10 宰相補佐室はゾンビ製造工場
この話から、現在になります。
読み難くて申し訳ございません。
さて、見習いといっても文官は文官。
私、ナタリア・ブロッサムスは、今日も元気に王城に向かいます。
普通の文官見習いの皆さんなら、取り敢えずは各役所に配属となるはずなんですが、何の間違いか、私は『宰相補佐室』配属になってしまっておりました。
同期達が城下の各役所に向かう中、私一人でお城の中。なぜ?
それでは、宰相補佐室の現状をお知らせいたします。
◇
誰かが言っていた。
『宰相補佐室は地獄だ』
その通りだと思う。
今日も帰れなかった幾人もの補佐官達が、仮眠室という名の棺桶にフラフラとした足取りで足を突っ込んでいく。そこでしか僅かな安らぎを得ることができないのだ。
また一人、「二刻経ったら起こしてくれ」そう言って仮眠室に向かっていった。
体くらいシャワーで流してから寝たらどうだ、と誰かが言うと、「眠くなるだろが」と、訳の分からない返しが飛ぶ。
それに何の疑問を持つ者がいない、壊れかけた職場。
勿論、そんな事を思っている補佐官もその中の一人。
そもそも、宰相とは各大臣の上に立ち、取り纏め、精査し、監督し、監査し、目を配り、指示を出し、国としての動きを差配する役職である。天子である王の下、司法、立法、行政を司る実質的な国のトップと言ってもいいだろう。その宰相閣下の手足となり、補佐を行うのが、この宰相補佐室に居る宰相補佐官達である。
「宰相閣下からの差し入れです」
特別に陽気な声を作って、入っていく。
その後には配膳カートを押すメイド達。
ワラワラと集まってくる補佐官さん達にカートに乗った弁当、甘味を渡していく。
笑顔で一人一人の要望を聞きつつ渡していくメイド達。
正直、やるな~と思う。
ゾンビのように生気のない顔をしていた補佐官さん達も、ヘラヘラと笑顔を出して受け取っている。
メイド達の笑顔には理由がある。
確かに、ゾンビ製造工場のような職場といえども、宰相補佐室の面々は、エリート。家柄だけではなく、実力でのし上がってきた面々。
なぜ、貴族子息として生まれ、類稀なる努力と才能を持って、この様な社畜を越えたゾンビみたいになりながらも働き続けるのか分からないけど、凄い人々。
そして、家柄として代々文官をしている伯爵以上の高位貴族嫡男達と違い、一般の文官登用試験を突破してきた下級貴族、伯爵家の次男以降には政略結婚の声がかかる事はほぼ無い。大概が職場結婚。出会う場は、限られているのである。
それを知ってか知らずか、メイド達の笑顔を飾る瞳の奥には、獲物を狙う光が見える。
疲れ切った美味しい獲物…………。
私は、手を止めらずにいる一人の補佐官さんの所に行く。
「弁当にしますか?お菓子にしますか?それとも両方置いておきましょうか?」
「カ、カロリーが多い方で──」
そう、彼はいつもカロリー優先派。
以前、『睡眠不足はカロリーで補える』そんな事を言ってるのを聞いた事がある。
彼は面白い。
『誰も信じないが、これは自分の中の真理だ。食べると眠くなると言う奴もいるけど、それも真理』理屈っぽいけど、ちょっと壊れているのが、可愛いと思ってる。──って、私も壊れてるね。
それに、この過酷な職場では、いくら食べても肥る心配はないようです。
「じゃあ、お菓子を置いて置きますね。多めに置いて置きますよ──」
チラリと見た顔は、書類に向かい、真剣。
「でも、ちゃんと寝ないと駄目ですよ。」
彼は、ちょっと顔を傾げるようにこちらを見て、軽く頷いてくれた。
エヘヘヘヘ
気の多い女だなんて思わないでください。カーライル様と別れて(ん、ちゃんと別れてないかも?でも、あれから泊めてないし、避けてるっていうか、会ってないから大丈夫よね)から二年経ってるし、ん、大丈夫。
でも、この補佐官さんの事、好きとか何とかじゃなくて、どちらかと言うと庇護欲。可哀想な野良猫に餌をあげてる感じなのよね〜。
それに、ネタ。
薄汚れて窶れた男の人が⋯⋯⋯⋯文官と騎士の⋯⋯⋯⋯あ〜萌えるわ。
ちなみに、この補佐官さんの名前は、ポールさん。トールテサイッツ子爵家の次男だそう。
不健康そうな補佐官さん達の中でも一際不健康そうなポールさんは、補佐室で一番若いせいか(私より年上)、一番頑張ってる。と、いうより、長時間机にしがみついている。彼が仮眠室に行ったところなんて見たことないし、下手をすると椅子から立ち上がるのさえ見たことがない気がする。ボサボサの黒髪に意図して伸ばしているのだか分からなくなった無精髭。目に掛かった前髪が邪魔になっても、切ろうとすらしない。見るに見かねてリボンをあげたら、それを鉢巻きみたいに巻いてしのいでいる。真っ赤なリボンの補佐官さん。今では、ちょっと茶色いけどね。
ん、やっぱり、いい素材だわ。
それよりも、ここまで忙しいのは理由がある。
さすがにいつもは、忙しいと言ってもここまでではない。それは、第二王子殿下が結婚されたからだ。その準備、手配に時間を取られた為、仕事が押してしまっているんだそう。確か、準備の時もゾンビを増産してたから、結局はいつもこんな調子なんじゃないのかなぁって思うけど、口にできない。
私も、ゆくゆくはこのゾンビ製造工場に入ってしまうんだろうなぁ。
でも、第二王子殿下って、ルビー先輩を囲ってたんじゃないのかな?
結婚相手は、ルビー先輩じゃなかったけど、どうしてるんだろ?
【昊ノ燈】と申します。
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