家出
「あなた、よっぽど犬好きなのね?」
「う、うん、まあ……」
とはいえ、天空岩では野生の犬を時折見かけるぐらいでほぼ接点がない。なんとか頭の中で犬の情報を引き出す。
「私はスティナ。あなたは?」
「ヤイノ」
「ヤイノは犬飼ってるの?」
「い、いや…… 天空岩には飼われてる犬はいないよ。空から林の中で野良の犬を数匹見たような記憶しかないから……」
「空から? あなた、飛べるの?」
スティナの目はきらっきらっに輝く。ヤイノの翼を見ているようだ。
「う、うん、まあ、翼があるし」
「いいなー」
ここで『じゃあ一緒に空飛んでみようか?』とか言えるほど、ヤイノは度胸がなかった。
頭の中で何べんもそのフレーズを繰り返してみたが、とうとう口にすることはできず……
* * *
メノウは激怒した。
大好きなイチゴジャム、今朝、トーストに塗って食べようと思っていたのに、ビンの中は空っぽだった。
「最後のジャム、父さんが食べてやったぞ」
唖然とするメノウに、犯人である父親はドヤ顔で言ってのけた。
頭に来たメノウはそのまま家を飛び出した。
――家出してやる!
そう決意した。
メノウは、テッドの舟に住んでいる竜人の少女だった。
テッドの舟は一つの街で、シュミットのような研究所に住んでる者だけでなく、普通の(?)家族も住んでいた。
メノウは飛びながら、テッドの舟に隣接している天空岩を目指していた。
だが、ふとゲートが目についた。
ゲートはテッドの舟に一つあった。それは扉のついた四角い長方形の小さな建物。
魔法の強い者が使え、異世界へ行けるのだという。
テッドの舟へ飛んでいくより、この扉で異世界へ行った方が手っ取り早い気がする。
メノウは、ゲートの前に降り立つ。
扉に手をかけみようとしたその時、ゲートが揺れ出した。
勢いよく、扉が開き、中から獣が飛び出した。
「きゃあ!」
メノウは思わず悲鳴を上げ、空へと飛び立つ。
宙に浮いた状態で下を見ていると、獣は真っすぐ魔導エレベータの方へと走った。




