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A gohst in the warehouse(3)

「え? えっ!? えええっ!?」


 人が消えた。そんなあり得ない光景に、わたしは混乱した。


「な、なんですか今の!? もしかして、ゴースト(・・・・)!?」


 思いがけずそんなセリフが出て来る。


「……倉庫の中には誰が?」


 どうにも落ち着かないわたしに、冷静なアン様が尋ねた。


「え? あ。エラがいるはずですけど……」


 わたしは答えた。

 そう。あの倉庫の中には、わたしの同僚エラが見張り役と隠れているのだ。


「うん。じゃあ行こう」


「行こう? って! ええっ!?」


 行こうとするアン様に、わたしは慌てた。


「ちょ。ちょ、ちょ! 待ってください! そんな、本気ですか!?」


「勿論さ。キミだって見ただろう? 例のあれ(・・・・)が倉庫へと入って行くところを。そして、その倉庫にはエラがいる。なら、追わない理由はないじゃないか」


「それはそう……です……けど……」


 ビビり散らかしていたわたしは逡巡した。

 だって相手が悪い。ゴーストなんて、何の準備もなく相手にできるような存在じゃないのだ。

 そもそも、わたしたちは聖職者でも冒険者でもない。だから当然そんなのの対処の仕方も知らないわけで。


「あ、相手はゴーストですよ?」


「ははは。心配いらないよ。こう見えてボク、強いし」


 一体なにがどう強いの? ムダに自信家なアン様。


 けれどそのアン様は、煮え切らないわたしに見切りをつけたのか、独り倉庫へと向かってしまう。


「あ、ちょ。アン様」


 とり残されそうになったわたしは、アン様の後を追った。


「おや? 別にムリせず待っていてくれても良かったのだけど?」


「こ、これでもわたし、アン様のメイドですし? 主人が危険を冒そうとしている時に、指をくわえて見てるだけなんてそんな――」


「……ねえウイン」


 立ち止まったアン様が、わたしを見つめた。


「キミはもしかして……」


「ひゃ、ひゃい……」


 彼女の真剣な眼差しに、思わず射すくめられたわたし。

 なに? アン様のこの情熱的な瞳は?

 あ。もしかしてアン様。やっとわたしへの想いに気が付いて……


「メイドの仕事、好きなのかい?」


「え? あっはい。まあ……」


 わたしは素に戻った。


 はいはい。分かってましたよ。アン様がわたしにとか、そんなことあるわけないってことぐらい。

 でもアン様って、ホントどうしてこうなんだろう?

 わたしは結構ストレートに彼女への親愛を伝えているつもりなのに、アン様がそのことに気付く様子はない。


 まあ、王族様なんてのはそんなものなのかも知れないけど、それにしたって、さすがにちょっと鈍すぎじゃないだろうか?


「……別に見返りが欲しいとかじゃないけど……もうちょっとわたしのことも見て欲しいって言うか……」


 あともうほんの少しだけでもわたしの気持ちに気付いてくれれば、わたしはもっと頑張れるのに。


「あ。でも待てよ……あんなに賢くて愛らしいのに、他人の感情にはちょっと鈍いアン様………うん。それはそれで……う、うへへへ……」


「――イン――ウイン」


「え? あっはい!」


 ちょっとトリップしかけていたわたしは、アン様の呼びかけで、我に返った。


「鍵、開いたよ。それにしてもキミ、やっぱりここで待った方が……」


「ご、ご冗談を! ここまで来て引き下がれますか!」


「……まあ、そこまで言うのなら、ボクもムリに止めはしないけど」


 アン様はそう言うと、倉庫へと足を踏み入れた。




「やあ、エラ。すまないが出て来てくれないかい? 2、3、確認したいことがあってね」


 月明かりしか頼りのない倉庫の中。アン様の声が響いた。


「その声、ご主人様(マスター)ですかぁ? すみませんが今ちょっと手が離せなくてぇ。申し訳ありませんが、あとで伺いますので、お引き取りいただけませんかぁ?」


 天井の方から応答の声。


「この声……2階ですか?」


 わたしは言った。

 でもエラ、どうして2階なんかにいるんだろう?

 この倉庫。2階もあるにはあるけれど、あっちに置いてあるのはデスクとかベッドとか大きめの家具ばかりで、今回の事件には関わりがなさそうなのだ。

 それに見張りをするなら、侵入者の出入りを確認できる入口の近くにいるべきだろうに。


「……と言うか、よく分からない理由で主人を追い返すなっての」


 わたしは心得違いをしているエラに憤った。

 けれど、そんなわたしとは対照的にアン様は、


「とりあえず、上がろうか?」


「ぅえ? あ、ちょ――」


 一切ためらわないアン様だ。


 この方、物事を訝しむとかしないの? なんの躊躇もなくさっさと梯子段に手をかけている。


 けど、わたしがそうこうしている間にもアン様は2階にあがってしまい……


「やあエラ」


「あ、あらぁ? ごきげんようご主人様(マスター)。今手が離せないので、申し訳ありませんが、回れ右してくださると助かるのですがぁ……」


「ハハハ。その様子だと、どうやら首尾は上々だったようだね」


 2階から降ってきたアン様の声に、わたしはあとを追った。


【登場人物とか】

アン王女      ……ローレンシア王国第8王女。ボクっ娘15歳。星彩の花

サイラス      ……ヘーゼル侯爵家嫡男。オレ様系18歳

ミセス・アラン   ……アン王女のメイドを束ねる婦長。しっかり者系三十路(アラサー)

アボット      ……ノースケイプ修道院の院長。小太りの中年

エラ        ……アン王女のメイド


わたし       ……アン王女のメイド

バスティアン    ……サイラスの執事。腹黒系


ローレンシア    ……西の方にある小さな島国

ノースケイプ修道院 ……ローレンシアの最北端にある修道院


タイトルについて……倉庫の幽霊。「phantom(ファントム) inventory(インヴェントリー)」のこと。


【更新履歴】

2024. 7.15 エラの台詞変更

2024.10.11 微修正


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