表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/167

領主生活の始まり

たった二週間だったけど、ターラントはちゃんと僕たちの注文通りの家を作っておいてくれた。

領主の館とか、子爵夫妻と男爵たちの館とか言われることになる家だけど、館と言われると恥ずかしい、小さな家だ。 僕たち夫婦の部屋と、アークとリズのそれぞれの部屋の他は、キッチンや風呂場といった必要な部屋を除けば、少し大きな部屋が二間あるだけだ。 その片方が僕たちの生活及び普段の仕事場、もう一方が誰か来た時に通す、一応公的な部屋にすることにした。

「計画通りの家なのですが、こんな小さな家で良いのでしょうか。

 子爵夫妻と、男爵たちの住んだり仕事をしたりする館としてはあまりに小さ過ぎると思うのですが。」

作っておいてくれたターラントは、自分が作ったから余計にだろうか、もう少し大きくしましょうと提案する。

「僕とエリスはつい先日まで、単なる庶民だから、これで十分だよ。 それに領民と言ったって、まだ200人程度しかいないのに、大きい建物なんて不要だよ。」

「でも、この建物は僕たちが住むことにした元代官の家より小さいのですが。」

「もっと部屋が必要になったり、大きな建物が必要になったら、その時にまた考えれば十分だよ。」

アークもそうターラントに言った。

「それよりも、農地や牧草地を増やす事が、今は先決問題だよ。 それを大急ぎでしないと、店の人員さえこちらに来れず、仕事に問題が出ちゃうからね。」


僕らの家の前には、もうターラントの手によって木が2本植えてあって、こちらの木も僕たちの背丈ほどの大きさに育っていた。 まだ誰も住んでいなかった訳だから、排水等がある訳がなかったのだが、育てるために毎日ターラントが水を与えていたのだという。 道の中間点に植えた木よりも後に植えたはずなのに、同じくらいの大きさになっているのは、どうやらそのせいらしい。 これからは僕たちの排水で大きくなっていくことだろう。

僕たちの家は、30m四方くらいの土地で、周りを2mを少し超える壁で囲まれている。 壁は防犯のため、なんて理由ではなく、風避けだ。 この辺りの農地は10m四方毎に1mを少し超える程度の壁で囲まれている。 そうすると風で飛ぶ砂の影響を抑える事が出来て作物を育てられるという訳だ。 家を作るには流石に10m四方では狭いので、30m四方に広げてある。 でもそうすると風の影響で砂が入り込みやすくなるので、仕方なしに壁の高さを倍にして風の影響を防いでいるのだ。 壁の高さは、単純に経験則というか、農地の方は本当に長年の経験から高さと広さが決まっている様だが、家の周りについては今の所、ただ単に代官屋敷を参考にしただけだ。 ちなみにこの僕たちの家の区画は、計画上の領主の館の土地の範囲のほんの一部でしかない。 まだその中に家と、馬車などをしまう倉庫が作られているだけだ。 ダイドールの計画ではそのうち発展させる予定なのだという。


僕たちは領地についたその日のうちに、運んできた最低限の家具、調度品、雑貨、衣類などを家に運び込んだ。 流石に家の方のベッドには、この地で収穫された麦藁を使ったマットが用意されていて、硬い寝床に悩む必要がなくて、たった1日のことだったのだけど、嬉しかった。

リズとアークは家の中に光の魔道具を設置していき、僕も調理器やパン焼き釜を設置した。 風呂は自分で水を温めれば良いか、とも思ったのだけど、アークやリズも使うことを考えて、風呂の水を温める魔道具も設置した。 

その日は風呂にお湯を満たして浴びたのだが、やはりお湯に入ると、水のシャワーを浴びただけよりもずっとサッパリした。

「シャワーも水じゃなくてお湯が出れば、お風呂とまでいかなくても、もっとサッパリするのにね。」

とエリスに言われて、領地内なら水の魔道具を作っても良いので、今度リネと作ってみようと考えた。


僕はダイドールと一緒に次の日に、3つの村をすぐに回った。 

それぞれの村で村人を集めて、この地方の領主になったことを正式に伝えて、それと共に1家族に1個の水の魔道具を手渡した。

「この水の魔道具は今までの魔道具とは違い、この魔力を貯める魔石を交換することで、今までとは違って魔石が壊れることなく、ずっと使えます。

 もう少し経つと、この地方にも魔技師冒険者組合の支部が出来るのですが、魔力を貯めた魔石は組合で買う事が出来ます。 今までのように、町まで水の魔石を買いに行く必要はなくなります。

 また、魔力を貯めた魔石の魔力がなくなると、この小さなお知らせライトが点灯して、それを教えてくれるようになっています。

 僕がこの魔道具を配るのは、皆さんに食料などの増産をしていただく為です。 村長によると、現時点でも水がもっとあれば増産が可能だということですので、今こうして配っている訳です。

 これから僕が営んでいる店の従業員とか、この村の人口が増えるのですが、現時点ではその増える人口の食料が賄えません。 それでまずはこの魔道具を皆さんに渡して、最初の増産を図ります。 増産できた分は新たにこちらに来た人が買いますが、交換のための魔力を貯めた魔石を買っても利益が上がると思います。

 また、それだけではまだ不十分だと思いますので、僕たちの方で1家族に4区画の農地を作って進呈することにしますので、そちらでも増産をお願いします。 こちらも順番に次々と進めていくので、期待していてください。」

村の家族数は村長のいる村が一番大きく約20家族ほど、他の2つの村が10家族ほどだ。これらの家族に配った水の魔道具と僕たちの家と元代官の家で使う分で総数50個になった。まだ残り10個の水の魔道具があるので、後でその使い道を考えることにした。


アークとターラントはその日は次にこっちにやってくるフランとリネの家を、領主館に一番近い区画に建てた。 2人の家の敷地はちょっと狭く、20mの正方形だ。 家も将来はともかく今は僕らの家よりも当然ながら小さいし、倉庫も作らないから、敷地には十分余裕がある、というより広すぎかもしれない。 でも2mを超える壁で囲まれるので、それでもなんとなく圧迫感を感じてしまう気がする。 2人がかりで作ったので、敷地を囲む壁は出来上がり、家も作り始めたようだ。 次の日には出来上がるということだが、道の途中の小屋も二人掛かりで一回では出来上がり切らなかったから、だいたいそんなペースなのだろう。


エリスとリズは家で色々と家事労働に励んでいたようだ。 持ってきた家具なんかは馬車から下ろした時に一応主に僕とアークの2人で設置したりしたのだが、カーテンやら床の敷物やらなんだかんだといった物は、大きな物を除き、まだ纏められたままだったから、それらの設置は2人に任されていた。 それにこれからは家事も完全に僕らで全て行わなければならないので、炊事・掃除・洗濯などの作業の仕方、キッチンその他の使い勝手などを試してみたりしていたのだ。 僕は自分たちの部屋はエリスがどうにかするし、共用する場所も問題はないだろうと思っていた、問題があるとすればアークの個室なのだが、アークはどうするのだろうと思っていたら、

「アークの部屋は私が適当にやっておいたわ。 アークに任せておいたら、部屋に入れた荷物がいつまでもそのままで、必要なものを引っ張り出して使うくらいが関の山よ。 そんなの分かりきっているから、私が勝手に広げて適当に設置したり、しまったりしておいたわ。」

僕は良いのかそれで、と思ったのだが、当のアークは

「あ、リズ、ありがとう。 恩にきるよ。」

と簡単に終わらせていた。

「だいたい、おばさんに怒られても、その場だけですぐに元の汚い状態に部屋が戻っていたのだから、アークになんて期待していないわよ。」

「うん、いつもいつもすまない。」

どうやらエリスの家で暮らしていた時から、アークの部屋の管理はリズが仕方なくやっていたようだ。

「ねえ、もうリズもアークと結婚しちゃったら。 私たちのことを、以前は『もう早く結婚しちゃいなさい。』って2人は言ってたけど、今度は逆に私がそう言うよ。」

エリスがこの状態を見て、そう言った。

「えーっ。」とリズがちょっと不満そうに言った。

「アークお前はどうなんだよ。」

僕がアークにそう言うと

「俺としては、もう今更誰かを探そうとは思わないし、リズ以外ととなると色々と面倒なことが多過ぎるから、他には考えられないと言うか。」

リズがこの言葉にちょっと怒った。

「なんなのよ、その言い方は。 他の女はめんどくさいから、私で良いって言いたいの。

 私だって選ぶ権利はあるし、何もアークのように生活能力がまるでない様な男を選ばなくても良いのだけど。」

「でもリズ、それを言ったら、カンプなんて、もしかしたらアークより生活能力が低いかもしれないわ。」

「確かにそれは言えているわね。 エリスもよくこんな生活能力の低い男とやっていけるわね。」

「うーん、私の場合は幼い時からずっと一緒で、カンプの生活能力なんてハナから全く期待していないから。」

「そうね、カンプが生活能力がまるっきりないのは、きっと昔からエリスがカンプを甘やかしているから、その影響も大きいのだと思うわ。

 でもどうして私たちの周りって、こんなに生活能力のない男ばかりなのかしら。」

「逆に生活能力のある男なんて、私見たことないよ。 うちのお父さんもカンプと50歩100歩だし。 リズは見たことある?」

「そう言われてみれば、見たことないわね。 うちはほら、一応昔からの伯爵家ということで、実家の方は使用人とかもたくさんいたから、生活能力なんてことを考えたこともなかったから。

 ま、その辺はアークのところも同じでしょうけど。」

「それなら、アークが生活能力がないのも仕方ないよ。」

「でも私もアークと同じ様なものだったはずだけど、一応今くらいには身につけたわ。」

「確かに、リズが努力して生活能力を身につけたことは認めるわ。 その努力は私が一番見ているから。」

「うん、確かにエリスやおばさんには本当に世話になったわ。」

「アークはその努力をする前に、店の仕事が忙しくなっちゃったから、今生活能力がないのは仕方ないよ。 長い目で見て、ちゃんと教育していけば、アークももう少しは自分で色々できる様になるよ。」

「そうかなぁ。」


僕とアークは外で過ごしてきたので、特にアークは塀と家を作るなんていう土木工事をしていたから尚更だが、家に戻ってからシャワーを浴びていた。

同様にシャワーを浴びて、着替えてからダイドールとターラントも一緒に夕食を取るために家に来ていたのだが、僕たちの話の内容が、どうも男にとっては風向きの悪い話だったので、2人とも賢明に静かに黙っている。

「えーと、とりあえず食事にしない? せっかくのこっちに来ての初めての、まともなエリスとリズの手料理が冷めちゃうよ。」

この晩の食事は、町から少し運んできた食材と、昼間僕が村を回った時に領民からもらった食材で作られている。 水の魔道具を領民にあげたので、そのお礼としてもらったのだが、次からはきちんと代金を支払うと言いながら貰ってきたのだ。 領民にもきちんと代金を受け取ってもらわないと、食料の増産をしてもらっても利益が増えず、魔力を貯めた魔石を買ったりということに繋がらないからね。 そこはキチッとしたいと思う。

「この様な美味しい食事は何日振りでしょうか、私、こちらにずっと残っていたので、村長は『自分の家で一緒に食べませんか?』と誘ってくれたのですが、最初から私たちが誰かと特別に親しい姿を見せてはいけないと思って、その誘いを謝辞して、自分で作って食べていたので、ろくな物を食べていませんでしたから、尚更です。」

「ターラントさん、そうなのですか。

 それなら、ターラントさんとダイドールさんも、何かない限り食事はこちらで一緒にすることにしたらいかがですか?」

「はい、あの、その様なこと、よろしいのでしょうか。」

ターラントさんが、ちょっと驚いた感じで聞いてきた。

「ああ、僕たちは魔道具店が忙しかったり、資金繰りが厳しくてお金がなかった時に、少しでもお金を浮かそうとして、食事はみんな一緒にしていたんだ。 その方が安くつくし、面倒が少ないからね。 だからエリスもリズも多人数分の食事を作るのには慣れているんだ。 だから遠慮しなくて良いよ。 ただし、キチッと食事の材料費などの経費はもらうことになるけどね。 エリスはそこら辺の区別というかけじめはしっかりとつけて、甘えというか適当なことは許さないから。」

僕がそう言うと、ターラントとダイドールの2人は

「エリス様、よろしくお願いしたします。」

と、エリスに頼んでいた。 結構食事の準備に困っていたみたいだ。


食事の後で僕はアークに言った。

「さっきは、お前の不注意な言葉で、お前だけでなく僕たちも大惨事になるところだったぞ。 もっときちんとした言葉で、お前の気持ちをリズに伝えろ。」

「うん、カンプ、俺も失敗したと思ったよ。

 ちゃんときちんと俺の気持ちをリズに伝えるよ。」

アークはそう言うと、食後のお茶を飲みながらエリスとおしゃべりしているリズに近づいていった。

「リズ、聞いてくれ。 きちんと俺の気持ちを伝えたいんだ。

 リズ、俺と結婚してくれ。 もう俺はお前以外考えられないんだ。」

僕はアークの行動に呆気にとられたが、それはリズも近くにいたエリスも同じみたいだ。

リズはちょっと呆けた顔をしていたが、

「な、何を。 もう、わかったわよ。」

と言った。

「わかったと言うのは、OKってことだよな。」

「そうよ。」

リズは真っ赤になってそう言うと、エリスに抱きついて顔を隠してしまった。

僕たちの家は、二日でもう改築しなければならなくなった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ