンマーヘッドが惰性で遙か左方向まで流れていく。ホブゴブリンが鼻を鳴らしながら必死にハンマーを止めようとした。左の脇ががら空きだった。ミカンさんはちゃんと見ていた。膝を曲げすぎてやや遅れたものの、地面を蹴って伸びあがり。1歩踏み込んでホブゴブリンの左脇に身を寄せた。刀身は右脇。身体の後に流す、脇構えという型になっている。偶然の動作だろうけど。ホブゴブリンとミカンさんの身体が交差する。ミカンさんの構えた剣が流れるように斬りあげられる。少し刃筋がズレたのだろうか。ホブゴブリンの筋肉に止められたのか。斬込みが浅い。それでもホブゴブリンが苦鳴を漏らし、血がしぶくほどは斬り込んでいた。そこで戦闘経験の差が出る。ミカンさんは斬るだけで精一杯。斬ったあとの残心ができてなかった。
『残心』とはあらゆる武道で重要とされる心構えだ。技が決まった瞬間こそ、もっとも隙ができやすい。張り詰めた気が緩んだり、油断したりする。それをわかった上で直後のいかなる反撃にも状況変化にも備える、心と身体の構えのことだ。ミカンさんは一撃を与えたことで集中力が一瞬途切れた。交差した瞬間振り返って相手を見極めなくてはいけない流れの中でコンマ数秒振り返りが遅かった。ホブゴブリンが右手をハンマーから外し、ミカンさんの後頭部へ振り落とす。発動するべき防御シールドが想定通りに発動し、ホブゴブリンの拳を弾いた。衝撃は伝わる。ミカンさんが驚いたように振り向いた。ホブゴブリンは全力で踏み留まり、ハンマーを振りかぶっていた。スタンガンでも撃って援護すべきか。でも撃つより速く、シオンの喝が飛ぶ。
「よく見て。身体、開いて!」
ミカンさんがハッとして、自分に振りおろされたハンマーヘッドを見あげた。身体を開く。つまり相手に対して半身に構えるということ。身体を開いたミカンさんの鼻先1cmの距離を巨大なハンマーヘッドが通り抜けていく。ドカンと爆発音を響かせ、ハンマーヘッドが床石を粉砕した。床を撓ませ、ヘッドが半分近くめり込む。ホブゴブリンの動きが止まった。おそらくミカンさんは意識して動いたんじゃないだろう。何度もゴブリンや黒妖犬を相手に戦ってきた成果が、ここでようやく無意識に出ただけだと思う。勢いで前屈み気味になって突き出されたホブゴブリンの頭。その頭と身体の間をミカンさんの刃が滑り抜けていった。偶然だろう。見事なほど刃筋が立っている。音もなくホブゴブリンの首が落ちた。なんでこんな非力な女にやられたのかわからない、という表情をしていた。
キャッハーとシオンの歓声。ボクも手を叩く。倒れるホブゴブリンの身体。噴き出すどす黒い血。ミカンさんが半歩引いてそれを避けた。ミカンさん、今度は残心ができてる。動かなくなったホブゴブリンを見極めてから、へなへなと腰が砕けた。息することを忘れていたのかな。ホブゴブリンが昇華し始めると同時に、喉を鳴らして息を吸い込む。巨体が消えるのに10秒。あとに巨大な魔石を残した。8カラットの中魔石。ボクが拾いあげミカンさんに手渡そうとした。するとミカンさんが情けない顔でボクを見あげてくる。
「す。すいません。手が。指が、剣から離れなくて‥‥」
極度の緊張で握りつけていたため、指や手の筋肉が過剰に硬直してしまうことってよくあるみたいで。シオンがニコニコしながら横に座った。剣の柄を握りしめたまま硬直しているミカンさんの指を、1本ずつ引き剥がしてあげてる。その間、ボクは床にめり込んでいる巨大ハンマーを揺さぶってみた。軽い力じゃビクともしない。重すぎて戦利品として持ち歩くのも無理がありそう。このまま放置するしかないだろうな。ボクたちが去ったあとに、リポップした次のホブゴブリンが受け継いで使うだろう。
「すいません。お手数おかけしちゃいました‥‥」
ようやく立ちあがれたミカンさんを伴い玉座に向かう。玉座の後の壁にカーテンで隠された宝の部屋があった。ロココ様式に似た内装の豪華な部屋。ただし布製の部分はひとつもなくすべて石造り。中心に背の高い台座が大小ふたつ。手前の小さな台座の上に金属の小さな紋章がみっつ。紋章の中心に小さな石が嵌っている。これが噂のショートカットの紋章らしい。
「小さいわねー。気をつけないと落としちゃいそう」
「大きさからしたらピアスみたいですね。金具はないけど‥‥」
ボクはひとつ手に取った。
「ふむ」
魔力を微弱に流しながら紋章を耳に押し当てた。耳たぶの上、クルッと丸まった端の部分。耳輪という場所。手を離しても紋章は落ちない。接着したみたいにピッタリと貼りついた。邪魔な感じはない。
「あ。それオシャレね。ウチもそこにしよ」
結局みな同じ右耳に貼りつける。装着が終わったところで宝箱の解除に移る。紋章の置いてあった台座の奥にひときわ大きな台座があって、宝箱が鎮座していた。台座をフェザータッチで叩く。というより触れる。振動で爆発したら嫌だからね。フェザータッチでもエコー画像みたいなイメージが得られた。場所を変えてもう一度。あれ、罠がないような‥‥。また場所を変えて台座に耳を直当てしイメージを得る。
「罠がないよこれ。なんで。ボスのだからかな?」
「ないなら。えい!」
シオンが後先なにも考えない風で宝箱の蓋を開ける。思わず身を引きかけたけど、度胸なしと思われるのが嫌で必死に耐えた。宝箱の中にはフクロウ型のマスコット人形。シオンが手にとってミカンさんに差し出す。
「これってミカンさんの肩のカメラの親戚かな?」
「形状はフクロウですけど、スイッチ類は同じですね。差し込みメモリも同じのがついてます」
「ダブっちゃったね。売りかな。このカメラの相場ってどのくらい?」
「私のこれは200万円で買いました」
「じゃあ、売値160万か。ボス戦のあとの宝箱なのに安いね」
「確定ではないけど、4階層のボス宝箱からはこの『カメラペット』か『言霊のイヤホン』の2種しか出ないみたいだよ。なので、いちばん出回っているダンジョン製品みたいだ。希少価値が低い分、安いんだろね」
「ふーん。その『言霊のイヤホン』ってどんなの?」
シオンが聞いてきた。
「そっちは深堀りする時間がなかったんでよくわからない」
ボクはあっさり認めた。地上ならこっそりルキナと脳内通信して知識をインプットしてもらえるんだけど、ダンジョンだと無理。するとミカンさんが手を挙げた。
「あ。それ。聞いたことあります。ダンジョン内で使える通信システムらしいです。地上でも使えますけど、地上とダンジョン間で話すのは無理だそうです」
「むー。そっちのほうがよかったなー。戦闘とかではぐれちゃっても、それあれば合流できそうだしー」
「そーだね。次のブロックでも経験値あげしながら進むから、そのうち宝箱から出てくるんじゃないかな」
そんなことを話しながらボクたちは部屋の奥へ進み、そこの装飾された扉を開ける。その先は無機質なチェンバーだった。いっさいの装飾がないモノトーン空間。直径にして15mほどの円に内接する8角形。天井が全面、淡く発光していた。中心に転移球体が鎮座している。光を受けても立体感をなさない漆黒。30cmほど床に食い込んでいる。球でなく穴にしか見えない。転移ゲートに慣れたボクたちは迷わず足を踏み入れる。最初にシオン。続いてミカンさん。黒い通路を遠ざかっていくシオンとミカンさんの背中が見える。なんか歪んでいる気がする。水平でも平行でもない捻れた世界。その捻れた暗い通路をふたりの後ろ姿が進んでいく。最後にボク。奇妙な感覚が一瞬身体を通り抜けた。少なくとも数歩は歩いた感覚が脚にあるのに、視界は一瞬で第5階層に足を踏み出していた。脳の記憶に断裂はない。ミカンさんやシオンが歩いて去っていく後ろ姿を見ていたにも関わらず、ミカンさんもシオンも一瞬でゲートから出たと証言する。ワームホールの物理学を石の上に座って3年くらい研究すれば、この変な錯覚現象を解明できるかもしれない。迷子にならず、次の階層へジャンプできたからよしとしよう。
ゲートを抜けたところで、先に出たミカンさんの背に衝突しそうになった。シオンもミカンさんも揃って立ち止まり、間抜けに上を見ている。
「なんだ。どうした?」
「空だよミナト。ダンジョンって地下じゃなかったの?」
「すごー。うーん。太陽がないのにこの明るさ。空は抜けるようなブルースカイで雲まである。ってことは高さ2000m以上ある巨大ドームなのかどこか別の惑星なのか。夜になって星が出たら星座とか探して検証できるけど、そんな検証してる動画はなかったな」
「でも、まさしく異世界ですね。あそこに集落がありますけど‥‥。白樺みたいな植生の森に見たことない大きな三角錐の構造物がいくつも。大きいのは4階建てくらいですかね。こんな風景地球上のどこにもないです」
「昔々、ネイティブアメリカンが使ってたテントみたいねー」
シオンが拾った枝で脇の下生えを掻き分けながらいった。下生えには丸くて濃紺の実がついている。ブルーベリーかな。食べられるかな。とか独り言いってる。
「ティピーっていうやつね。でもあそこのは‥‥布製じゃなくて土壁じゃないかな。蟻塚みたいな」
「『とんがりコーン』が食べたくなってきた。蟻塚の中をくり抜いて住居や店舗に改造しちゃってるのかなー。あれ地上階が開いて‥‥お店になってるよね。カフェの看板出てるし。異世界の風景に表参道のお店が融合してるみたい。日除けのパラソルとか立ってるし。簡易テーブルに椅子も出てる。テラス席っていう感じじゃない?」
ダンジョンにおしゃれなテラス席。うーむ。不思議な光景だ。全身に嬉しい日差しを浴びながら下生えが踏み分けられた道を進む。植生は北欧かな。トウヒにアカマツに白樺って感じの単幹高木。日差しは温かいけど風はやや冷たい。森の香りが吹いてくる。200人ほどの人で賑わう集落へ入った。おしゃれなカフェやベーカリーの看板。三角錐構築物の1階部分を店舗にした路面店。入口にはパステルカラーのストライプで日よけ雨よけの軒先テントが張り出している。ちょっと奥まった小ぶりな三角錐にはなんとラーメン屋の看板が。
「わお。ダンジョンでラーメンが食べられるなんて。ミナト食べよう」
シオンがグイグイ引っ張っていく。しょうがなくおつきあいした。ラーメン店の店先に立ち看板を見あげると、豚骨太麺のオーソドックスな家系ラーメン店だ。しかし写真の横に表示されてる金額が異常だった。ラーメン1杯で5000円なり。とんでもない暴利だけど、まあわからないでもない。ダンジョンに食材持ち込むのは大変だ。トラックに積んでピューッて運んでくるわけにもいかない。転移ゲートの高さは下40cmほどが地面に埋まってる状態だから3.6m。中型車なら楽に入れる大きさがある。だけど、ダンジョンに入った瞬間、エンジンもバッテリーも機能しなくなる。つまりは人の手で運び込むしかない。冒険者として4階層のボスを倒さないとシュートカットの紋章が手に入らないから、命もかかってる。客にしたって単調な携帯乾燥食料バーだけを食べて何日もダンジョンを這い回ったあとでラーメンの匂いを嗅がされたら、5000円でも払うだろう。シオンみたいにがっついても仕方ない。
1万5千円でラーメン3杯を買い、おしゃれなテーブル席に座ってお行儀悪く啜る。ダンジョンに入った時間を起点として数えた時間では現在は真夜中過ぎ。でも起きた時間からの体感的にはお昼。夜食と考えると背徳的なイメージなんで昼ごはんだということにする。美味いもので心が満たされ椅子の座り心地も気持ちよすぎて、すぐは動きたくない気分。
「このあと、どーしようか。ここの三角塔の上の階は宿泊所になってる。部屋を取って休んでもいいし‥‥」
ジャリッと砂利を踏みつけるコンバットブーツの音がした。
「神代湊さんと長内詩音さん、星空蜜柑さんとお見受けします。お食事中、申し訳ありません。自分は陸上自衛隊ダンジョン特殊作戦群A班の分隊長をさせていただいてます、旗島統吾陸曹長と申します。少しだけお時間を頂戴して、お話させていただいてもよろしいでしょうか」
疑問形だけど有無をいわせぬ命令に聞こえる迫力のある声だった。振り向くと筋骨逞しい男性冒険者が4人。絞った鋼鉄ロープで編みあげたようなプロポーションの女性冒険者がふたり立っていた。灰色基調の迷彩柄シャツとパンツ。ヘルメットにボディーアーマー。エルボーパッド、ニーパッドは冒険者調ではなくミリタリー調だ。極めつけは胸のワッペン。白地に赤い丸。こういうときは人見知り発動のボクに代わって、シオンが相手する流れになっている。
「いいですけどー。立ち話もなんですのでお座りくださいまっせー」
ボクたちが座ってる4人掛けの丸テーブルの残り1席に旗島陸曹長が座る。その後に椅子を引いてきたスカーレット・ヨハンソン演じるところのブラック・ウィドウみたいな女性が座る。背中にアーチェリーを背負っていた。なんか見たことあるぞこの方。2016年。いまから12年前のリオデジャネイロオリンピック。ボクの記憶だと韓国勢が圧勝し金メダルを4個独占したはず。なんだけど、ボクの中に融和してるこの世界線での神代湊が、そのオリンピックでは日本の花斗結那選手が女子個人で金メダルを獲得してると主張してた。当時は若干17歳。日本中が大騒ぎになって報道が加熱したせいもあり、よく記憶していた。若く溌剌としていた顔は削ぎ落としたような精悍さに進化していたけど、間違えようがない。残りの4人は隣の丸テーブルに着いた。人見知りといっても必要なことはいう。ボクは小さく手を挙げておずおずと聞いた。
「あのー。周りで気配を消してる方々は、お仲間ということでよろしいんでしょうか?」
旗島陸曹長が驚いた顔をボクに向ける。周囲の買い物客に紛れて4人の男性が気配を忍ばせていた。
「いや。驚きました。気づかれましたか。慧眼です。ダンジョン特殊作戦群B班のメンバーが周辺警戒を担当しております」
「攻撃的な意図がないなら結構です」
ボクはシオシオと引っ込んだ。
「でー。お話ってなんでしょかー?」
「内閣総理大臣より要請をことづかってまいりました」
「え。マジ。内閣総理大臣ってサナ総理のことよね。わー。ウチ、ファンなんよ」
ミーハーシオン。まあ、よくやってる総理だとは思う。抵抗勢力満載な上にダンジョン出現やらで超難しい経済政策をなんとか舵取りできてるし。
「皆様方にもし差し支えなければ、国家の安全保障にご協力願えないかと」
ボクは再び小さく手を挙げた。
「それってつまり、いますぐダンジョンを出て国家機関に軟禁状態で匿われ、いっさいの情報発信を禁じられ、安全保障面で他国より優位に立てる情報をお国のためにだけ吐き出し続ける。端的にいえば情報独占を図るから籠の鳥になれというお願いでしょうか?」
旗島陸曹長が驚いた顔でボクを見つめ、次いで豪快に笑う。
「総理は貴女がそれに近いことをおっしゃるだろうと予見されてました。ですので絶対に強制はせず、あくまで無理であろうお願いとして話すように厳命されています。情報独占を断られた際には直ちに諦め、次善の策として貴女方の護衛として同行することを許可していただく。そう丁寧にお願いするよう指示されました。同行して、可能であれば魔法やダンジョンに関する知見を得ながら協力体制を構築させていただけないかと。ご一考いただけないでしょうか」
「‥‥総理が切れ者っていう噂はほんとうですね。同行をお断りしても勝手についてくる、ってことになるんでしょうか」
「そうですね。あくまで自分たちが進む方向の先に、なぜか貴女たちが歩いているということになるでしょう」
「奇跡的な偶然の一致ですね。うーん。みんなはどお?」
「ウチはべつにどっちでもー」
「私は‥‥心強いかもと思います」
ふたりに異存がないならいいか。
「わかりました。それにしても昨日の今日で‥‥総理が決断速いのは知ってますけど。まだなにか、急ぐ理由とかありそうですが。他の国の動向ですか?」
「神代さんの洞察力は驚嘆に値します。そうですね。昨日の今日ですが、みなさんがアップロードされた情報は国際的に激震を走らせました。ありとあらゆる組織が貴女たちと接触しようと動き出しましたが、奇妙なことに動きかけたすべての組織が国家や民間を問わず不思議な妨害にあって初動が遅れています。情報がおそらく書き換えられているようです。ミュトス級AIのサイバー攻撃に晒されているのではないかと想定されています」
「ミュトスってなんぞや?」
シオンがラーメンの汁をズズズッと飲み干していった。自衛隊さんが真面目に答えると長くなりそうだったのでボクが要約を教える。
「アメリカのアンソロピックっていう会社が創り出したAIなんだ。とんでもない性能でシステムやセキュリティの脆弱性を見つけ出しちゃうもんで、悪用されないよう限定的にしか公開できないっていう猛毒みたいなAIだよ。悪用されたら国のシステムや電気ガス水道なんかのライフライン、通信・交通・医療・金融なんかの重要なインフラ産業に壊滅的な被害を与えることができちゃう」
旗島陸曹長の補足が入る。
「我が国は総理の就任時において立ち遅れつつあったAI産業への予算投下が明言され、以来AI研究開発が活性化しました。日本は『攻性』AIに関しては遅れを取っていたこともあり、ミュトス級AIの攻撃からシステムを護る『防性』AIに比重をおいた研究開発を行ってきました。その成果としてサイバー攻撃からの防御を可能にした『ロゴス』という防衛AIを保持するに至りましたが‥‥その機能を持ってしても神代さんたちの動向を掴むことができませんでした。神代さんたちに協力している攻性AI、あるいはハッカーまたはハッカー集団の能力は驚異です。電子的データから皆さんの動向を探るのは不可能でした。改竄の痕跡もなく書き換えられています。警察や公安の協力も得たアナログな地取り捜査によって、貴女たちを運んだタクシーを見つけ出したに過ぎません。それでこうして先んじてお話させていただくことができたわけなのですが、この世界には話よりも力による解決を好む組織も多いのです」
「拉致ってやつですか。拉致監禁しておいて拷問やら洗脳やら。スマートなところで薬漬けにして情報を洗いざらい吐かせるってやり方ですね」
旗島陸曹長は否定も肯定もしなかった。
「この件に関しては米軍さんも敵対する可能性があります。日米安全保障条約はダンジョン内活動およびダンジョン関連事項に関して適応されないとの認識が示されていますから」
「そんなに隠してる秘密なんてないんだけどなあ。まだ発表してないのは魔法の細部くらいで、それも順次発表しちゃうつもりなんですけど」
「そうだとしてもここまでセンセーショナルな知識を披露した以上、もっとあるはずと思うのも自然でしょう」
ミカンさんが3人分の空容器を返却に行ってくれた。
「他の国や組織でウチらを追っかけてきてるところってありそうなのかな?」
ミカンさんを怖がらせたくなかったのか、ミカンさんが席を外したタイミングでシオンが聞く。
「いまのところ報告は受けていません。B班が先行警戒と周辺警戒、そして地上との連絡役として常にダンジョンから出たり入ったりを繰り返して情報を受けています。なにか動きがあれば通信がくることになってます」
旗島陸曹長が右耳の裏に着けた骨伝導イヤホンのような魔装具を見せてくれる。
「あ。それ『言霊のイヤホン』ってやつねー。あると便利そうよね。このフロアの宝箱から出るといいな」
ミュトスなんて子どもの玩具くらいに思える『ルキナ』っていう量子コンピューターAIが撹乱してくれてるんだから地元の利を活かした自衛隊ほど迅速に追いついてこれる組織はないと思う。けど、なんとなく追われる身のプレッシャーみたいなのを感じるのか、休みたがりのシオンも先を急ごうと提案した。出立の前にボクたちは自衛隊さんのA班メンバーを紹介される。分隊長が旗島統吾陸曹長。30は超えているな。鷲のような精悍なお顔。178cmのがっしり体型。副長が日向颯真1等陸曹。こちらも30歳超えてる感じ。180cmの偉丈夫。剣道5段だそう。花斗結那1等陸曹。2016年オリンピックのアーチェリー金メダリスト。出場時の年齢からすると現在29歳。絞りきった女性アスリート体型の174cm。柾木理人2等陸曹。170cm。動きに隙がないマーシャルアーツの達人。姫宮瑠香2等陸曹。163cmとやや小柄だけど鋼鉄ワイヤー筋肉みたいなポテンシャル。動きが滑らかで女忍者みたい。剣道2段でアーチェリーも使える。全員20代後半から30代のメンバーの中で若く見える和楽利哉2等陸曹。「わー。特殊部隊なんてお若いのに凄いんですね」とシオンが持ちあげて聞き出した年齢が26歳。177cm。芸能界に行けるほどの超イケメン。
「ところで。ボクたちはミカンさんのカメラで全行程を記録してます。もしネットに公表するとなったら顔バレしますけどいいんですか?」
「特殊作戦群は通常、存在自体が最高機密です。できれば編集で顔を秘匿していただけると助かりますが、無理にお願いしなくてもよいと命令されています」
「それも総理の指示ですか?」
シオンが聞いた。旗島陸曹長がうなずく。総理の予見の深さに感心した。選挙権をもらえたら次の選挙で1票入れよう。
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イラストはChatGPTで作成してます。




