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A gohst in the warehouse(4)

「……アン様!」


 梯子段を登ったわたしは、恐る恐る2階に顔を出した。すると、そこに広がっていたのは、1階とは打って変わって雑多な景色で――


「め、迷路?」


 その光景にわたしは戸惑った。


 倉庫の2階に広がっていたのは、山と積まれた家具と、あちこちに散乱した農具の数々。

 その様子はまさしく迷路。


「あ~……と、とりあえずは……うん」


 ゴーストはいない。そう感じたわたしは、おっかなびっくり2階へと上がった。


 実はこの倉庫、修道院の規模からすると、分不相応に大きな代物だ。


 どうせ権威至上主義のあれ(・・)な連中が、自分たちの虚栄心を満たすためだけに造ったんだろう。――わたしはそう思っていた。

 けど、これだけの物が詰みあがっているのを見ると、あながちそうでもないらしくて……


「……て、なにこれ? ほとんど新品じゃない」


 わたしは修道院のいい加減さに呆れた。

 使いもしない物を、よくもまあこんな大量に抱え込んだもの。こんなムダなことばかりしていたら、そりゃあ経営危機にだって陥るでしょうよ。


「ま、今はそれはいいわ。それよりもアン様は……」


 わたしはアン様を探した。

 けど見つからない。どうやらもっと奥の方まで行ってしまったらしい。


「ア、アン様~……どこですか~?」


 わたしはギリギリ大きな声で呼びかけた。

 ここにはアン様がいると言っても、ゴーストもいるのだ。

 アン様は、あれはゴーストじゃないと言っていたけれど、わたしにはゴーストにしか見えなかった。警戒するのに越したことはない。

 すると、向こうの方から――


「こっちだよ……キミも……早く来たまえ……」


「あ、あらぁ……? その声はもしかして……ですかぁ……? 困りましたねぇ~……」


「うそでしょ……」


 返ってきた言葉に、わたしは怯えた。


 なにこの気味悪さ。これ、ホラー劇なんかでたまに見かけるヤツっぽいんですけど?

 さっきのゴーストの件もあるし、これはもう完全にアウト。誘いに乗っちゃいけないヤツじゃない。


「アン様~……わたし、そっちに行くのはちょっと……申し訳ないんですけど、そちらから来ていただくことは……?」


 わたしはアン様を呼んだ。そうだ。こっちから行くのがアウトなヤツなら、向こうから来てもらえばいい。

 まあ、そうやって呼んだ結果、やって来たのがアン様じゃない(・・・・・・・)別のなにか(・・・・・)って可能性もなくはないんだけど。


「おや……? 来ないのかい……? うう~ん……残念だよ……名探偵ボクの助手……つまり……ボクの横に並ぶ資格があるのは……キミ以外にはないと思っていたのに……」


「はいっ! やっぱりこっちから行きますっ!」


 アン様の言葉に奮起したわたしは、色んな悪感情を全部吹っ飛ばしていた。


 ◇◆◇


「――とは言ったものの……」


 ギッ……ギッ……と、1歩ごとに床が軋みをあげる中、独りぼっちのわたしは、この2階のどこかにいるはずのアン様を探し求めていた。


「あれ……? こ、これ……? ――わっ!」


 なんでもないただの影に怯えては歩みを遅らせる。

 アン様の言葉に勢い込んで出てきたとはいえ、やっぱり怖いものは怖い。


「――て。なんだただの鎌じゃん。 あ。これ……や。ダメね」


 わたしは見つけたばかりの農具をポイと放り捨てた。

 護身用に、なんて思ったりもしたけれど、ゴーストが相手ならそんな物が通用するわけがない。


「ア、アン様ー。どこですー?」


 不安が一定値を超えてきたわたしはまたアン様を呼んだ。すると、どこからかアン様の声が聞こえてきて……


「こっち……こっちだよ……キミも早く来たまえ……フフ……」


「うそでしょ……」


 なにその返事。なんでそんな不気味そうに答えるの?

 と言うかこれ、本当にアン様なの?


 ギリギリのテンションの中、それでもギッ――ギッ――と、慎重に歩みを進める。


 念のために言っておくと、わたしは別にビビりじゃない。

 これでもアン様にお仕えする以前は、仲間内じゃ頼りがいのあるリーダー様として通っていたのだ。

 まあ、そうやって好き放題やっていたら、両親からおいた(・・・)が過ぎると咎められて、行儀見習いに出されちゃったんだけど……


「でもまあ、そのお陰でこうしてアン様と巡り会えたんだし! これってもう運命じゃない?」


 わたしは自身の幸運を誇った。

 そうだ。よくよく考えてみたら、ゴーストなんて、所詮は未練たらたらに死んだ人の慣れの果て。ガッカリな人生を歩んだガッカリなヤツの搾りカスみたいなものじゃないか。


 そこ行くと、わたしはどう?

 そこそこの家庭に生まれて、それなりの教育を受け、今こうしてアン様にお仕えできている。


「はっ! そうよ! 考えてみたら、わたしって超勝ち組じゃない! そんなわたしが、ゴーストを恐れる?」


 一体なにに怯えていたのか。今までのことがうそみたいに気力が湧いてくる。


「大体ゴーストの分際で、倉庫の物資に用があるとか頭おかしいんじゃないの? あそっか。もうおかしくなる頭がなかったんだっけ? ゴメーン。あっはははは――」


 散々ビビらされた(?)腹いせ(??)に、言いたい放題のわたし。

 でも実際おかしいのだ。

 実体のないゴーストが食料とかを持ち去るだなんて。


 と、その時――


「見ぃつけたぁ……」


「ぎゃ――!」


 背後からぽんと乗せられた肩の感触に、わたしは防御姿勢を取った。


【登場人物とか】

アン王女      ……ローレンシア王国第8王女。ボクっ娘15歳。星彩の花

サイラス      ……ヘーゼル侯爵家嫡男。オレ様系18歳

ミセス・アラン   ……アン王女のメイドを束ねる婦長。しっかり者系三十路(アラサー)

アボット      ……ノースケイプ修道院の院長。小太りの中年

エラ        ……アン王女のメイド


わたし       ……アン王女のメイド

バスティアン    ……サイラスの執事。腹黒系


ローレンシア    ……西の方にある小さな島国

ノースケイプ修道院 ……ローレンシアの最北端にある修道院


タイトルについて……倉庫の幽霊。「phantom(ファントム) inventory(インヴェントリー)」のこと。


【更新履歴】

2024.10.11 微修正


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