ダンジョン突入
「おはよう!」
ルナは元気に挨拶する。
マカナ学園にいつもの風景が見られる。昨日の宴を振り返って楽しむ人、教科書をジッと見つめる人もいる。皆、ルナが知っている光景である。
「ルナちゃん、おはよう」
ナーシャはニコッと笑い、ルナに挨拶する。
「ここで会うのも久しぶりだね」
「うん。ヤーロン先生も久しぶりに見るよ」
教室のドアからヤーロンが入ってくる。
「ええ皆さんおはようございます。交流会では予期せぬ出来事がありましたが、こうして皆さんの顔を見ることができて嬉しいです」
ヤーロンはぺこりと頭を下げる。
「そういえばルナちゃん、ハンスはどうしてるの」
「わかんない。もう別の場所に行っているのかもしれないし」
ルナはため息をつく。
「そうそう、今日から皆さんと一緒に勉強する仲間が増えます。――どうぞ!」
教室のドアからある人物が入ってくる。しかし、生徒たちはこの人物を知っている。ルナ達は驚きのあまり目を見開いた。
「初めまして、ではないよな。今日からお世話になるハンス・クロイスだ。よろしく」
「ハンス君居るー?」
放課後、廊下をドタバタと音を立てて勢いよくドアが開けられる。ドアの前にはクルシュが息を切らしながらハンスを呼んでいる。
「ハンスはここだよ」
ルナが手を振ってクルシュに場所を教えると、クルシュはハンスのもとに走ってくる。
「ハンス君! 君については色々と聞きたいことがある! 君の七星剣のことや何で杖になっていたのか、全部私に教えてもらうよ!」
クルシュはハンスに迫り寄るが、ハンスはスルリとかわす。
「すまんな、それはちょっと教え難い。けどちょうど良かった。お前に用があったんだ」
そう言うとハンスは席を立つ。
「あー、ルナもナーシャも付いて来い。面白い所に連れてってやる。――後はあいつだな」
ハンスはルナ達を連れてギリスの家に来た。ハンスの後ろにはルナ達のほかにアレクサンダーとマーレイがいて、学園に出る前に誘っていたのだ。
「いやー、君達がゾロゾロと歩いていたから気になって声をかけてみただけなんだけど、僕も付いて来て良かったのかな?」
「ああ、人数が多い方がいいんでね」
ハンスは合鍵を使いドアを開ける。家の中は静かで人がいる気配はない。
「ねぇハンス。ここで何するの?」
「ギリスさんに会ってからのお楽しみだ。ほら、こっちだ」
ハンス達は書庫に向かった。書庫には伝記や論文をまとめたものなどで埋まっており、独特の雰囲気を感じる。
「えーっと、これだったか?」
ハンスは一つの本棚にある一冊の本を抜き取る。すると、まるで支柱を失ったかのように周りの本はバタバタと床に落ちる。そして本棚の奥に地下へと続く階段がハンス達の目の前に現れた。
「――わーお」
「よし、降りるぞ。足元、気をつけろよ」
ハンス達は明かりも付いていない階段を降りる。しかし、階段は思っていたよりも短く、すぐにドアの前に着いた。そのドアを開けると、明かりは付いてはいるが絶妙に薄暗く、何かの儀式でもする部屋なのではないのかとルナ達は思った。
「やあ、来たね!」
部屋の奥からギリスの声が聞こえてくる。ハンス達がギリスに近づくとルナ達は唖然とした。ギリスの後ろには周りの壁とは違う、不思議な色をした壁が波のように揺れており、何か危険なものなのではないかと思った。
「ギリスさん、ちょっと予定よりも多くなってしまったが、構わないか?」
「ああ! 私の生徒は誰もが優秀だし、それにハンス君がいるなら大丈夫だろう!」
「あの学園長、何の事か、私達にはさっぱり……」
二人だけで話を進めているのでクルシュが慌てて聞く。
「ああ、すまない。クルシュ君はこれを見て何かピンとくるものはないかい?」
「いえ……特には」
「これはね、ダンジョンの入り口なんだ」
ギリスの言葉にクルシュは目を見開く。
「ダンジョンって……あのダンジョンですか!」
「クルシュさん、ダンジョンって何?」
ルナはクルシュに尋ねる。
「あ、ごめんね。ダンジョンっていうのはね、この世界のどこかにこれみたいなダンジョンへの入り口があるの。ダンジョンの中は入った人にしか分からなくて次また入る時は別の場所に変わってるっていう不思議な場所なの。だけど、ダンジョンの中でしか採れない鉱物とかあって、中にはすっごい魔導書とかがあるっていう噂なの」
「ほへ〜、でも何でそんなものがこんなところに?」
「五年くらい前かな、ここの実験室から突然爆発音が聞こえて慌てて来てみたらこの穴があったんだ。それでロイド君やギルドの方々を呼んで調査してみたら、これがダンジョンの入り口っていうのがわかったんだ」
「それで、俺たちは今からここに入る」
ナーシャは少し考えて、ギリスに尋ねる。
「あの学園長さん、ここがダンジョンだということはわかりましたけど、何で私達を? いや、私はルナちゃんに付いて来ただけだし、大体はハンスが連れて来たんですけど……」
「それは簡単なことだ。こんなところに出来てしまったのはいいけど、別に私は頻繁に入る訳でもないしどうしようかと思っていたら、いいことを思い着いたんだ。交流会の景品にしようってね。生徒達にはサプライズとして用意しておいて、勝った方の学園の生徒をこのダンジョンの中に腕試しとして入らせる。もちろん、ナーシャ君やマーレイ君みたいに選抜メンバーから招待されたのならオッケーだよ」
「そういうことだ。ほら、そこにリュックがあるから好きなの選んどけ」
ハンスが指を指す方向に十個程のリュックがある。ルナが中身を見てみると、救急箱、ロープ、手袋、弁当箱などが入っていた。
「そのお弁当、私の手作りなんですよ」
「ダンジョンの中は何があるかわからないからな。どんなにくだらないものでも役立つ時があるかも知れないからな」
ハンスはリュックを背負うと入り口の前に立つ。
「それじゃ、先行ってるから遅れんなよ」
ハンスは入り口に飛び込んだ。
「あ、待ってよハンス!」
ルナ達も急いで入り口に飛び込んだ。
入り口の先は謎の空間に包まれていた。まるで水中の中にいるような浮遊感、周りは様々な色が完全には交わらず、それぞれの色を保っている。長時間見ていると精神が参るような気さえする。ルナはナーシャの手をしっかりと握る。
「――あっ」
しばらくするとルナは光に包まれ辺りが一気に白くなる。
「――ここは?」
気がつけばルナの足はしっかりと地面についており、先程の奇妙な空間ではなかった。代わりに目に映るのは壁がデコボコとしていて洞窟であると分かるが、辺りはとても明るく薄気味悪さは感じられない。
「ルナちゃーん!」
ナーシャがどこからともなく現る。ナーシャの後ろを見てみるとギリスの家で見たあの不思議な入り口があった。そしてナーシャに続いてアレクサンダー、マーレイ、そしてクルシュと、マカナ学園の生徒が集結した。
「――よし、揃ったな」
ルナ達の前にハンスが現る。
「ハンス! ここが?」
「ああ、今回は当たりの部類だな」
ハンスは辺りを見渡してそう言ったのだった。