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12/23

A gohst in the warehouse(2)

 1ヶ月後。

 月が綺麗な真円を描いた日の夜――


「なんでこんな事してるんだろうな、わたし……」


 独り外に出ていたわたしは、職務外の作業にため息を吐いていた。


「うー、にしても思ったより冷える……こんなことなら毛布ぐらい持ってくればよかった……」


 そう言って身震いする。

 何も持たずに来ちゃったのは自分自身の落ち度だとは言え、この寒さはちょっと耐え難い。わたしは、向こうに見える倉庫に、恨めし気な視線をぶつけた。


「怪談話じゃあるまいし、倉庫の物資がひとりでに消えるなんて、そんなバカなこと……」


 わたしがこんな真夜中に外で寒さに耐えているのは、例の「倉庫のゴースト」について手がかりを得るためだ。


 1月前。院長の話だけじゃどうにも要領を得ないと判断したわたしたちは、アン様の指図の元、次の満月を待って、情報を収集することにしたのだ。

 そして、今日という日がやって来たのだけど……


「でもこれ、探偵の助手ってよりは、衛兵の役っぽいわね」


 自分の役割を顧みたわたしは、ふとそんなことを思った。


 と言うか、そもそも探偵って、基本的に観察眼と推理力で事件を解決に導くものでは?

 なのに名探偵(・・・)アン=シャーロットは、あろうことかそれら探偵にとって必須とも言える武器を全部ぶん投げて、見張りを置くとか言う力技で勝負しようとしている。


「……ま、いっか」


 わたしは深く考えるのを止めた。

 だってアン様だもの。そこにいるだけで尊いのだもの。なら、そんな彼女が何かを演じようと言うのであれば、それがたとえ探偵だろうが衛兵だろうが、そんなことは些細な問題でしかない。


「あ~、でもどうせアン様が活躍なさるんなら、もうちょっと出番のある役でも良かったかも」


 わたしは与えられた役に不満を持った。

 ただの見張り。これじゃアン様と一緒にいられる時間が少なすぎる。


「おや? そうなのかい? ボクはまた、キミはこういう地味目な役の方が好みなんだとばかり……」


「そりゃまあ、あんまり目立ちたくないってのはその通りですけど……」


 わたしは答えた。

 確かにその通りだ。わたしは目立つことを好まない。

 だって、アン様の魅力を最大限堪能するためには、わたし自身の存在を可能な限り消す必要があるのだ。

 だから、なるべく地味に。なるべく慎ましく。それでいて仕事ぶりは有能に。アン様に仕えるにあたって、わたしがもっとも気を遣っている点はそこで――


「――て、アン様!?」


「やあ」


 突然のアン様の訪問に、わたしは目を剥いた。


「どうしたんです!? アン様はわたしたちから連絡があるまで、ミセス・アランと一緒に部屋で待機って!」


「小用にかこつけて出てきたんだよ。やっぱり舞台は主役がいないと締まらないと思ってね」


「そんな……」


 わたしは脱力した。

 ミセス・アラン。お目付け役を自ら買って出たはずなのに、まんまと出し抜かれてる。

 彼女、誰よりも朝が早い分、夜は苦手だと言うことなのか。


「で、首尾はどうだい?」


 アン様はわたしの横に陣取るとそう尋ねた。


「あ……まあ、今のところは異常なしです」


 突然降って湧いた密会イベントに、ドッキドキのわたし。


 満月の晩。二人きり。寒がるわたしを、自らの温もりで優しく温めてくださる(かも知れない)アン様。場所はちょっとアレだけど、それでもこれだけの条件が揃ったのだ。


(ごくり)


 既成事実が目の前に転がっている。わたしは生唾を呑んだ。

 あとはもう、わたしがあと一歩を踏み出せば! ほんのちょっとの勇気を出しさえすれば!


(ちょ、落ち着きなさいって! もしそんなことしたら、アン様の傍にいられなくなっちゃうわよ!?)


 一歩を踏み出しかけたわたしを、もう一人のわたしが叱責した。


 そうだ。もしそんなことをしてしまえば、アン様の傍にいることができなくなる。

 それがいやだからこそ、わたしは――Yes アン様! No touch! ――を日ごろから徹底しているのだ。


「ふぅ、危ない危ない。危うく一線を超えるところだったわ」


 寸でのところで踏みとどまったわたしは、安堵した。

 すると、


「しっ! 黙って」

「ア、アン様!?」


 突然アン様がわたしの口を塞いできて、わたしは固まった。


 まさかアン様も同じことを考えて? でも、そう言うことなら、もう我慢なんてする必要ないじゃない。


「アンさ――!」

「キミにも見えるかい?」

「――まぁ♡ って、え?」


 アン様を求めようとしていたわたしは、またしても動きを止めた。すると、倉庫の方に何かが近づいて行くのが視界に入って――


「人……?」


「うん」


 月が叢雲の影になって見えにくいけれど、小柄な人のような影が倉庫に向かって行くのが見える。

 そしてその人影は、入り口の前に立つと、キョロキョロと辺りの様子を窺っている。


「1人、でしょうか?」


「ふふ、さあどうだろうね?」


 警戒心をあらわにするわたしと、好奇心をあらわにするアン様。

 するとその人影、わたしたちの存在には気付かなかったらしく、倉庫の扉に手をかけて――


「え? 消えた!?」


 わたしは目の前で起きた出来事に、自分の目を疑った。


【登場人物とか】

アン王女      ……ローレンシア王国第8王女。ボクっ娘15歳。星彩の花

サイラス      ……ヘーゼル侯爵家嫡男。オレ様系18歳

ミセス・アラン   ……アン王女のメイドを束ねる婦長。しっかり者系三十路(アラサー)

アボット      ……ノースケイプ修道院の院長。小太りの中年


わたし       ……アン王女のメイド

バスティアン    ……サイラスの執事。腹黒系


ローレンシア    ……西の方にある小さな島国

ノースケイプ修道院 ……ローレンシアの最北端にある修道院


タイトルについて……倉庫の幽霊。「phantom(ファントム) inventory(インヴェントリー)」のこと。


【更新履歴】

2024. 7.15 警官を衛兵に変更

2024.10.11 微修正


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