ルナの行方
「やあ、おはよう。ハンス君」
目が覚めると、パジャマ姿でコーヒーを飲むギリスの姿があった。
「おはようございます。ギリスさん」
「いやー、昨日は興味深い話を聞けて良かったよ」
ハンスはギリスの家に泊めてもらう事になったが、到着してすぐにギリスに大量の質問をされ、正直休めた気はしなかった。
「はぁ……俺はちょっとルナ達の様子見に行きますので」
「あー、ちょっとちょっと! その前に朝ごはん食べたらどうです?」
ハンスはギリスに呼び止められ、朝ごはんを勧められる。ハンスはそれをありがたく頂き、少ししてから家を出る。
街の様子は普段と変わらず栄えており、あの黒い生物が再び現れた様子はない。
「ハンスさーん!」
人混みの中からナーシャの声が聞こえる。ナーシャは人混みを掻き分けてハンスの前に現れる。
「えっと……ハンス……さん?」
ナーシャはハンスの顔をジロジロと見る。まだ、杖の姿だった記憶が人の姿に違和感を感じさせる様だ。
「そんなに緊張しなくていいし、杖の時の感じで接してくれればいい。それでどうした? そんなに慌てて」
ナーシャはハッとして、慌てながら言う。
「大変なの! ルナちゃんがどっか行っちゃった!」
「……は? 少し詳しく話してくれ」
ハンスはポカンとしながらも、ナーシャに問う。
「えっとね、朝早くルナちゃんの様子を見に行ったの。だけど、王城の人達が慌ただしくて気になって聞いてみたの。そしたら、マカナ学園の生徒が医療室から抜け出したって言われて、慌てて医療室に向かったの。だけど医療室にはラグレッド君しか居なくて……」
「ルナがいそうな場所に心あたりは?」
「わかんない。もしかしたら寮にいるかも、って思って走っていたらハンスが見えて」
ハンスはため息を吐く。
「あのなぁ……ここマカナ学園からだいぶ離れているぞ」
「えっ……」
やはり、ナーシャは気づいていなかったようだ。
「よし、俺も行こう。ついて来い」
ハンスは寮に向かって走り出す。ナーシャはハンスの後ろを追うようについて行く。
「――おい、ルナ! 居るか!」
寮に着いたハンス達はルナの部屋に向かう。ハンスはドアを叩くが、反応は一向に無い。
「どうしよう……おばさん呼んで術式を解除してもらう……」
「いや、必要ない」
そう言ってハンスはドアノブを握る。
「――停止せよ」
ドアノブの周りが凍りついて、ハンスはドアをこじ開ける。
「――凄い」
「入るぞ」
関心するナーシャを後にハンスは部屋に入る。しかし部屋にはルナの姿は無かった。
「ルナちゃーん?」
「居ないようだな」
ハンスは部屋を見渡す。
「――おいナーシャ、ちょっと頼みたい事がある」
「ん? 何?」
「ちょっとな――」
ハンスはナーシャに耳打ちをする。
「うん! わかった!」
ナーシャは嬉しそうに部屋を出て行く。
「さて」
ハンスはナーシャが居なくなるのを確認すると、ハンスは部屋を歩き回る。するとハンスはルナのベッドの隙間に手紙が挟まっているのを見つける。そこには、
(親愛なる我が同胞よ。再び命を欲すなら、あなたが手に持つ命を捧げよ)
と、書いてある。
「なるほど、あいつが言ってた手紙はこれか」
ハンスは次に冷蔵庫の前に立つ。それはルナに見ることを禁じられた場所である。
冷蔵庫を開けると、ごく普通の食材が並べてある。
ハンスはその目の前の食材をどかす。すると、冷蔵庫の奥に赤い液体が入ったコップと日記が置かれてあった。
ハンスは日記を取り出し、日記の中身を見る。
「……………」
ハンスは日記を読み終えると冷蔵庫に戻す。
「さて、行くか」
ハンスは停止していた術式を解き、ドアを閉める。
「――誰も居ないよね……?」
時刻は八時を指し、辺りは暗闇に包まれる。少女は家に忍びこむ盗っ人のように辺りを警戒し、ドアノブに手をかける。ひんやりとしたドアノブがどことなく気持ちいい。
少女はドアを開け、部屋に入ると急いでドアを閉める。
「ホッ……」
「自分の部屋にそこまで警戒する奴初めて見たぞ」
少女は部屋の奥から声が聞こえてきて、恐る恐る近づく。そこには白い小人がぽつんと立って居た。
「これって……」
「それじゃあ、話をしよう――ルナ」