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本格的に始まった領地での日々

僕とエリスが領地に戻り、本格的に領地で暮らす日々が始まった。


戻ってみると、僕たちの家の前に植えた木は、たった10日ぶりなのに、随分と大きくなっていて、もう僕たちの家に影の恩恵を与えてくれるような大きさになっていて、僕とエリスはここでもびっくりしてしまった。

この木は村長によると、水分さえあれば、その得られる水分に応じて大きくなるという事だが、僕らの家では他の村民に比べると、水の使用量が多く排水が多い、そのため今はどんどん大きくなっている真っ最中なのだという。

アークとリズが2人で過ごしていてこの大きさになっているのだから、僕たちも加わると余計に排水は多くなるので、きっともっと大きくなるだろうと思う。


僕たちは、この砂漠の地という領地を住み易くするために、沢山の木を植えようと計画している。

木を植えて木陰を増やす事で、日差しも和らぐし、空気も砂漠の乾き切った感じではなくなり呼吸が楽になる。 そして木が多くなり枝や葉が増えると、それが風を遮り、一番嫌な砂が飛ばなくなるのだ。

その木の生育のための水なのだが、僕たちは水の魔道具をどんどん作り、どうにかしていこうと考えている。

問題は水の魔道具に使う魔力を込めた魔石の代金に値するだけのモノが、木を植えることによって得られるかどうかだ。 全体としてどうにかなる、ということにしたいと思うのだが、これはやってみないと分からないというのが正直なところだ。


で、まず最初に考えなければいけないのが、どんな木を植えるのが良いかということだ。僕は最初、この素晴らしく早く成長していく木を見たときに、この木を増やしていけば一気に問題解決だと思ってしまった。 この木ならば、あっと言う間に辺り一面が緑の林に覆われて、砂漠の問題を解決してくれると思ったのだ。

ところが、村長によると、そんなうまいことはいかないと言う。 確かにこの木は水分さえあれば、タネからすぐに芽吹き素早く大きくなるという素晴らしい性質があるのだが、その素晴らしい性質が広く植えるのに害になるのだという。 少し大きくなった木は、すぐに花が咲き、この地の重要な売り物となる美味しい実をつける。 それは良いのだが、その実をそのままにしておいて、実が熟れて落ちると、その地で新しい木が芽吹いてしまう。 そうすると新しく芽吹いた木同士だけでなく、元の木まで巻き込んで水分の取り合いとなり、結局互いに傷めあって、枯れてしまうのだという。

つまり、この木を健康に育てて、その恩恵を得るには、その実をしっかりと収穫して管理する必要があるのだという。 だからこそ、この木はこの地の家の前に植えられるだけなのだという。 実が出来たときに適切に管理できるだけの数しか、この木を植える事は出来ないという訳だ。


そんな訳で今回僕が町に戻ったときに、手に入る限りの木の種や、苗を買い込んできた。試してみて、どの木が目的に合致するかを確かめるためだ。

僕はリネとアークに植えた種に水分を与える魔道具を作ってもらった。何の事はない水の魔道具から出る水をとても少量にできるようにして、それを地面に刺しておけばその刺した場所が常にいくらか水分を持っているという状況にするだけの物だ。 僕は家のある区画のまだ何もない場所にどんどん色々な木の種を蒔いて、その水の魔道具を刺していった。 結果が出るのが楽しみだ。


僕とリネ、アークがそんなことをしている間。 エリスとリズとフランは馬車に乗って、領民を訪ね歩いていた。 何をしているのかというと、食材の買い取り交渉だ。 僕が領主になった挨拶をした時に、1家族に1個づつ水の魔道具を支給して、食料の増産を領民にお願いしてあるのだが、その結果をみて回ると共に、継続的に買い取れるように交渉して歩いているのだ。

エリスはこの仕事のために、馬車が自分で動かせないと不便なため、町から帰ってくる時はずっと僕に御者の仕方を教わって練習していたのだ。 リズとフランもエリスが馬車を操るのを見て、自分たちも出来るようになりたいと言って、エリスに教わりだしたみたいだから、2人ともすぐに出来るようになるのではないかな。 特にリズは馬に乗ることができるのだから、御者はすぐに出来るようになって、きっとエリスより上手になると思う。

エリスたちが村人を訪ねて、収穫した食物を売ってくれと言うと、多くの村人は不審そうな警戒した目でエリスたちを見た。 まあ当たり前の反応だよね。 その警戒心を解くと言うよりは、不審人物ではないことを証明するために、エリスが新しい領主の妻と、男爵、そして領主の店の店員だと名乗ると、今度は村人はエリスたちに只で収穫物を渡そうとした。

「領主様には水の魔道具を戴きました。 ですから、この収穫物はそのままお納めください。」

「いえ、それじゃ、ダメなんですよ。

 水の魔道具をお渡ししたのは、食物の増産をしてもらうのに一番必要なのが水ではないかと考えたからで、水の魔道具は増産のお願い賃なんです。 だから、増産していただいた時点で、私たちは対価をいただいているのです。 ですから今私たちが収穫物をいただくには、その正当な対価を払わなくてはダメなのです。 それに、皆さんはそうして対価を得なければ、この水の魔道具の魔力が尽きた時に魔力の魔石を買うことが出来ません。 それでは意味がありません。 私たちが皆さんに目指して欲しいのは、お渡しした水の魔道具を使って、増産して、それを私たちに売って利益を得る事です。 その利益が水の魔道具の魔力が尽きるまでに、新たな魔力の魔石を買っても、余る様になっていなければ意味がありません。 そうなって初めて領主が水の魔道具を皆さんに配った意味があるのです。

 それに、私たちが収穫物を買うことでも、皆さんが魔石を買うことでも、税収が入り、この領地が潤って行くのです。」

エリスとリズによるこう言った説明は、なかなか理解してもらえるものではないけれど、

「これからも人は増えるので、収穫物を売りに来て欲しい。 新しく作っている町には雑貨屋があって、収穫物を買い取るし、また他の物もこれから売り出される。 魔石もこれからは組合支部で簡単に買える。 とにかくまずはこれだけ知っていて欲しい。」

と言って、とりあえず新しく作っている町に来てみてくれるように頼んで回ったのだ。


その後、帰りの最後にエリスたちは村長の家に寄ってきたという。 何をしてきたかというと、村長の娘に新しく作っている町の雑貨屋の店員になって欲しいと頼んできたのだ。 今までほとんど閉鎖的な村社会で生きてきた領民が、急に外から入ってきた者と気軽に接する事は難しいだろうから、まずは最初に頻繁に顔を出して欲しい雑貨屋には良く顔を知った馴染みの人を配したいという事だ。

「村長の娘さん、サラさんというのですけど、快諾してくれました。 村長さんも一生懸命に手伝う様にと言ってくださって、これで1つ懸案が解決です。 それでサラさんからも、村民に収穫物を売りに来てくれる様に頼んでくれることになりました。

 それから蛇足ですけど、サラさんの給料は雑貨店の方から出して、そっちの新人の基準から始めますね。」

「ねえ、もしかしてエリス、雑貨店の方の経理も貴方がやるの? そりゃ雑貨店は貴方の家の方に任せる事が前提だから、そうなるのも分からなくないのだけど、エリスが忙しすぎない。」

「うーん、確かに忙しくなっちゃうけど、今のこの状態で町の方から従業員呼べないし仕方ないかな。 それにうちの店は、元々私が1人っ子だから昔から将来的にはカンプと私が継ぐことが決まっていたから、雑貨店のことをするのは覚悟の上だから。

 サラさんに早めに仕事を覚えてもらって、出来れば経理や、注文なんてことも出来る様になってもらえる様に、教えていくことにするわ。」

リズとエリスの話に、フランとリネも加わった。

「あの、私たちも雑貨屋の方、お手伝いします。」

「え、それは助かるけど、それは悪いよ。 フランとリネは魔道具店で働いてもらっている店員であって、私たちの個人的な部下ではないし、ましてや雑貨店とは関わりないもの。」

「でも、子爵夫人であるエリスさんだけでなく、カンプさんも、アークさんも、リズさんも、みんな忙しく働いています。 私たちだけ、以前と同じにのんびりしているのは気が引けるというか、それに毎日の魔力を使っての仕事に一日中かかる訳ではありませんし、余った時間にここでは他に出来ることもないですから。」

「うーん、それなら頼んじゃおうかな。 すごく助かるわ。

 ちゃんと雑貨店の方からもお給料出すからね。」

「あは、前にアークさんとリズさんが言ってましたが、私もその辺は割とどうでも良いです。 住むところもこうして用意していただいちゃってますし、今お金いただいても使うこと無いですし、それよりも私がみんなの役に立つということの方が嬉しいです。」

リネがそう言うと、フランも

「そうよね。 ここじゃ、使い道ないもんね。」と笑った。


話が前後しちゃっているのだが、今僕たちは家で昼食を終えて、午前中のそれぞれの活動を報告しあって、色々と雑談をしながら、今後のことを話したりしているのだ。

僕とリズとフランとリネ、そしてダイドールは手に魔石を持って、話をしながら魔石に回路を書き込んだもしている。 流石に毎日毎日可能な限りの量の魔石に回路を書き込んだりしていれば、ほとんど意識をそこに割かずとも回路を書き込むことが出来る様になる。

アークとターラントは他のことに魔力を使いたいので、今は魔石に回路を書き込むことはしない。 まあターラントには魔力を貯める魔石の回路を教えはしたのだが、他のことが忙しくて、魔石に回路を書き込む事はしていないので、ターラントがそれをするとしたら、まだとても話をしながらでは出来ないだろうけど。


「それでターラントは?」

「はい、私はいつもの様に畑作りに行っていました。

 まだ村長のいる部落の半数の家の分しか増やしていませんから、全部を終わるにはまだ一ヶ月近くかかってしまいます。」

「それじゃあ、もう今日の魔力は尽きているよね。 午後はダイドールを手伝ってあげて。」

「はい、カランプル様、了解です。」

「ダイドール、組合にはこの新しい町の計画図は見せてあるから、概要はわかっていると思う。

 だから、組合の土地が正確にどこになるかが分かれば、それで対処できるはずだ。 明日には組合の者たちが来るので、ターラントと2人で組合の土地が何処だか正確に判る様に今日の内に目印をつけて置いてあげてくれ。」

「はい、カランプル様。」

ちなみにダイドールは自分でも魔力があまりないと言っていたが、魔力を貯める魔石でも1日に目一杯で5個がやっとで、僕たちの中ではやはり魔力が一番少ない。


「そういえばカンプ、もう魔石の残りがないわよ。 どうして今回は町に行った時に魔石を仕入れて来なかったの?」

「だってリズ、町で魔石を仕入れたら、その魔石の代金にかかる税は町のモノ、つまり全て直接王家に入っちゃうんだぜ。 こっちに持ってきてもらってここで買えば、税は半分は僕らの手に戻って来るんだ。 それならこっちで買って、戻ってきた分をこの領地に還元した方が良い気がしちゃったんだ。」

「なるほど、そういうことか。 実は俺もリズと同じで、なんで今回は魔石を仕入れて来なかったんだろうと疑問に思っていたんだ。」

「ま、それに明日には組合の人が来ること分かっていたからね。 魔石がなくて、困る事はないと思ったんだ。 僕とエリスが今回は魔石を仕入れないで組合を後にしようとしたら職員さん、いや今度からここの支部長さんだけど、軽く笑ったから、僕の意図はしっかり気がついたと思うから、きっと十分な数の魔石を持ち込んでくれると思うよ。」


その後、僕とアークとリネは牧場の方に行った。 牧場もアークとターラントが最初の頃に作って、すぐに牧草の種を蒔き、朝晩の水遣りをターラントがしているから、すでに牧草の小さな芽が出て育ち始めていた。

「せっかく芽が出始めて、育ち始めた草を少しダメにしちゃうのはもったいない気がするのだけど、仕方ないな。 アーク、やろう。」

「いや、カンプは見ているだけで良いぞ。 いや、作ってきた管を渡してくれればいい。」

アークはそう言うと手の平を地面に向けた。 すると地面が左右に捲れ上がる様な感じで20cmほどの深さの裂け目が出来た。

「カンプ、ほら、一本くれ。」

僕は作ってきた所々に穴の開いている管をアークに渡す。 アークはその管を裂け目に埋めたり、管同士をこれも土魔法で繋いだりしていく。 10m四方程度に管を中央から四方に張り巡らした感じに埋めて、これも作ってきた四角い箱を中央に置いて、最終的に束ねられた形になっている管に連結する。 つまりこの中央の箱の位置から水を流せば、この10m四方くらいの地面が水分を含むという計算だ。 中央の箱は正方形ではなく長方形だ。

「リネ、とりあえず実験だ。 箱の蓋を開けて、箱の中を水で満たしてみて。」

「はい、やってみます。」

リネは箱の蓋を開けて、その中に手の平から水を出して注ぎ込んでいる。 箱の中には片側に寄って正方形の空洞があって、その空洞を水で満たそうとしているのだ。

「あ、水がほとんど一杯になったら、予定通り急に流れ出して一気に水位が下がりました。」

「おっ、ちゃんと水が出てきたぞ。 成功だな。」

アークは箱から一番遠い隅の管のところを小さく掘って露出させて水が来るかを確かめていたのだ。

「良し、これで牧草に朝晩水遣りをしなくても、自動で水遣りが出来るな。 でもまあ、上に取り付ける水の魔道具からどのくらいの調子で水を出せば、牧草が育つのに最適なのかはこれから試行錯誤だろうけど。」

四角い箱の空洞ではない部分は曲げられた管が入っていて、それによってサイホンの原理で水がある程度溜まったら一気に流れる様になっているのだ。

「でもカンプ、これ設置するのが結構手間だな。 この箱の部分は地面に置いておくから簡単には壊れない様に丈夫に作っているから、結構重いし1人じゃ設置出来ないぜ。 それに管を地面に埋めるのもかなりめんどくさいし、これだけ手間かけて10m四方程度だぜ。

 これなら上から水を勝手に撒く道具を作った方が簡単なんじゃないか。」

「確かにその方が簡単だけど、上から撒く方が水が蒸発しやすいから、水がたくさんいるだろ。 つまりそれだけ魔力を貯めた魔石が多く必要になると思うんだ。」

「あ、カンプさん、そういう事ですか。 私も何でこんな面倒な事しているのかと思いました。 私は木の種を植えた時みたいに、あれと同じものを何本か地面に刺しておけば、それで用は済むと思ったのですけど。」

「それじゃあ、魔石の数が沢山の必要になるし、魔石の交換の手間が凄くかかるんじゃないか。」

「あ、確かにそうですね。」

「つまり、最初は面倒だけど、やっぱりこの形が一番良いのか。 ま、最初だけだ、頑張るよ。」


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