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クロノ・レボルト〜2度目の革命〜  作者: 田坂屋台
交流会編
24/26

終幕

「ハンス……!」


 ルナは慌てて外に出ようとする。


「あー、一応ドアの前に居るぞ」


 ドアノブに手をかける直前でルナは硬直する。


「ナーシャがお前のこと探してたぞ」


 ハンスは壁にもたれかかり、腰を下ろす。


「ナーシャちゃんには……ごめんなさいって言っておいて……」


「そう言うなって、お前も本当はまだここに居たいんだろ?」


「違う! 私はここに居たらダメなの!」


 ルナは声を荒げる。


「だから、責任感とかじゃなくてお前の本心を聞きたいんだよ。――また一人ぼっちになるぞ」


「どうしてそれを……!」


「悪いとは思ったが、あの日記見させてもらった」


「……!」


 ルナは身を震えて頭を押さえる。ハンスは続けて言う。


「感想を言うとな、あの術は絶対に解けない」


「……どういうこと?」


 ハンスは少し間を置いてから、


「すまん、訂正する。一応解除出来ることは出来る。しかし、時が流れすぎた。まだ早い段階ならどうにかなっただろう。けど、もうその術とお前は一本の線で繋がっているのと同じ。つまりそれを解けばお前は死ぬ」


「そんな……」


 ルナはその場で崩れ落ちる。そんな中、フェアリー・フレンズはルナに近づく。


「なあ、俺を置き忘れたの、わざとだろ」


 ルナは何も言わない。


「あの手紙を見てお前は俺に危害が加わらないように置いて行った。しかし俺がギリギリ間に合ってしまった。違うか?」


「……違う」


「それなら何で、ナーシャに行かせた? いつも一緒にいるならナーシャが方向音痴なことくらいわかってた筈だ。それとも、ナーシャのことなんて特に思っていなかった」


「そうじゃない! ナーシャちゃんは私の初めての友だち。私が学園で一人だった時に声をかけてくれた。ハンスがナーシャちゃんのことなんて分かるはずがない!」


 ルナはドアを勢いよく叩き、ハンスに敵意を見せる。


「ああ、分かるわけがない。けど、お前はそのナーシャを裏切るようなまねをしている」


「それは……」


「全てのことを分かる人間なんて居ないんだよ。しかし分かろうと、理解しようとして、関係を築いていくんだ。今のお前はただ逃げているだけに過ぎない」


「勝手に人のこと論さないでよ……」


「それじゃあ、昔話をしようか」


「え……」


 ルナは気になってドアに耳を当てる。


「昔々あるところに村一番の天才少女が居ました。少女は体が弱く、あと数日の命でした。ある日、村に魔法使いが現れました。魔法使いは言います。私が助けてやろう、と。それを聞いた少女は大喜び――」


「しかし少女は気づきませんでした。魔法使いは悪い魔法使いだということに」


 ルナが話に割り込む。ルナは続けて言う。


「少女は後悔しました。得られたものと失ったものはイコールじゃない。全部自分のせい……」


「ある時、少女は優しい女の子に出会いました」


 ルナはハンスの言葉にキョトンとする。


「一人ぼっちだった少女は女の子とその周りの人たちに囲まれ、一人ぼっちでは無くなりました」


 すると、窓からカーテン越しに光が漏れ出す。ルナは窓に近づいてカーテンを開け、外の光景に目を見開く。


「マカナ学園の勝利を祝ってー!」


「カンパーイ!」


 寮の外でマカナ学園の生徒がパーティを開いて盛り上がっていた。


「何……これ……?」


「交流会の祝勝会。俺が頼んどいた」


 生徒たはワイワイと騒いで、料理を口に入れる。昨日の事態がまるで夢だったように笑顔をちらつかせる。


「飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎ。少女は気になって隙間からその光景を見ました」


 ルナは釘付けになって外を見下ろす。


「はっはっはー! さあ見たまえ! フライライト家伝統の踊りを!」


「おい! マーレイが裸踊りしてるぞ!」


「いや、眩しくて見えねーよ!」


 マーレイから目を逸らし、別の場所を見ると、クルシュとアレクサンダーが一際目立つ場所に座っており、二人の間に一つの空いた席があった。


「そういえばこのパーティには三人の主役が必要なんだが、あと一人がどうしても見つからなくてな」


「でも、私は……」


「おい、ちょっと窓開けてみろ」


「えっ……」


 ルナはハンスの言うとおりに鍵を開け、窓の開けようとすると、


「よっ」


「えっ――」


 目の前にハンスが現れる。ハンスは驚くルナをお構いなしに自ら窓を開け、ルナを引っ張って外に飛び降りた。


「ハ、ハンス!」


 ルナは芝生の下に落ちる。幸い二階だった為、大きな怪我はなかった。

 前を向くと、生徒の皆と自分が同じ目線にいることがわかる。


「ルナちゃーん!」


 ナーシャが落ちてきたルナの前に慌てて寄って来る。


「ナーシャちゃん……」


「大丈夫? 立てる?」


「う、うん」


 ルナはナーシャの手を握ってゆっくりと立つ。


「お? おーい、皆! 今夜の主役がやって来たぞー!」


 服を着たマーレイがルナに気づき、生徒に呼びかける。その呼びかけにより、生徒達は一斉にルナの方を向く。


「あ……えっと……その……」


 ルナは後ずさりする。生徒の目が軽蔑の目で見てるように見えたからだ。しかし、


「おつかれー!」


「まぁ、なんだ! 大変だったんだな!」


「最初はちょっと驚いたけど、それでもルナはルナだよ!」


 生徒達はルナにいろんな言葉をかける。その中にルナを貶すような言葉はなかった。


「え……」


 思いがけないことにルナは戸惑う。


「ほら! 行こっ、ルナちゃん!」


 ナーシャが生徒達に混じり、前からルナを呼びかける。


「百年も経つと人の感性なんて変わるもんさ。現にこうしてお前を待ってくれる人達が居るんだ。自分の価値なんて他人によってそれぞれさ。ほら行ってこい!」


 ハンスがルナの背中を押す。


「え!? ちょっと……」


 ルナは前を向く。目に映るのは先程とは違う、皆の楽しげな笑顔。ルナを呼びかける暖かい声。ルナの心の奥にあった何かが一気に抜け出ていくのを感じた。


「あっ……あっ……うわぁぁぁぁん!」


 ルナが抑えていた感情が一気に溢れだし、顔は涙と鼻水でクシャクシャになる。


「おいおい、主役がそんなんじゃ格好がつかないぞ」


 ハンスはハンカチでルナの顔を隠し、ルナの席へと移動させる。


「ほら、パーティは始まったばかりだぞ」


 ルナの周りに人だかりができ、ルナの涙は止まることはない。百年分の涙が一気に出たのだ。


「もうあいつは大丈夫だよ」


 寮の庭に風が吹く。厚い雲がどき、夜空に月が見える。


「今宵は満月だ」


 ハンスは空を見上げ、そう呟いた。

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