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組合長との話し合い

結局解決策が思い浮かぶ訳もなく、僕たちはとりあえず手持ちの魔石で、リザとアークは交換用の魔石を書き込むことを練習し、僕は火の魔石を書き込んでいった。

どうやら今までしたことがなかったのだが、火の魔石を書き込む作業だけなら僕の魔力で一日に7個は作れるみたいだ。

アークは自分が書き込んだ交換用の魔石に魔力を少し込めて、それを持ってキッチンに行き、調理器の魔石をそれと交換して試してみている。

「おおっ、ちゃんと作動したぞ。」

「アーク、当たり前でしょ。 遊んでないで、仕事しなさいよ。」

「リズ、俺にとっては、これはとても感動的な出来事なんだ。

 土属性はそれを使う魔道具なんて今までなかったから、魔石に回路を書き込むことは習っただけで、やったことがなかったんだ。

 だから、きちんと書き込めているかが不安だったんだよ。

 土属性の魔技師なんて、ちょっとした土木工事を頼まれるくらいで、全然魔技師らしい仕事なんてなくて、最下級の魔法使い扱いだから。 ま、その通りなのだけど。」

「それが良く分からないんだよな。

 土属性の魔法って、色々出来るじゃん。 パン焼き窯だってアークがいなければできないし、魔道具の線もアークじゃなくっちゃ、とてもじゃないけど簡単には作れない。

 僕から見ると、すごく役に立つ属性だと思うんだけどな。」

「ま、確かにここではそうだけど、アーク以外はそうではないのも現実よね。

 土属性の人は魔道具がないから、何か継続的に決まった収入源というものがないからよね。」

「うん、リズの言う通りかな。

 だから僕はとてもここで恵まれているし、その上、土属性の魔技師としては憧れの魔道具作りの核心である魔石への回路の書き込みにも加わっているんだ。

 感動以外の何物でもないよ。」

「ま、そう言われてみれば、アークの気持ちも分からなくはない気分になってきたわ。」

「感動しているところ悪いのだけど、アークは仕事して、その交換用の魔石にうちの店のマークを入れたり、ナンバーを入れたり、それから秘密の組合のマークを入れるのもアークの仕事でしょ。

 リズはもうそれを止めて、私を手伝って、夕飯の準備を始めないと『帰ってきたのに、何をしているの。』って、私がお母さんに怒られる。」

エリスの言葉に、二人はそれぞれにその指示に従った。

なんというか、ここではエリスが一番権力を持っている気がする。

もちろん、僕も逆らえない。


夕食を食べながら、おじさんが職員さんが訪ねて来たことを話し出した。

「みんな随分と大変な状況になっているようだね。」

「大変な状況というか、僕たちにはその実感が全くないのですけど、急に職員さんの方から危険だから、十分に注意する様にと言われて、出来る限り外出も控えろだの、一人で行動するなだの、色々と注意をされました。」

「うん、まあ、その辺の事情は職員さんからも話は聞いたよ。

 まあ、私も予想していなかった訳ではないから、驚きはしない。

 ただまあ、北の町のことで、その時期が随分と早まってしまった感はあるけれども。」

「えっ、おじさんはこの事態を予想していたのですか?」

僕が口にするより早くリズが口にした。

「まあ、きっと既存の魔道具店がちょっかいを出してくるとは予想していたよ。

 ま、それが職員さんが言うように、身体的な危険を考えざるを得ないところにまでなるとは思っていなかったけど。」

おばさんが急激に反応した。

「身体的危険て!! この子たちが襲われる可能性があるということなの?」

おじさんは、しまった、つい口を滑らしてしまった、という感じで。

「いや、そこまで今危険が高まっているということではない。

 ただ、このままだとそういう危険も考えないとならなくなる可能性もあるから、少し手を打とうという話を、私は職員さんとしていたのだよ。

 だから、そんなにお前が熱り立たなくても大丈夫だ。」

僕は、そうかおばさんが熱り立つ程のことなんだ、と改めて思った。

「それだからリズちゃんが、カランプル用にと思って前に用意した部屋に急に住むことになり、アーク君もこの家に住むことになったのね。

 急だったから、どうしたのかなと思ったのだけど、そういうことなのね。」

おばさんの興奮は一向に落ち着く様子はない。

「いい、あなたたち、特にエリスとリズちゃんは、この問題が解決するまでは外出禁止。カランプルもアーク君も極力外出は控えなさい。

 外に出る用事がある時には必ず私に声をかけて、私の許可を取ってから出掛けること。

 誰か護衛を用意するから、一人で出かけないこと。

 私とこの人の持つもの全てを使ってでも、あなたたちを守るから、安心していなさい。」

あ、これはダメだと僕は思った。 おばさんがこうなってしまったからは、もう絶対におばさんの言う通りにしなければならないのだ。

参ったなあ、と僕が思っていたら、エリスもおじさんも渋い顔をしている。

リズとアークはというと、感動して今にも涙を零しそうな顔をしている。

「ま、とにかく、明日の午前中に組合長と職員さんが来るそうだ。

 私にも同席してほしいとのことなので一緒に組合長たちを迎えて話をしよう。」

食事の後は、もう疲れたので、僕たちはすぐに眠りについた。

僕は自分の部屋でぐっすりと眠れたのだが、リズとアークは新たな部屋でどうなのかなとチラッと眠りに入る前に思った。


翌朝、朝食が終わり、まだ食後のお茶をみんなで飲んでいる時に、早くも組合長と職員さんはやって来た。

「早くにすまないな。 もう少し外で待っていようか。」

組合長が意外にも僕らに気を使って、そんなことを言った。

いや、僕らに気を使ったのではなく、おじさんとおばさん、特にきっとおばさんに気を使ったのだろう。 おばさん、すごく険しい顔をしているから。

「組合長、大丈夫ですよ。 中で一緒にお茶でもまずは飲みましょう。

 さあ、エリス、組合長と職員さんの分のカップを用意して。 お前はお茶を淹れてくれ、お前が一番お茶を淹れるのが上手なんだから。」

おじさんはそう言って、組合長たちを招き入れ、おばさんの機嫌をちょっと取った。

僕は組合長が中に入りながら、おじさんに視線で礼を言ったのを見逃さなかった。

きっとそれは招き入れてくれた礼じゃないよね。


お茶を一杯ゆっくり飲んでから、話し合いが始まった。

おばさんはおじさんの横に席を占め、また険しい顔をしている。

「まずはカランプル、今、お前たちがどうにもならなくて困っていることを言ってみろ。」

組合長はそんな風に話を始めた。

「はい、昨日・一昨日と北の町に行ったのですが、そこで予想外に大量の調理器の注文の予約を受けてしまいました。

 とりあえずなんの用意もして行かなかったので、一週間後にできるだけの数を作って、また北の町に行くことになりました。

 それでまあ、調理器を作らなければならないのですけど、手元に魔石があまりないんです。

 魔石を大量に買う資金もないですし、狩に行って普通に魔石を獲るのでは間に合わないし、八方ふさがりの状況です。」

「それでまさかまた、あれを使って大量に魔石を獲ろうと考えている訳じゃないだろうな。」

「それは怒られるのが分かっていますから、最初から無しで考えていました。

 だから解決策が何も思い浮かばない状況です。」

「組合長、ほら、私が予想した通りの状況になっているでしょ。」

職員さんが組合長にそう言った。

「ああ、全くだ。 予想してた通りのことになっているな。

 そこでだカランプル、その必要な魔石だが、組合で用意してやってもいいぞ。」

「え、くれるんですか?」

「馬鹿か、誰がタダで魔石をやれるか。 そんなことしたらあっという間に組合が干上がっちまうわ。

 そうではなくて、後払いで売ってやるということだ。

 もっと具体的に言えば、売ってやった魔石の支払いが終わるまでは、組合に入れている交換の魔石の利益を今までの1/3ではなくて、2/3にするということでどうだ。 もちろん支払いが終われば、1/3に戻す。 これでどうだ。」

僕は3人の顔を見たが誰も文句を言うという感じはなく、賛成の様だ。 とても良い条件で、僕たちに損はない。

「はい、それで頼めるのであれば、お願いしたいです。」

「まあ待て。 そんなに慌てるな。 世の中そんなに甘くない。 ここからが交渉だ。

 こういう好条件で魔石を回してやるのだから、一つ条件がある。

 今まではお前の店の方で魔石を管理して、その利益の1/3を組合に持ってくる形になっていたな。 もちろん詳しい帳簿付きで。

 それを逆に、組合の方で全ての交換の魔石を管理し、そこで得られた利益のお前の店の分を組合が払う形に、今までとは逆の形にしたい。

 こういう条件でどうだ。」

「なるほど、そういうことですか。 組合長、ありがとうございます。」

おじさんが声をあげた。

僕にはどういうことなのか訳が分からない。

僕たちみんながキョトンとした顔をしていると、おじさんが説明してくれた。

「つまりね、組合が直接カンプ魔道具店の交換の魔石を扱うことにしたことによって、組合がカンプ魔道具店のバックに正式についたと表明したことになるのだよ。

 だからお前たちに危害を加えてくれば、それは組合に敵対したことになる訳で、魔技師が組合に楯突こうとは絶対に考えないから、それによってお前たちの身の安全を確保しようという話なんだよ。

 組合長、本当にありがとうございます。 私もやれやれです。」

「いや、これはあんたのお陰でもある。

 あんたが北の組合に恩を売ったから、ウチと北で同じ歩調を取りやすくなった。

 ウチと北で組めば、ほんの少しの後には同じ問題が起こるはずの南も、それは同調してくるってもんさ。

 あんたが支店を北に出してくれた時点で、決まったも同然のことだった。」

おじさんが、北の町に支店を出すことに、そんな意味もあったのか、と僕は思った。

おじさんが、この町の店だけで自分たちは十分と言いながら、北の町に支店を出すことに積極的だったのは、おじさんは端からこの事態を予測していたからだろう。

僕らには全くなかった視点で、やはり僕らはおじさんに守られていたのだ。


「そういう訳だから、北の町でも南の町でも、交換の魔石は直接に組合で扱うことにする。

 具体的に運営していけば問題も出てくるだろうが、それはその時その時解決していくことにすれば良いだろう。

 そういうことで良いな。」

僕たちに嫌がある訳がない、4人でよろしくお願いしますと頭を下げた。

「それでは具体的な運営の話は、私とエリスさんに、おじさん、おばさんを交えて話をしましょう。

 カランプル君、アーク君、リズさんの3人は魔道具作りに今はそれどころではないでしょうから。」

職員さんはそう言って、具体的な運営の話のために場所を変えようかと腰を浮かせかけた。


「おいおい、待て待て、もう一つ話があるだろうが。」

「おっと、そうでした。 組合長、どうぞ続けてください。

 あ、ちょっと待ってください、難しい話になる前に、私も確認しておくことがありました。

 カランプル君、魔石の交換は、魔技師でないと出来ませんか?」

「いえ、魔石の交換自体は難しいことではないので、誰でも交換することはできます。」

「そうですか、それを聞いて、組合での運営方法が楽になりました。」

「それでだカランプル、先ほど少し話題になったのだが、あの魔力を魔石に溜め込む杖の魔道具は、形や大きさはどうとでもなるよな。」

「はい、あの形はただ単に狩に行くのに都合が良いかなと考えただけですから。」

「それだったら、こういう目的で作るとしたら・・・。」

組合長の話は、本当に機密扱いにするべき話で、僕たちにとってはその必要が疑わしいというか、そこまでの必要があるのかと感じるモノだった。


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