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視察から帰って

僕たちはその後3日ほど村長の家に滞在して、村長の案内で色々なことを教わった。

集落の中の他の家は村長の家の様に半分埋まっているということはなく、普通に地上にあった。 村長の家は特別で、それは砂になっている丘の下の一番条件が良い場所にあるかららしく、埋まっている目的は寒暖の差が緩和されるからだ。 そうこの地は昼と夜の寒暖の差が激しいのだ。

他の家の周りにも木が一本は植わっていて、その葉陰になる様に家が建てられている。 それによって強い日射しを遮って、家が熱くなるのを防ぐとともに、空気が和らぐのだという。

そしてこの地方はどこもかしこも塀だらけだ。 正直に言えば、道を行くと塀しか見えない殺風景な風景に近い。 だから家がある場所だけは木が見えるのですぐに解る。 で、その塀の内側が畑になっている。

とにかく、この地の問題は、まず当たり前だが水がないことだが、これは僕らの国全体の問題で、特別じゃない。 もう一つが完全に砂漠の中の村だから、風が吹けば砂が飛んでくることだ。 そのままでは砂の動きが大きくて畑など作れない。 だから塀で囲って、風で飛んでくる砂がほとんど入らない様にして畑を作るのだ。 村長によれば、囲って水をやれば、簡単に畑はできるそうだ。 まあ、実際は下が土ではなく、砂だから栄養分が少なくて、良い畑にするのは大変らしいが、それでも水さえあれば結構色々な植物を栽培できるらしい。


僕たちはその3日で戻ることにしたのだが、ダイドールとターラントは最初の計画ではそのままこっちに居着くことになっていたが、それでは僕たちとの打ち合わせ時間があまり取れないので、もう3日ほど残って村長や村人と打ち合わせをして一度戻ることになった。 ちなみにこの2人はすでに代官の使っていた建物に持って来た家財道具などは全て運びこみ、そこでの生活を始めていた。

村を去る時に、僕たちはもしもの時のために用意して来たりした魔道具や、魔石を村長にお礼にあげて来た。 魔道具も喜ばれたが、念のためにと多めに持って行っていた水の魔石が一番喜ばれたのは、当然のことなのだろう。

帰りに中間点の小屋に立ち寄ると、小屋の中にメモが残されていた。 あの僕に一言も話す隙を与えずに王都に戻って行った代官が、小屋を使わせて頂いたという報告というか、礼状というか、ま、そんなものだ。

アークは前の時のやり残した改造を色々とすぐに始めた。 小屋の排水が流れ出る場所に、木の種を植えた。 村長にこの小屋の話をして、木を植えてそれがもし育てばと話したところ、村長がくれた種だ。 この種は村長の家の前の木、正確には村の家のところには全て生えている木なのだが、この木は乾燥に強く、水さえあればどこでも育つ木なのだという。 その上、出来る実は食べると美味しく、乾燥させたものは村の一番の収入源なのだとか、良いこと尽くめの木なのだそうだ。

「乾燥させる時に種は抜きますから、水さえあればいくらでも植えることが出来ますぞ。」

と村長は豪語していた。

僕は、この道を往復する人の排水・汚水だけで、この種が芽吹いて育つものかどうか危ぶんでいたのだけど、村長は大丈夫なのでは、とのことだった。 たまにしか往来する人がまだいないから、たとえ芽吹いても枯れてしまうことを僕は心配したのだけどね。


僕たちは町に戻り、今後のことを話し合った。

どう考えても、今のままでは領地の方に移って生活が成り立たない気がするのだ。

今回僕たちは、食事などは村長に用意してもらったが、それは短期間でこの程度の人数だから済んだ話で、僕らがあの村に定住し、今以上にもっとずっと人数が増えれば、食料不足は目に見えている。 それ以上に深刻なのは、馬の飼料となる物がほとんどないのだ。 僕らが移住すれば、ひっきりなしに魔石の運搬の馬車が通うことになるだろう。 その人たちの宿舎や厩舎なども問題になるが、それは土属性の魔導士に任せればなんとかなる。 でも、食料、飼料、水はどうにもならない。

水に関しては、もう水の魔石をどんどん買って持って来てもらうしか方法がないのだが、食料、飼料まで馬車に積んで全て持って来てもらうのでは、流石にコストがかかり過ぎる。

アークが言った。

「俺たちで水の魔石を買い込んで、それを提供して村人に耕作地と牧草地を増やして貰うしかないと思うな。 いや、耕作地はともかく、まず牧草地は自分たちでどうにかする必要があるかな。 村人がそこまで手は回らないだろう。」


もう一つ僕らにとっての問題は、ラーラの存在だった。 僕たちは、僕とエリスが夫婦であることを除けば、まだ独身だから移住はまあ簡単だ。 そんな訳で6人で領地の視察に行ったのだが、その間に、ラーラは僕たちに宣言していた通り、家族での話し合いをしっかりと持ったようだ。

僕は正直に言って、ラーラにまで領地に来て貰う必要はないと考えていた。 それにカンプ魔道具店の正式な店員が、この町に1人くらい残っているのも良いことだと考えていた。 どうせ、頻繁に組合による魔石の双方向の輸送があるだろうから、それに手紙を託せば、意思疎通もそんなに問題にはならないだろうということもある。

しかし、ラーラの考えは違った。 視察前の宣言通り、ラーラには自分だけこの町に残るという選択肢はなく、移住の決断を家族に納得させる時間が欲しかったというだけのことだったようだ。

「私は今の生活は、確かにこの町に居れば維持出来るし、子供を育てる環境としてはこの町にいる方が良いのかもしれない。

 でも、みんなが新しい領地に移れば、今までこの町が変わった以上に、新たな領地の村はどんどん変わっていくでしょう。 それを一緒に考えたり、そこまでいかなくても少しでも手伝ったり、いやもっと単純に自分の目で見ることが出来るだけでも、一緒に行かないなんて選択肢はないわよ。

 カンプくん、うちの家族はこの町では普通の、町の外側の区域で畑を作っている農家だけど、私たちがカンプくんの領地の村に行っても、領主として魔力がなくても仕事くれるよね。 仕事あるかは見て来てくれたよね。」

「うん、それは大丈夫だと思う。 正直、今少し考えるだけでも、人手は全然足りてないから。」

「それなら、うちの家族は今までと同じくらいの生活はできるよね。」

「えーと、本当に田舎だから、今と同じ生活というのは難しいかも知れないけど、僕たちと同じ生活はできると思うよ。」

「それなら十分よ。 領地の方に行って、時間が経っていけば、どんどん村は変わっていくことでしょう。 そうすれば、生活はどんどん良くなるというか、便利になっていって、きっとここに居るのとそんなに変わらなくなっていくわよ。 私はそう思うわ。」

ラーラは妙に確信めいたことを言って、一家揃って移住する決断をしてしまった。

このラーラの決断は、後から考えると、とても大きな出来事だと思う。



そんなことを僕たちは、少しだけ溜まった仕事をこなしながら話し合っていたのだが、3日後に、しっかりとダイドールとターラントは僕らの家にやって来た。

「いやあ、驚きました。 村長からあの木は水さえあれば凄い勢いで成長すると聞いていましたが、あの中間点にもう苗木程度の木があるとは思いませんでした。」

ターラントは手で自分の腰程度の高さを指し示しながらそう言った。

「えっ、種植えたの3日前だよ。 たったそれだけで、そんな大きさに育つの?」

僕たちもみんな驚いた。

「きっと、水があって成長出来る時には出来る限りあっという間に成長して、水が無い時には休眠してやり過ごすという生態なのかしら。」

リズが分かったような、分からないことを言ったけど、凄い木があるんだなぁ。


「みなさんがこちらに戻ってから、残った私たちはもう少し村長や村人たちと話し合いまして、私たちが完全に向こうに移住した時の村作りというか、町のプランを考えて来ました。 まずはこの計画図を見て下さい。」

僕はその計画図を見て、また驚いた。

「ええっ、こんな大きな町を作るの?!」

ダイドールが僕たちに見せた計画図はとても詳細なもので、その細かく計画されているところにも驚いたのだが、何よりもその規模に驚いた。

「おいおい、こんな大きな町を作るのかよ。」

「こんな大きな町が必要なの?」

「それに、ここ、領主邸って書いてあるけど、私とカンプが住むところよね。 他のところとの比較で考えると、すごく大きいのだけど、こんなの私困るわ。」

「私たちの住む家も計画されているよ。」

「あ、本当だ。」

「あらっ、私と私の家族のための家までも、もう計画されているの。」

みんなそれぞれに感想を口にしたが、驚きの言葉でしかない。

「えーと、僕とエリスの家の大きさは別として、ここに居る者たちの家とか、組合の建物とかは分かるのだけど、その他になんでこんなにたくさんの家が計画されている訳?

 それに、町の周りにすごくたくさんの耕作地だとか、牧草地があるのだけど、これ、どうなっているの?」

僕はダイドールに説明を求めた。

「あの、みなさんこの計画図に驚かれているようですが、これは本当に一番最初の最低限の計画でしかありません。

 これはただ、カンプ魔道具店の仕事を領地ですることだけを考えて、それで最低限必要なことを要素として入れたらこれだけになってしまったのです。

 私とターラントで最低、最低と唱えながら考えてみたのですが、どうしてもこれ以下では成り立ちません。」

「カンプ魔道具店で働く人が、ここに居る人数では収まらないと思いますが、仮にここに居る人数だけだとしても、現地で食べる食料が必要になります。 流石にそれを全部運んでくる訳にはいかないですから、現地に耕作地を広げなくてはなりません。 耕作地を広げると、そこで働く人が必要になりますが、現地の人だけではそれを賄い切れません。 するとまた向こうに移住してもらわねばならない人が増えます。 また、住居を作るにも、耕作地を作るにも土属性の魔導師が必要になりますが、その人たちにも住んでもらう必要が出て来ます。 で、また食料が要ります。 必要とする物資は増えて、町との往来が増えます。 すると馬がたくさん来るようになり牧草地が必要になります。 という形に循環していって、最低限でこれだけになってしまいました。」

ダイドールだけでなく、ターラントも加わって説明してくれた。

確かに言っていることは理屈が通っている。


僕たちはちょっと違いに見つめあって、ハァとため息をついた。

「それで、この計画を村長や村人たちには見せたの?」

「はい、計画書を書いたのは向こうを出てからなのですが、口頭では伝えておきました。 やはり驚いていましたが、村にとって人が増えるのは悪いことではないし、現在の村人にも利があるからと賛成してくれました。」

僕はもう一度盛大にため息をついた。

「もちろん、一気にここまで作るのではなく、順次作っていくということになります。」

「色々と考えなければならないことは沢山あると思うけど、とりあえずは分かった。

 戻って来たばかりだよね。 とりあえずこの計画書は置いていってもらっても良いのかな。 あ、そういえば2人ともこっちの家とか、もうないんだったよね。 今日はこれからどうするの? どこか泊まる当てとかあるの?」

「はい、今回はまだ王都の方で、家具などは運んでしまいましたが、今まで使っていた場所がまだ使えます。 みなさんの叙爵式を見学して、本格的に領地の方に移ろうと思っています。」

「そうなの。 大丈夫なら、良いのだけど。 とりあえず、今回はありがとう。 式が終わったら、またもう少し相談させて欲しいのだけど良いかな。」

「はい、もちろんです。 私たちとしてもそれをお願いしようと思っていました。 お式の後にこれからの日程をお伺いしてもよろしいでしょうか。」

「了解した。 それじゃあ、またその時に。」

2人はまだ今度は王都に向けて去って行った。 僕は領地の方に移住したら、この家を用事でこっちに来た人が使えるようにしようと考えていた。


アークはまだ真剣に計画図を眺めていた。

「うーん、確かにこれをよく眺めると、2人が言う通り、一番最初の最低限の計画図なのかも知れない。」

「えっ、そうなの。 2人はそう言ってたけど、これだけでも凄い大変なことだと思うのだけど。 これだけの建物や、塀をどうやって作ったら良いのか。 どうやって人を集めたら良いのか。 そのためのお金はどうしたら良いのか。 頭が痛いことだらけなんだけど。」

「うん、そうなんだけど。

 まだ、この図にはちょっとした町には必ず必要な、商店とかが全く書き込まれてないんだよ。 多分空白で残されているのがそれかな。」

「まだ本当に、一番最初のアイデア段階の図なのかもしれないわ。」

リズもそんなことを言っている。

「どちらにしろ、あの2人がこういうことに関しては、僕たちよりずっと有能であることだけは確かだと思うよ。」

「うん、それは確かに。 僕は説明を受けなければ、こんな大掛かりになってしまうなんて、全く考えていなかったよ。 簡単に僕たちが向こうに移住するだけみたいに思っていた。

 2人が僕たちのところに来てくれて本当に良かったと思うよ。」

「ま、私としては、私の縁で来た2人が無能でなくて安心したわ。」

「いや、その言い方は謙遜しすぎだろ。 リズ、有能な2人を引っ張ってきてくれて、本当にありがとう。 グロウヒル家ではこんな有能な2人を手放して大損じゃないかな。」


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