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叙爵式

叙爵式が迫り、僕たちは頼んでおいた服を取りに王都にある洋服屋に取りに行った。 今度は自分たちの馬車があるので、それで行こうかと思ったら、アークに止められた。

「カンプ、僕たちが買った馬車は地方に行くための馬車で、王都にそれを自分で御して行く訳にいかないよ。 今日王都に行く馬車は、僕がフランたちに準備を頼んでおいたから、そろそろ来るはずだ。」

僕はやっと馬車を御することに馴れてきたところだったので、練習のためにも自分が御者をして王都まで行きたいと思ったのだが、そういう訳にはいかないみたいだ。


僕たちが洋服屋に行って、儀式に臨む服を一度着てみて、最終的なチェックをした。

僕とアークは本当に袖を通してみてお終いという感じだったのだが、女性2人は、色々と最終的な調整があるのだという。 まあ毎度のことだ。 僕たちは待っている時間を店主さんとの雑談で潰している。

「そうそう、エリス様の父君、母君から、カランプル様の幼い時の話とかを聞かせていただきました。 カランプル様は、エリス様の父君・母君にとっては実の息子同然の間柄だとか。」

「はい、実の父は物心つく前に、母も幼い時に亡くなってしまったので、祖父母がいたとはいえ高齢でしたから、僕は半分はエリスと一緒に育ててもらったんですよ。」

「それで、カランプル様はエリス様とご結婚なされたのですね。」

「まあ、男と女の双子みたいな感じで育ったのですけど、なんとなく互いに別の人は考えられないというか、他には誰もいなかったというか。」

「何を言っているんだ。 エリスはともかくカンプ、お前はエリスがいなければ、まともに生きていけないじゃないか。」

「いや、そんなことはないぞ。 また仮にそうだとしても、全くちゃんと出来ていなかったアークに言われたくはないぞ。 それにアークだって、今ではエリスに何もかも頼っているじゃないか。」

「いや、俺はそれでも1人で暮らしていたぞ。 ま、今の状態を言えば、確かにエリスに頼りきっているという自覚はあるけどな。 俺に限らずリズもだけどな。」

「はははは、これは良いことを聞きました。 カランプル子爵家では、実質はエリス様が一番権力があるのですな。」

「はい、まあ、確かにその通りですね。」 「うん、それは否定できない。」

僕たちは笑い声をあげた。

「それでお帰りには、エリス様のご両親の服も、一緒にお持ちください。 ご両親からそのようにお願いされていますので。」

どうやら僕は聞いていなかったのだが、おじさんとおばさんも式には参加というか、正式な形で見学するようで、この店でそのための服を作ったみたいだった。

服の代金はエリスがまとめて小切手で払ったのだが、おじさんたちは既に自分たちの分は支払いを終えてあった。


式の当日、その日の馬車はダイドールの方で用意して、差し向けるという連絡が事前に来ていた。

「うん、ダイドールもちゃんと家宰としての仕事をしているようね。 ま、このくらいの事は当然だけど。」

とリズは言うのだが、僕は驚いてしまった。 きらびやかな馬車が4台もわざわざ僕たちを迎えに来たからだ。

それぞれの馬車には扉のところにそれぞれの家紋が掲げられている。 僕とエリスの乗る馬車にはブレイズ家の家紋、つまり僕の家紋が、赤い枠の中に描かれている。 アークの乗る馬車には、黒い枠の中にハイランド家の家紋が、リズの乗る馬車にも黒い枠の中にグロウヒル家の家紋が描かれている。 そして、おじさんとおばさんが乗る馬車には枠なしで、他より少し小さくブレイズ家の家紋が描かれていた。


僕たちの馬車の御者席にはダイドールも乗っていて、話をすることが出来た。

「エリス様、事後承諾になってしまい申し訳ありませんが、この馬車だけは絶対に必要になりますので、今後のことも考えて購入することにしてしまいました。 申し訳ございません。」

「いいえ、私は庶民ですから、そういう貴族に必要な事とか全くわかりませんから、その辺のことはダイドールさんが家宰として、ターラントさんと相談して決めてもらえれば一向に構いません。」

「はい、ありがとうございます。

 領地に移りましたら、早急に子爵家としての金銭管理と、皆様方の仕事の方とは別にきちんと分けて管理するようにしていく必要があると思います。

 向こうに移動しましたら、エリス様とは最初にその辺の相談をさせていただけると嬉しいです。」

「はい、分かりました。

 私には貴族家としての管理だとか、領地の管理だとかということは全く分かりませんから、一から教えてくださいね。」

「はい、こちらこそよろしくお願いします。

 エリス様が素晴らしい事務処理能力をお持ちなのは有名ですから、私の方こそお教え願うことがたくさんあるのではないかと思います。」

「えっ、エリスって有名なの?」

「はい、カンプ魔道具店の全てを一手に回している女傑と、その筋では有名でございます。」

「そんな、女傑だなんて、過大評価も甚だしいです。 私はただ、他の人が全くやらないから、私が経理だとか、組合との日々の折衝をしなければならなかっただけで、ただ必要に迫られて業務をこなしていただけです。」


エリスがなんだか困っているので、僕は別の話題を振った。

「そう言えばちらっと馬車の家紋を見たのですが、僕らの乗った馬車は家紋の周りが赤でアークとリズのは黒、おじさん、おばさんが乗った馬車は枠がなかったのですが、何か意味があるのですか。」

「はい、家紋の枠の色は決まりがあって、子爵は赤、男爵は黒なんです。 そして単なるその家の者は枠なしとなります。」

「色々と決まりがあるのですね。 ちなみに、もっと上はどうなるのですか。」

「伯爵は白で、侯爵は銀です。 公爵となると王家と縁続きですから金ですね。

 王家はちょっと特殊で、陛下のみが金枠、王太子様が銀枠、以下それぞれの地位に合わせて、白、赤、黒となります。 でもきちっとした決まりはなくて、陛下が許した色という感じでしょうか。 王妃様や、王太后様などは大体は銀ですが、それ以外となるとバラバラですね。」

「なるほど、難しいのですね。」

「ま、王家の枠の色なんてバラバラなんですけど、それによって王室内の順位がわかるということにもなるのですけどね。」

ああ、まあ、僕らには関係のない話だね。


叙爵式は式自体は簡単に終わった。

年始にある通例の叙爵式は、多くの貴族が集まり一年に一度の最も重要な儀式という感じになるらしいが、時々僕たちのような時期外れの少人数の叙爵式も行われるらしい。

その時には関係者のみなので、部屋も小さな部屋で行われる。 だから逆に式の後に、年始の式ではあり得ないのだが、親しく陛下と言葉を交わすことが出来たりもするのだという。 僕たちは数少ないそういった例となった。


「ブレイズ子爵、そなたたちはどうも他の貴族から敬遠されるというか、煙たがれる存在になってしまったようだ。 今の貴族どもは少し魔力を持っていたり、少し魔力量が多いことが貴族である理由だと勘違いしている。 そこにそなたたちが現れ、魔力量が多いことで急激に頭角を現したシャイニング伯を倒した。 貴族にとっては、急激に頭角を現したシャイニング伯も気に入っていない者が多かったが、それでもシャイニング伯は魔力量が多いという貴族も納得せざる得ない理由を持っていた。 ところがそなたらは魔技師レベルの魔力量しかないのに、シャイニング伯を破り、結果として彼を破滅させた。 まあ、その件については余の意向でもあったのだがな。 それだから彼らの価値観としてはあってはならない、認められない事態ということで、危険視されてしまったのだな。

そういった訳で、余の意向とはかけ離れたことではあるのだが、そなたたちの領地は王都から遠く離れた地となってしまった。 この事については、そういった貴族を抑えられない余にも罪がある。 許してくれ。」

「いえ、陛下、そのような謝罪は全く不要です。

 少なくとも僕は庶民でしたので、いきなり貴族として多くの者と交われと言われるのが一番困るので、王都から遠く離れた場所を領地にいただいたのは、かえって良かったと思っているくらいです。」

「そう言ってもらえると、余としても気持ちが楽になる。

 それではカランプル_ブレイズよ、その言葉の褒美に余はそなたの願いを一つ聞いてやろう。 何かそなたに願いはないか。 わしにできる事なら、力を貸そう。」


そんな事を急に言われても、何も考えてこなかった僕には、とっさに何も思い浮かぶ事はない。

領地のことを何か尋ねられるかと、そっちは一生懸命シュミレートして来たのだけどなあ、と思ってふと思いついた。

「陛下、それでは私の領地に水の魔導師を1人派遣していただけないでしょうか。 水属性の魔導師は全て王家の組合に所属しなければ、水属性の魔法は使えません。

 私がいただいた領地の一番の問題は水の魔石を手に入れるには片道3日かけて王都かその近くの町まで最低来ないと水の魔石を手に入れることが出来ないことなんです。 領地を視察してみて、領民のその面倒をなんとか解消してあげたいと思ったのです。」

「なるほど、確かに水の魔石を得るために片道3日の旅をしなければならないのは、とても大きな負担であるな。 それは王としてもどうにかしたい問題だ。」


陛下は僕の望みを真剣に考えてくれたようだ。

「誰かある。 水組合の者を呼べ。」

少し待っていると身分のありそうな男がやって来た。

「陛下、お呼びでしょうか。」

「ああ、ブレイズ子爵の領地に水の魔導師を1人派遣したい。 その人選をせよ。」

その言われた男は、なんのアクションも起こさずに、陛下の言葉を聞いたままの姿でいたのだが、一呼吸置いて陛下に言った。

「お言葉承りましたが、その人選は難しいかと思います。

 誰も子爵の領地のような王都から遠い地に行くことを了承する者はいないかと思います。

 現在、王都及びその周辺の町では、ここに今いるブレイズ子爵たちの功績によって、今までではあり得なかったのですが、魔石が余った状況となっております。 そしてその余った魔石を我ら水の魔導師が使って水の魔石を作り、それによって農地拡大を図る計画が進んでいます。 つまり水の魔導師は王都周辺に十分すぎる程の需要があるので、離れたいと思う者は存在しないでしょうし、我々としても1人でも多く確保しようとしているで、子爵には申し訳ありませんが、回す余裕もありません。」

「わかった。 下がれ。」

男は部屋から出て行った。


「すまぬ。 どうも力になれそうにない。

 そなたらの魔道具の功績によって、魔石に余裕が出来て生まれて新たな事業が、その功績者の小さな望みを潰すとは、なんとも皮肉な事になってしまったな。」

きいていて、僕もこれはダメだと思ったので、陛下に文句を言えるわけもない。


と、僕はつい呟いてしまった。

「うちの店にも水属性の魔技師はいるけど、その属性を使わせる訳にはいかないからなあ。 ちょっと、どうしようもないな。」


その呟きを陛下に聞かれてしまった。

「カランプル_ブレイズ、水属性の魔技師がそなたの店にいるというのは、どういう事だ。」


僕は陛下の言葉にちょっとパニックになった。 何か問題があったのだろうかと思ったのだ。

「はい、確かにいますが、水属性の魔法は一切使っていませんから、問題はないのではないかと思うのですが。」

「いや、そんなことは聞いていない。 水属性の魔技師が何故、そなたの店にいるのかを聞いておる。 水属性は全て王立組合に所属しているのではないのか。」

「はい、基本はそうなのですが。 王立組合では強力な魔導師から、魔力の最も弱い魔技師まで一緒の組織ですので、やはりなんと言うか、庶民出身だったり、下級貴族の魔技師ですと、何かと居心地が悪いみたいで、魔技師自体を諦めたり、水属性を使わずに私の店で募集している魔石に魔力を込めるだけの仕事をして、水属性を持ちながら王立組合に所属しない魔技師もかなりの数がいるようなのです。

 そういった1人が、私の店の店員にもいるのです。」


「そうであったか。 余は王立組合にそのような問題があったことは、全く知らなかった。 王立組合のトップは王である余である。 余の不明であった。」

王様はちょっと考え込まれてしまった。


「ま、王立組合の問題は今ここで考えて、すぐにどうなる問題ではないな。

 今はそなたの領地の問題である。

 よし、こうしよう。

 カランプル_ブレイズよ、そなたに特別の許可を与えよう。 そなたの領地に限り、そなたの店で売り出した水の魔道具の使用を許可する。」

「はい、えーと、つまり、カンプ魔道具店で水の魔道具を開発したり販売しても良いと、ただし使用できるのは、私の子爵領の中のみということですか。」

「そういうことだ。 そなたの領地のみとはいえ、広大な広さがあるから、その気になれば大量の魔道具が必要となろう。

 カランプル_ブレイズ、アウクスティーラ_ハイランド、エリズベート_グロウヒル、そなたたちの領地の開発を楽しみにしているぞ。」


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