31.変幻と帰還
「っ、うー」
頭がボーッとする。
寝起きはいいはずなんだけどね、と思いながら起き上がった。
髪を手櫛で梳かしながら辺りを見回す。
大きな木が一本ある以外、何もない。
まっさらな平原だ。
草が三日月の細いあかりに照らされて輝いている。
「んー、なんかものすごくデジャヴ。」
この世界に来た時もこんな感じだった気がする。
時間は違うけどね。
クラス転移して、みんなと別れて、ドラゴンテイムして、捕まっちゃって、脱出して、白ローブと……
「はっ、なんか忘れてたと思ったら!マル君、アイ、ジン!どこ?」
物理攻撃で飛んで気絶した仲間たちを思い出して自分の薄情さに肩を落とす。
パッと立ち上がると足元からミギャッという悲鳴が聞こえた。
慌てて下を見ると痛みに目を白黒させる猫耳少年とその声で起きた犬耳少年とアホ毛少女がいた。
というかなぜ気づかんかった私。
「「「「え、誰?」」」」
目が合った私たちは異口同音で呟いてしまった。
少し時間が経って混乱をおさめる。
「よし、じゃあ自己紹介から始めようぜ!」
「……待って、予想するね。口調的にジンだよね?!」
「えー、そういう知り合いがいるのー?私にもいるよー。犬の耳は生えてないけどねー。」
「!アイにゃん!……?!噛んだだけ……にゃ」
んー?犬がジンでアホ毛がアイで猫が消去法でマル君?
「名前合ってるぜ、嘘だろ?マルトとキョウとアイなのか?」
「マルトー何その口調ー?にゃって!」
「そそそそんな事言うつもりはない!勝手に出ちゃうんだ……にゃ、」
マル君は口をつぐんだ。
ジンが爆笑してる。
「なんかますます異世界ファンタジーなんだけど」
「現実味なさすぎるねー」
アイは紫色の髪も短く結んでいて、二本のアホ毛が生えている。
瞳は黄緑色だ。
日本人ではあり得ない色彩に驚く。
マル君は白に近い灰色の髪の中から濃い灰色の耳が生えていて瞳は深緑、猫の尻尾が生えている。
こちらも日本人で(以下略)。
ジンは赤茶色の髪にピンと立った犬の耳が生えていて、燃えるような紅色の目をしている。
フワッフワのしっぽがかわいい。
というかこれは犬ではなく狼では?
自分の姿はわからない。
「俺は狼、マルトは猫、アイは、「鳥ー!」鳥、キョウはドラゴンか。」
「え、ドラゴンになってるんだ。」
「ジンは犬じゃないのー?」
「狼の方がかっこいいだろ?」
「そういうので決まるんだにゃ?」
諦めたように普通に喋り出したマル君にジンが肩を震わせる。
私はそんな二人を無視してジンの背後に近づいた。
「つぅかまえた!」
「うおわっ!」
フワッフワのしっぽに抱きついてジンが飛び上がる。
「うわぁ本当にふわふわ!」
「にゃ、俺も。」
マル君はわたしの尻尾――飛びつかれてからあることに気づいた――に飛びついてゆっくりと撫でた。
アイも便乗してマル君の尻尾を掴む。
一通りモフモフを堪能した後、手を離すと疲れたというようにジンがへたり込む。
私たちも座るとアイが口を開いた。
「メニュー確認したー?姿の変貌だけじゃ終わらないと思うよー」
「一理あるな。じゃあ、確認後共有で」
みんなで声を揃えて呪文を唱える。
開いた薄い水色の板から迷わず魔法のところを押す。
「精霊魔法:全lv.1」
(癒しの軌跡・祈りの軌跡・星の軌跡)
一つ魔法が増えた。
次にスキルだ。
「テイムlv.5」「調教lv.2」「長剣lv.2」「魔力回復lv.6」「魔力感知lv.4」「気配感知lv.4」「恐怖耐性lv.5」「体力補正lv.3」「使用魔力軽減lv.3」「主従全能力ボーナスlv.1」「触覚鋭敏化lv.1」「ドラゴンの寵愛者lv.1」「魔導書の主lv.1」
おお、結構増えてるしレベルも上がった!
「じゃあ共有するぜ!『マグナムウェポン』からの『サンダー』!魔法剣士の出来上がりだぜ」
手斧だったものが戦斧のサイズに変化して、魔力の雷を纏う。
確かに使ってなかっただけで魔力はあったからね。
私がジンの魔力を吸ってクッションを作ったのがいい例だ。
というかあの時、卵蛇が魔力飴を作ってくれたらジンは腕を怪我しなかったのでは?
視線で卵蛇を問い詰めようとしたけど、次という声がしたから諦めた。
「『ダークボンド』ー、マルトー乗ってー。」
「了解、にゃ。……名前から予想はできていたにゃ。最近の役回りがこんなのばっかりでつらい!」
黒い水たまりができて、それに足を踏み入れると足元が透明に固まった。
マル君の透明な靴下を剥いだら、小さな声でお礼を言われた。
「じゃあ、次にゃん。『マジックミラー』。」
小さな鏡が現れて、マル君の目の前で浮く。
マル君は手で四角を作っている。
四角を大きくすると鏡も大きくなった。
四角を消すと消えちゃうらしい。
魔法を一回跳ね返すのだが、手が使えないから別の魔法を打つことはできないし、前も見えない。
色々制約が多い。
「へぇ、こんな姿になってたんだな。」
ジンの声がして、私も鏡の中を覗き込む。
青よりの銀髪で、白ローブに切られた影響でおかっぱ。
蒼色の瞳は澄んでいる。肌も前より白くなってる気がした。
何よりも違うのは銀髪の中に埋もれるように生えた黒色の小さな角。
小さいが、隠せるものではない。
尻尾と羽も生えた。
白ベースで羽の膜に薄い水色が使われている。
正に白竜、そんなイメージだ。
「じゃあラスト、キョウだな。」
「おーけー!『星の軌』」
「うんわかったにゃ口を閉じて魔力を発しないで攻撃対象をつくんないでにゃん!」
「うーわ、とうとうこいつができるようになっちまったか、悪夢再びって感じだな。」
「これで魔力酔いして倒れた気がするー……しばらく封印でよろー」
「えー?折角使えるようになったのに。」
むぅっと唇を曲げるけど、三人の引き攣った顔は戻らない。
「じゃ、こんな感じでおっけーね。帰りましょ!」
「おう、精神的には最後のやつが一番きつかった気がするにゃ。」
「村の人に怪しまれないといいねー」
「たまには徒歩で帰るってのもいいな。」
私たちは細い月明かりを背に歩き出した。
一章はこれで終了です!
本日二十二時に二章開始します!