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僕の完璧な先輩は、実は完璧じゃない。  作者: 藤宮 透子


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第一章 甘い夢

初めまして。 この作品を読んでいただき、ありがとうございます。 初めての投稿ですが、楽しんでいただければ嬉しいです。 よろしくお願いします。

春人視点


生徒たちが友達と笑いながら校門へ向かう中、俺は階段を下りていた。


「春人くん、今日は帰るの?」


靴を履き替えながら、友人の斉藤が声をかけてくる。


「いや。今日も残るよ。」


「放課後、いつも一人で何してるんだ?」


不思議そうに眉をひそめる斉藤。


「まあ、いいや。俺は先に帰るわ。」


そう言って肩をすくめると、そのまま校門へ向かって歩き出した。


「また明日な。」


最後の生徒が校門の向こうへ姿を消すのを見届けてから、俺は東棟へ向かった。


家庭科室の前で立ち止まり、ズボンの後ろポケットから予備の鍵を取り出す。


---


咲希視点


文芸部の予算について部長と一時間以上話し合った末、私はようやく生徒会室を後にした。


「疲れた……。」


小さく息をつく。


「文芸部の部長を説得するのって、試験より大変かもしれない。」


生徒会室に鍵をかけ、鞄を取りに靴箱へ向かった。


その頃には学校はすっかり静まり返っていた。


窓から差し込む夕日が、廊下を柔らかな橙色に染めている。


荷物を取ったあとも、今日はそのまま帰る気にはなれなかった。


私は家庭科室へ向かう。


部屋の前まで来ると、鞄の中へ手を入れ、鍵を取り出した。


---


春人視点


誰かに見られている。


そんな妙な気配を感じて、俺は目を覚ました。


どうしてなのかは分からない。


けれど、瞼は勝手に開いていた。


「ん……え?」


床から顔を上げた瞬間。


「ひゃっ!」


情けない声が漏れた。


目の前に、一人の女子が立っていた。


いや。


立っているなんてものじゃない。


まるで俺を射抜くような鋭い視線で見下ろしている。


その手には一本の包丁。


刃には、なぜか赤いものが付いていた。


そして何より恐ろしかったのは、その顔だ。


長い髪が前に垂れ、顔をすっぽり隠している。


まるでホラー映画に出てくる幽霊みたいだった。


「だ、誰……」


声を出そうとしても、喉が震えてうまく言葉にならない。


「誰ですか?」


女子は包丁を俺へ向けた。


「……あなたこそ、ここで何をしてるの?」


低く疲れ切った声だった。


まるで最悪の一日を過ごしたあとに、さらに厄介ごとを見つけてしまったような響き。


俺はごくりと唾を飲み込む。


「ね、寝てました……。」


できるだけ怒らせないよう、小さな声で答えた。


「……寝てた?」


俺は何度も首を縦に振った。


「どうしてここで?」


「ち、違うんです……その……。両親が仕事で帰りが遅くて、家にいても一人なんです。」


しどろもどろになりながら言葉を続ける。


「だから放課後もしばらく学校に残って……その辺をぶらぶらしたり……たまに、ここで寝ちゃったりしてて……。」


彼女はしばらく黙ったまま俺を見つめていた。


やがて、ゆっくりと包丁を下ろす。


「はぁ……。」


思わず安堵の息が漏れた。


彼女は何も言わず、顔にかかった長い前髪をそっとかき上げる。


その瞬間、俺は目を見開いた。


秋山咲希。


生徒会長。


学校中の誰もが知っている有名人だった。


歩いているだけで自然と人の視線を集めるような美しさ。


艶のある長い黒髪に、整った顔立ち。


そして、まっすぐ相手を見据える琥珀色の瞳。


壇上で挨拶をしていても、廊下を歩いているだけでも、どこか近寄りがたいほど完璧に見える人だった。


そんな彼女が包丁を持って俺を見下ろしていたなんて、誰が想像するだろう。


「その鍵。」


静かな声が響く。


「誰にもらったの?」


「えっと……それは、その……あはは……。」


乾いた笑いでごまかそうとする。


「質問に答えて。」


……ダメだ。


ごまかせそうにない。


「副会長です。」


生徒会副会長の桃瀬結衣。


彼女は俺と同じクラスだった。


特別仲がいいわけじゃない。


それでも事情を話したら、予備の鍵を貸してくれたのだ。


「……結衣が?」


咲希先輩はわずかに目を細めた。


まだ完全には信じていないらしい。


「は、はい……先輩。」


俺はゆっくりと立ち上がった。


俺の視線は、先輩の手に握られたままの包丁へ向いた。


「あ、あの……先輩。」


できるだけ刺激しないよう、慎重に口を開く。


「その包丁なんですけど……。」


「……あ。」


先輩は目をぱちりと瞬かせた。


まるで今になって、自分が包丁を持ったまま後輩と話していることに気づいたようだった。


「ケーキを焼こうと思ったんだけど……。」


そこで言葉が途切れる。


先輩は静かに後ろを振り返った。


つられるように、俺もその先を見る。


「……。」


家庭科室は、一言で言えば惨状だった。


調理台にも床にも小麦粉が飛び散り、割れた卵の殻があちこちに転がっている。


そして部屋の中央のテーブルには、真っ黒な物体が鎮座していた。


……あれをケーキと呼ぶのは、かなり無理がある。


どちらかと言えば、隕石だ。


笑わない。


絶対に笑わない。


そう自分に言い聞かせながら、必死で表情を引き締める。


「……ケーキ、ですか?」


俺は恐る恐る、その炭の塊を指差した。


「そのつもりだったの。」


先輩はぼそりと呟いた。


台所というより、戦場と化した家庭科室の真ん中で。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました! 面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価、感想をいただけると嬉しいです。 次回もよろしくお願いします!

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