ルームシェア
* * *
テッドの舟の中は、いわゆる小さな街だった。
魔導エレベータで帰って来たアッゼは、テッドの舟の中をふらふら歩いた。ふと遊園地にたどり着く。何の気はなしにブランコに座って揺れていた。
アッゼは竜人だった。
十数年前の大噴火の日、翼のないアッゼは建物内に取り残された。
それを助けに来たのが、シミュレーションドールの少年だった。
名前は……?
居住区は廃墟どころかきれいに整備されていた。
そこに住んでる少年はシムと名乗った。
アッゼの記憶にあるシミュレーションドールの少年で間違いないと思ったが、違う名前だった。
まったくの別人なのか?
居住区が整備されていて住人がいたことは嬉しいはずなのだが、アッゼはどこか空しさも感じていた。
* * *
研究所と呼ばれる建物で、彼らはルームシェアのような生活をしていた。
リビングで、シュミットは朝食の準備をしていた。
そこへマーキュアとシズクが来た。
「もう直ったの!?」
シュミットは目を丸くする。
そんなシュミットにシズクはにこりと微笑む。
「充電系の異常ね。オーバーワークのし過ぎよ」
マーキュアは調理台のいるシュミットを押しのけ、コーヒーを淹れる。
一応は三人分のコーヒーを淹れ、自分の分のブラックコーヒーをがぶがぶ飲んだ。
徹夜したようだ。
シズクはシュミットを手伝う。
そこへアッゼが来た。
アッゼはシズクを見て少し驚いたが、事態を飲み込めたようだ。
「天空岩のシミュレーションドール?」
「ええ。名前はシズク」
シズクは出来上がった朝食をテーブルに運ぶ。
トーストと卵焼きだ。
「アッゼ・ランカード。居住区に住んでた。――居住区のシミュレーションドールのこと覚えてるか?」
「……えぇ」
シズクのその答えに、アッゼは緊張した。
「その子の名前は?」
「……」
シズクは頭を抱えた。
「忘れてしまったみたい。男の子なんだけど……」
シズクはすまなそうな顔をした。
「……そうか」
「まあ、そう気を落とさないで。あの大事故で助かっただけでもラッキーだよ」
シュミットはテーブルに座り、みんなに朝食を食べるよう促す。
「記憶がなくなるぐらいしょうがないよ。リューオスだってシズクのことは覚えてるのに、僕のことは忘れちゃったみたいだし」
「そうか」
「竜人と人間のハーフの僕のこと忘れるかな」
今のシュミットはいつもの色付きグラスをつけていない。オッドアイの持ち主は怒っているようだ。
ひとまずここでひと区切りです。次の更新は数日後の予定です。




