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またすぐに

次の日から、僕たちは一応それぞれに仕事をこなすことにした。


アークは、まず最初に昨晩必要となった家の改築を、リズに監督されながら行い、それからターラントと2人で、昨日やり残したフランとリネの家を建てた。 ちなみにフランとリネの家は、僕らの家と道を挟んですぐのところに、10m-20mの広さで壁はやはり2m以上で作られている。 建物は僕らの家から比べると半分くらいの大きさだ。 当然、木の種も植えた。

アークとターラントはその次の日は、僕らの家の隣に30m区画の僕らの家となっている場所と同じに塀を作った。 そこには用意しておいた、馬の飼料となる草の種を一面に蒔いて、その後で水も撒いた。 つまり小さな牧場を作ったのだ。 これから馬車を使う機会がずっと続くので絶対に必要な施設だった。 今はまだとりあえず位のモノだが、今後牧場も広げていかねばならないだろうと思う。 朝と晩の二回水を撒くことで、牧草は大丈夫とのことだけど、その作業は毎日のこととなると結構めんどくさい。 それに関してはアイデアがあるので、リネが来てから試してみることにする。


僕とエリスとダイドールは、まずはダイドールから領主の仕事とは何かを教わることから始まった。 すぐにそれにリズも加わる。

領主としての仕事のまず大きな1つが税を取ることだ。 税はこの国では10分の2税といい、全ての利益の2割は税となるのだが、割と軽い方なのではないかと思う。 何故5分の1税と言わず10分の2税というかというと、税の半分つまり10分の1は王に収められ、残り半分は徴税した領主の取り分となる為だ。 つまり僕の領地で得られた利益は誰が得た利益であっても、その1割は領主である僕のモノとなる訳だ。

今まで、この領地からはまともに税が上がっていない。 領民といっても総勢で200人程度でほぼ自給自足に近い生活で、商取引も少なく、その少ない商取引で得られた金も、水の魔石を買うために町で使われるので、この地の利益にはならないからだ。 だけど、これからは違ってくる。 僕らの店の魔石に関する取引だけでも、かなりの金額が動いているので、それで今まで税として収めていた金額の半分は、今度は領主としての自分に戻ってくる訳で、結構大きな数字になるはずだ。

「税の徴収に関しては、私にお任せください。 今のところは私だけで、十分に領民の税も、こちらに出来る組合の分も対処できると思います。 エリス様にはカンプ魔道具店の方の帳簿を今まで通りにつけて頂ければ、税の徴収に関しては大丈夫だと思います。 カランプル様には出来た帳簿に目を通していただいてサインして頂くだけで大丈夫だと思います。」

ダイドールがそう言って、徴税の方は問題にならないと説明してきた。

これに関しては、僕としては領主としての経験がある訳ではないから、ダイドールにこれから教わっていかなければならないと思っている。 リズによると、基本ダイドールに任せてしまって構わないとのことだが、きちんと全て目を通し把握することは必要だと釘を刺された。 ダイドールは信用して大丈夫だと思うけど、今後領民が増えて、ダイドールだけでは手が回らなくなった時には、他にも人を使わなければならない。 その時に、きちんと仕事ぶりを把握出来なくてはダメで、領主がそれを怠れば、徴税に当たる者はすぐに腐敗していくとのことだ。 もちろん、リズとアークも僕を手伝って、そういうことがないように目を光らせるのだとのことだ。


領主の仕事として問題なのは、もう1つの方だ。 領主は領地の開発をして、領地を発展させなければならないのだ。

僕たちは、このことについて話し合ってはいた。 まず第一に領主として得られた税によるお金は全て領地の発展に使うことに決めていた。

10分の2税の半分は領主の、というか領主家の収入となるのだが、領地を発展させるための予算という意味合いもある。 税の半分から、領主の使う金額、寄子となった貴族家が使う金額、家臣たちの俸給を引いた金額が、領地の開発費用となる訳だ。 普通の領地ではそれらが引かれた後の金額は、最初から比べるとかなり少ないモノとなってしまうのだが、僕たちの場合は、店で得る収入さえあまり使えていない状況だから、僕らの分は必要ではない。 その上、家臣や使用人といった人も、今のところはダイドールとターラントの2名だけと極端に少ないので、税から得られた金額をほぼそのまま開発資金にすることが出来る。

とはいえ、今はまだ全くと言って良いほど税収なんてないのだから、これはこれからの話である。


それ以外の領地を発展させるための資金というと、考えられるのは2つしかない。 1つは僕たちの個人資産で、今現在使っている資金はこれである。 正直なことを言えば僕たちは普通の魔技師一人分の収入があれば、それで生活できる気がするし、僕とエリスはそれで満足なのだ。 アークとリズも、エリスに通帳を預けてしまっていて見ることもないという状態だから、僕とエリスにあまり変わらないだろう。 貴族として、王都で何かしなければならないなら、貴族の体面を保つためにという出費もある程度考えないといけないのかも知れないが、この田舎に来てしまっては、その心配をする必要もないだろうから、今まで通帳に溜まった額を考えれば、ある程度のことはできると思う。

「だけど、それだけだと俺たちがここに施しているだけで、俺たちに何かあったりして、金を出せなくなったら、すぐに元の木阿弥になっちゃうよ。

 そうではなくて、この領地が自然と発展していくようなことを考えないといけないと思うんだ。」

アークも混ざってきてそんなことを言う。 その言葉にリズも

「そうね、それに私たちの方から一方的に与えるだけというのは良くないわ。 きちんと見返りを求めるようでないと、人として堕落するわ。」

なるほど2人の言うことはもっともだと思う。


「ですから、私としては、この地に仕事を作る投資をしていただきたいと考えています。この地で出来る仕事を考えて、それに資金を出すのです。 投資ですから、もちろん儲けを考えて、出した資金以上を受け取れるようにしなければならないところが難しいところですが。」

「そうだな、そういう方向だよな。」

「何をすれば儲けになる仕事になるかを考えるのが大変だけどね。」

ダイドールの言葉にアークとリズが同意した。

「ねぇ、投資ということだったら、お店のお金をそれに回しても良いんじゃないかしら。 私は今まで、領地に関しては貴族となったカンプのすべきことで、カンプ魔道具店とは別に考えないといけないと思っていたのだけど、投資ということなら、カンプ魔道具店としてここでの仕事に投資しても良いのではないかしら。

 そう考えれば、使える資金に余裕ができるし、今、店として貯めている資金の良い使い道になるのではないかしら。 今、使う予定のない店のお金がかなり溜まっているから、ちょうど良いわ。」

エリスがそんなことを言い出した。

僕は忘れていたが、そうだった店に入ってくるお金の半分以上は、店のお金として貯められていて、そこから魔石を買ったりの経費が出ているのだが、もう負債と収入が逆転して、収入の割合が多くなっているから、店のお金も増えていたのだった。

「それではエリス様、その時になりましたら、投資に当たる事柄は店の方から出していただき、そうでない部分は領主としての行いとして、基本は領地の税収を当てるという形でよろしいでしょうか。」

「私はそれで良いと思うけど、みんなはどう?」

エリスの言葉に、僕たちは頷いた。

「でも、とにかくどんな仕事を作れば良いかよね。」

リズの言葉に僕は言った。

「まだ実験してみてからの話だけど、僕には1つ考えていることがある。」


領地で4日過ごし、5日目にはまた僕とエリスは馬車に乗って、東の町に向かっている。今度はダイドールの御者する大きな馬車なのだが、この馬車は人が乗ることよりも荷物を載せるためのものだから、来る時に使った貴族用の馬車は当然だけど、最初の視察に使った馬車よりも乗り心地が悪い。 まあ、救いは、中間点にある小屋のベッドに敷くマットを村で作ってもらって、それを積んでいることだ。 そのマットに座っているので、幾らかは乗り心地が増しになっているのだ。 マットを小屋に置いてきてしまう移動二日目が今からちょっと憂鬱だ。 ちなみにこのマットはしっかりと村人に代金を払い、税も収める形をとった。 今後の為にも、自らきちんと率先しないとね。


僕たちが町に戻ることになったのは、もう一台馬車を買うことに決めたからだ。 僕は当初からフランとリネを迎えに戻る予定ではあった。 領地に行く時に乗って行った馬車は貴族用の馬車で、僕が領主となったことを正式に領民に知らせる時には、立場上その馬車を使いみんなも貴族としての正装をして、領民の前に立つ必要があったからだ。 でもそんな馬車、普段使いにはやっぱり使いにくいんだよね。 それだから、最初の時に使った馬車を領地に持って来ることを考えていた。 どうせフランとリネの移住をさすがにまだ会って間もないダイドールだけに任せる訳にもいかないから、ダイドールの馬車に僕らの馬車のための馬も紐でつないで、東の町に戻る予定であったのだ。 僕が戻るのは、アークとターラントには領地の方で仕事を続けてもらう必要があるからだ。 エリスが戻ることは、当初の予定にはなくて、領地に行ってみてから、僕たちがいつでも使える馬車が1台は最低でも必要なのが分かったので、移住の時用の馬車がもう1台必要なことが分かったからだ。 情けないけど、そういった買い物は僕は1人では上手くできない。 おじさんかおばさんに手伝ってもらおうかとも考えたのだけど、エリスが

「まだ組合もこっちにはないから、私が出来ることはないから、私もカンプをただ待っているより、一緒に行くわ。 それにそうすれば出来た魔石を組合に納めて、その事務も出来ちゃうから。」

と言ってついて来てくれることになった。

「えっ、エリス、お前、カンプについて行っちゃうのかよ。 俺たちの飯はどうなるんだ?」

アークが絶望的な顔をして、ちょっと反対したが

「エリスはこっちに居なければならない理由がないのだから、可能ならカンプと一緒に行くのは当然じゃない。 それにエリスが居なくても、私だって食事の準備くらいできるわ。」

とリズに怒ったように言われて、それ以上何も言えなくなっていた。


中間点に着くと、木はもう僕の背丈を越えて成長していた。 僕たちはまず最初に馬車に載せてきたマットを小屋の中のベッドに敷いていった。 これでこれからこの小屋に泊まる人はベッドの硬さに悩まされないで済むだろう。 

「最初にその恩恵に預かるのは私たちね。」

とエリスが少し嬉しそうに言った。 うん、なんだかそれだけでちょっと幸せな気持ちになって、エリスと一緒に来て良かった、と思ってしまった。

それから僕は新たに持って来た木の種を、アークに教わっていた場所に植えた。 将来的に木が大きくなれば、四方からこの小屋を守ってくれるはずである。


砂漠の旅2日目は覚悟していたけれど、辛い旅だった。 宿屋についた時には本当に嬉しかった。

「あの、ブレイズ様、今回は貴族の馬車ではないのですか?」

宿の主人にそう尋ねられてしまった。

「うん、あれは目立っちゃうから、どうしてもという時以外は使いたくないんだ。」

「それにしても今回は荷馬車での旅というのは大変でしたでしょう。」

「本当に、ちょっと懲りたよ。 もう荷馬車で砂漠の道はこりごりさ。」

「えっ、何度も宿泊していただいているので、どちらにご用事があるのだろうと思っていたのですが、砂漠に向かっていたのですか?」

「うん、砂漠の中の村に用事があって、今はそっちに住まなくてはならなくて、その為にちょっと往復しているんだ。」

「それはなかなか大変なことですね。」

僕と宿の主人がおしゃべりしていると、ちょっとだけダイドールが話に加わった。 どうやら宿の主人の僕に対する敬意が足りないと感じてしまったみたいだ。

「カランプル様は新しい領主として、領地に最低5年以上は住まねばならないのだ。」

「ブレイズ様のご領地がこの先にあるのですか。 ここからは遠いのですか。」

「店主、何を言っている。 この先、砂漠になっているところから向こうはもうカランプル様の領地だぞ。 その中心にある村はここから二日ほど先にある。」

「ええっ、そんな広大な領地の領主様なのですか、ブレイズ様は。 ブレイズ様は一体何者なのですか?」

宿の主人が驚いてダイドールに聞いた。

「なんだ知らなかったのか。 カランプル様は王都でも有名な子爵だぞ。 それだけでなくカンプ魔道具店の店主でもある。」

「ええっ、ブレイズ様は子爵様だったのですか。 それにカンプ魔道具店というのは有名な魔道具店ですよね、東の町の百貨店で見たことがあります。 そう言えば貴族の馬車でお越しになられた時、掲げられていた紋はなんとなく見たことがあったような。 いや、知らぬこととはいえ、色々と失礼をしてしまいました。」

宿の主人の態度が急にあらたまったものになってしまった。

「あ、そんな風に気にしないでください。 こら、ダイドール、変なことを言うから宿の主人さん困っているじゃないか。 

 えーと、僕はつい最近まで普通の単なる庶民でしたから、そんなに態度をあらためる必要はないのですよ。 今までと同じ調子で接してくだされば十分です。 それに僕は今でも貴族という自覚に乏しいですし、貴族として接して来られるとどうして良いのか分からないのです。 だから今までと同じようにお願いします。」

僕がダイドールの言葉を素早く止めれなかったのも悪いのだが、宿の主人の態度がガラッと変わってしまった。

その後で僕がダイドールに

「あんな風に僕の立場を強調しないように。」と注意したら、

「申し訳ありません。 ただ、あの宿の主人には、前に私が1人でここに泊まった時に、私がカランプル様にお仕えすることになったことを話したのです。 その時にカランプル様のお立場などの話もしていたので、それを全く忘れているので、ついブチっと切れてしまいました。」

うーん、どうやら宿の主人の自業自得の部分も大きいみたいだ。

それでも、僕たちが荷馬車で出発する時に、宿の従業員全員での見送りは勘弁して欲しかった。


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