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騎士団長は、息子を知る

 騎士団長のガルバスはルミナスが行方不明になってから、ずっと休まずに捜索を続けていた。しかし一向に見つからないまま夜が明ける。

 ガルバスは一旦仮眠をとるために、自分の屋敷に戻ることにした。



 屋敷に着くと、早朝から息子が庭で鍛錬をしている姿が見え、息子もこちらに気づき駆け寄ってくる。


「父上!おはようございます!」


「…ああ、おはようラージス。」


 ラージス・ナイゲルト

 ガルバスと同じく赤い髪は短く刈り上げられており、瞳は母親似の青い色をしている。優しげな目つきのラージスは、性格も優しくガルバスにとって愛する一人息子だ。学園卒業後、騎士団の入団試験を控えているため学園在学中もしていた鍛錬に、熱がはいっていたのだろう。早く起きて鍛錬をしていたためか、顔や体は汗だくだ。シャツとズボンを着て右手には修練用の木剣を持っている。


「今は一体どんな任務をしているのですか?」


 ガルバスが朝方帰って来たので気になったのだろう。ラージスの質問にガルバスが答える。


「ルミナス嬢の捜索任務だ。」


 ルミナス嬢を探しているのはまだ公にはされていないが、箝口令を国王が引いている訳ではない為、関係者から話はすぐ漏れていくだろ…それに息子もすぐに騎士団の一員に…。


 しかし、そう思っていたガルバスは、次に放った息子の一言で一気に全身の血の気が引いたような気分になる。


「あの女ですか?犯罪者として騎士団で捕まえるのですね!」

 ラージスは満面の笑みで話す。


 ―――ガルバスの表情がガラリと変わった。



『ご子息は学園生活のことを、何かお話ししていましたか?』

『今回の王子の愚行は、私たちの息子も責任があると思うのです。』

 宰相の言葉がガルバスの頭に過ぎる。



「ち…父上…?どうかしましたか…?」


 ラージスもガルバスの変化に気づいたのだろう。ガルバスは先ほど息子に見せていた、柔らかな表情を消し、まるで敵を前にしたかのような表情をしていた。

 ラージスは鍛錬でかいた汗が一気に冷え、体が強張る。


「……ラージス、剣を構えろ。」


「は、はぃい!」

 ガルバスの静かで怒りの含んだ声を聞き、慌てて剣を前に構える。返事をする声は焦りで上ずっていた。


「いくぞ!!」


 ラージスが剣を構えたのを見てガルバスは瞬時に地を蹴り、素手でラージスに向かう。ガルバスは稽古の際、ラージスに対して甘えなど許さず容赦はしない。ラージスが成長できるように、という厳しくも愛情が含まれていた。


 しかし今は明らかに稽古の時とは違う。

 なぜならガルバスは殺気を放っていたためだ。


 ガルバスの殺気を受けて、ラージスはガルバスが向けてきた殺気に抗うべく必死に足を動かそうとする。


 しかし足は動かない。


 ラージスは恐怖により一歩も動けなかったのである。そんな息子の為なのか、ガルバスはただ真正面から拳を放つ。謂わゆる正拳突きである。


 パァン!と音が辺りに響いた。


 その威力は騎士団長の強さを再認識させられる程であった。

 ラージスの構えていた剣は柄の部分だけを残し、他は粉砕されていたのである。しかもラージスに怪我は一切無かった。この動作全てにおいて、ガルバスの戦闘技術の高さが分かる。


 呆気にとられるラージスだが、ガルバスが再び拳を振るおうとするのが視界に入り、半分になった剣をガルバスに投げつつ距離をとる。


 しかし、これは騎士団を目指す者の行動としては余りに滑稽であった。


 その姿を見たガルバスが、立ち止まってラージスに話しかける。



「ラージス…先ほど言った言葉を取り消せ。」


「は、はぁ…。…先ほど、とは…?あの女がはんざ…」

「ラァージィス!!!!」


 息も絶え絶えなラージスに対し、ガルバスは一つも呼吸を乱していない。

 そして、ラージスが先ほど言ったルミナスに対しての事を再び言おうとした為に、ガルバスは名前を叫んでラージスの言葉を打ち消す。


「ラージス…!ルミナス嬢を敬意のカケラも持たぬ呼び方をしおって…!しかもルミナス嬢を犯罪者呼ばわりなど…!お前は何か理由があってそのような事を言うのか?犯罪者というからには証拠があるのか!?」


「い、いえ…証拠は無いですが、間違いありません!学園でクレアに対する数々の暴言に、クレアは暗殺者に襲われたとも話してくれました…!クレアが無事だったから良かったものの…あの女は卑劣極まりない行いをしていたのです!クレアは身分の高い方に対し強くは言えない、と泣きながら私に話てくれたのです!」



 ―――またクレア嬢か…!


 ガルバスはラージスの声に耳を傾けながらも、マーカス王子に引き続き、自分の息子もクレア嬢に惚れ込んでいると知る。



 なんという事だ……。

 今まで一体息子の何をみていたのだ私は…。



 ガルバスは拳を、爪が食い込み血が滲むのも構わず握りしめる。


「ラージス、歯を食いしばれ。」


「え?」


 ガルバスの言葉に意味が分からず、父上…と言葉を発しようとした、その瞬間。

 ガルバスが先ほどよりも早くラージスに詰め寄り、右腕の拳を頰に向けて殴った。




 ラージスは勢いよく吹き飛び「お前を騎士団に入れるわけにはいかない。」とガルバスの声を聞きながらその場で気を失った。


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