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北の町から始まって

北のまちにまた向かう馬車は二台になっていた。

どちらも組合の職員さんが手配してくれた。

一台には職員さんと僕たちが乗り、もう一台にはそれまでに一生懸命作った調理器が30台積まれている。

一日に目一杯で7台分の調理器用の火の魔石を僕は作れることが分かったが、他にしなければならないこともあり、実質5日で30台が目一杯だった。 リズの作るお知らせライト用の光の魔石は、回路が僕の作る火の魔石より簡単なのか、それともリズの方が僕よりいくらか魔力があるのか、一日に12個作ることが出来た。 アークの担当した交換用の魔石は一日に10個作ることが出来て、こっちは回路が簡単だからなのは分かっている。

それでも、調理器だけで30個、それの交換用の予備の魔石、すでに北の町で稼働しているパン焼き窯の交換用の魔石も12個必要と考えると、この5日でアークが作れた50個の魔石ではどう考えても足りない気がする。

僕とアークは馬車の中で、交換の魔石を書き込んでいる。 リズはというと、もう疲れたから勘弁してほしいと、エリスと軽いおしゃべりをしている。

おかしい、どう考えてもおかしい、元々は僕が楽をするために考えたことなのに、今の僕たちはとてもじゃないが、怠惰な魔技師ではなくて、激務の魔技師になっている。

僕が一息入れようとして、ついため息をついたら、職員さんに同情されてしまった。

「ま、カランプル君、アーク君、しばらくの辛抱ですからね。

 そうすれば君たちは何もしなくてもお金が入ってくるようになります。

 そうなってしまえば、望み通りの怠惰な魔技師になれて、好きなように新しい魔道具の開発の研究ができますよ。」

「いえ、それを望んでいるのは、カンプで、僕は今の忙しさがまだ嬉しいんです。」

アークがそんな風に職員さんに答えた。


僕たちは北の町に着くとすぐにおじさんの店の支店に行った。

「今回は調理器を30台持ってきたので、注文の上から30人に売ってください。

 売るときに元の調理器は引き取りますと伝えて、なるべく前の調理器は引き取っておいてください。 前の調理器のミスリルを買い取れば、調理器を買う人はかなり助かるでしょうから。

 それと、今回の調理器には交換の魔石が付いていません。

 これからは交換の魔石を自分で組合に行って買って、自分で交換することになったことも伝えてください。

 以前の調理器を担当していた魔技師さんには、カンプ魔道具店の交換の魔石は全て組合で直接に扱うようになったから、組合に行って詳しい話を聞いてくださいと伝えてください。」

「あ、カランプル君、魔技師さんに組合を訪ねてもらうのは明日からにしてもらわないと、まだ、今日ここの後で北の組合との正式な打ち合わせですから。」

職員さんに、僕の伝えていることの間違いを指摘されたりもあるけど、とりあえずは伝えるべきことは伝えたつもりだ。

「それでカランプルさん、・・・。」

僕はとりあえず支店をおじさんから任された、こちらの支店長さんの言葉を遮った。

「さん付けはやめてください。 僕たちはお客ではないのですから、こんな若造に支店長さんが、さん付けするのはおかしいですよ。 以前のように普通に君付けで呼んでください。」

支店長さんは、ずっとおじさんの店で働いていた人だから、僕やエリスはもちろん前から面識があるのだ。 その人に『さん』付けで呼ばれるのはどうも違和感があって、僕は嫌だった。

「それじゃあ、以前のように君付けで呼ばせてもらうよ。

 でも、カランプル君はもうこの店と正式に取引をする魔道具店の店主なんだ。

 そういう場合、社会的には普通『君』ではなく、少なくとも『さん』なんだよ。

 ちょっと偉ぶった人だと『さん』でも不機嫌になって、『様と呼べ』なんて人も一定数いたりもするんだよ。」

「そんな、僕たちが偉ぶったりなんてできる訳ないじゃないですか。

 僕やエリスは支店長さんには小さい時から構ってもらっているし、僕が魔道具店の店長だなんて言ったって、名ばかり店長で、まだおじさんに助けてもらって、やっと店が出来ているだけですし。

 もう最近、自分たちがまだまだダメダメだって思い知らされることばっかりで、支店長さんも気になることがあったら教えてください。」

「うん、まあ僕もカランプル君たちは、取引先の店という風にだけにはとても思えないし、支店長という立場より、前からの知り合いという感じで話させてもらうよ。

 ま、それに将来的には、カランプル君がエリスちゃんと、おっとこっちはもう『ちゃん』付けじゃなくて『さん』付けにしないと怒られちゃうな、エリスさんと結婚してこの店も継ぐことになるのだろうから、取引先の店主というのも違うしね。」

僕と店長さんの話は、直接的な仕事の話からだんだん離れていってしまった。

「カランプル君、今日は急いでいるから、支店長さんとのおしゃべりはまた今度の機会にしてくださいね。」

ん、職員さんに注意されてしまった。

「ああ、どうもすみません。

 それでカランプル君、次はまた何時来てくれますか。

 予約は前の時よりも増えているのですよ。

 流石に間に合わなくて、今までの調理器を修理するために線も売れ始めましたが、あくまで応急処置程度のことらしくて、新しい調理器を求める人は増えているのです。」

「はい、また一週間後に、出来るだけ作って持ってきます。」

「今回は調理器だけでしたが、ランプも忘れないでくださいね。

 そっちも次々に予約が入っていますから。」

ちょっと他人事のように僕らの会話を聞いていたリズが、

「えっ、私も。 そんな余裕ないよ。」という顔をした。

うん、確かに魔力切れを起こすくらいに僕らはみんな今働いているのだ。

それでもリズは今現在少しは余裕があるはずだ。

僕とアークはリズに朗らかに言った。

「リズ、注文は頑張ってこなそうぜ。 今は頑張るしかないよな。」

リズがすごく嫌そうな顔をした。


それから僕たちはパン屋さん3軒を訪ねて、今後魔石の交換は組合で交換の魔石を買って自分ですることになったことを伝え、最後に北の組合との打ち合わせとなった。

僕たちは北の組合から大量に魔石を渡された。

北の組合長はニコニコしている。

「ま、今渡した魔石がすぐに利益になる訳ではありませんが、確実に利益を生むと分かっているのですから、私たちとしては良いことづくめです。

 事務処理はかなり増すことになりますけど、それも人員を1人2人増やせば済むでしょう。

 頑張ってくださいね。 期待しています。

 それから、もちろんですが、北の町の組合としても、あなたたちは全力で守りますからね、安心してください。」


僕たちは今回は北の町には泊まらずに、強行軍で夕方遅くに自分たちの町に戻って行く。

馬車の中でエリスが頭を抱えている。

「あー、お父さんに身の丈にあった商売をするようにと注意されたのに、何かする度に膨大な負債が出来ていく。」

僕は調理器を作ることばかりに一生懸命で、そんなことは頭の中で隅に追いやられていて、忘れていた。

「膨大な負債って、どれくらいになっているの?」

僕は恐る恐るエリスに聞いてみた。

「カンプだって、今回北に持ってきただけで、魔石が何個になっているか分かっているでしょ。」

僕とアークはエリスの言葉の勢いに押されて、急いで数えてみた。

「えーと、調理器には一台につき3個使っているから、90個だな。」

「予備の交換用魔石をパン焼き窯の分も含めて、20個もあるよね。 合わせて110個だ、今日持ってきたのは。」

アークが僕に続いて、付け加えて計算した。

「確かに持ってきたのは110個だけど、今週で考えたら、私たち自身の町で請け負っているパン焼き窯や、調理器、ライトの予備の交換用魔石を10個作ったわ。 それでもギリギリだったわ。」

リズも付け加えた。

「つまり、この一週間で結局120個の魔石を使ったのよ。 その内、私たちの手元にあった魔石は30個だけ、つまり今週だけで魔石90個分の負債を抱えたのよ。

 そしてさっき北の町の組合で渡された魔石が、切りの良い数にしましょうって100個よ。

 つまり今現在だけで魔石190個分の負債を抱えた訳よ。

 それで、これからも調理器やライトの注文はたくさん入っているから、毎週毎週その負債は増えていくのよ。」

そう考えると、僕も顔色が青くなってしまう気分だった。

魔石190個分の負債ってどれだけ? つい最近まで僕は月に5-6個の魔石を買うのを節約するために頑張って自分で狩をしていたのだけど。

数が多すぎて、見当がつかない。 そしてその負債がどんどん増えていくって、一体どうしたら良いんだという気分になる。


「エリスさん、そんなに深刻にならなくても大丈夫ですよ。

 確かに莫大な負債になるでしょうけど、その支払い方法も確立していて確かなのですから、何も心配することはありません。

 そうですね、ここ1ヶ月くらい頑張って北の町に調理器やランプを納入すれば少しは落ち着いて、3ヶ月後くらいからは負債が徐々に減る方向に転じるんじゃないですか。

 そうすればエリスさんも安心出来ますね。」

「それなら良いのですけど、お父さんのお店だって、こんなに大きな負債抱えたことなんてなかったのに、と思うと、なんていうか不安になっちゃって。」

「そうですね。 普通のお店でしたら、これだけの負債を抱えたら当然潰れてしまいますし、それだけでは済まないです。

 でも今回は負債という括りにはなりますけど、組合が責任を持って進めていることですから、そんな心配はないから大丈夫です。 エリスさんも安心していてください。

 まあ、経理や事務を全て1人で担当しているエリスさんにしてみれば、数字を見るとすごい数字が並んでいるでしょうから、そういう気持ちになるのは仕方ないですけど。」


それから1ヶ月僕たちは毎週北の町に納品に通った。

僕たちは休みなく毎日働いて、週に調理器を40台、ランプを10台、交換用の魔石を60個、北の町に持って行った。

リズは結局、お知らせライトなら一日に12個作れるけれど、ランプ用の光の魔石は一日に6個しか作れず、こういう台数になったのだった。

魔石に書き込む回路によって、あらためてこんなに使う魔力量が違うのだと認識した。

最近の僕は調理器用の火の魔石ばかり作っているので、その差がよくわからない。 確かに交換用の魔石の方が数は作れるけど、吸収の魔石はどうだったろう。 確かめている暇もない。

怒涛の1ヶ月が過ぎて、どうやらほぼ北の町に僕たちの調理器が行き渡ったようで、やっと予約の注文が途切れてきた。

やれやれと思ったのだが、また心配事が出来た。

最初の方に渡した調理器は1ヶ月が過ぎて、そろそろ普通なら魔石の交換時期になると思うのだが、誰も魔石の交換に組合に現れないのだという。

北の組合でも不審に思ったらしくて、組合の職員が簡単に調べに行ったらしいのだが、どこもまだ魔力が残っていて、お知らせライトは点いていないとのことだった。

「ああ、そういうことね。」

その話を聞いたリズがそう言った。

「つまり普通の調理器の魔石には火を出す回路と、魔力を貯める回路と、安全回路、スイッチにつながる回路という風に回路の量が多いじゃない。

 それが交換の魔石の回路だとほとんど魔力を貯める回路だけだから、回路の量はずっと少ない。

 だから貯められる魔力の量が増えて、同じ一個の魔石でも貯まっている魔力の量が多くなるのよ。

 それで今までより長く保つのよ。」

僕たちや、組合の人たちはなるほどと思ったが、ちょっと痛し痒しという気分だった。

それだけ交換の魔石の回転率が悪くなり、儲からないということだから。

でも調理器を使う人の方は喜んだ。

魔石一個の値段は、自分で交換するから、魔力のなくなった魔石をきちんと組合に返すことで、少し安くて、なおかつ今までより長く保つのだ。


この僕たち店で売り出した調理器やライトの評判は瞬く間に広がった。

北の町の予約注文がやっと終わったと思ったら、自分たちの町でも、次々と予約が入るようになり、南の町からもわざわざ予約しに来る人が出るようになった。

「おう、俺たちのアイデアなのに、今のところ北の組合を主に儲けさせることになっていたが、これで俺たちも直接儲けることができるな。」

組合長は悪人面で喜んでいたが、やっと少し暇になると思っていた僕らは、その後もずっと毎日働くことになってしまい、全て方が付くのに、半年近くかかってしまった。

エリスはもう諦めてしまって、帳簿を笑って見ているだけになってしまった。

僕も、もうあまりに負債となっている魔石の数が多過ぎて、訳がわからない。


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― 新着の感想 ―
[一言] ・今まで魔石付きで販売した商品は、当然魔力を補填した魔石コストも含めた価格になってるんでしょ? その魔石のコストも、自分達で獲ってくるんじゃなくて購入前提にしてあるはずだし、魔道具売れば売る…
[良い点] エリスが壊れた!!…………あ、良い点ではないですね、はい。 [気になる点] 借金がいっぱぁ〜い、あはははははは…… [一言] ((((;゜Д゜)))))))が、がんばれエリスちゃん
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