後片付け
「おっ、出て来た」
ギリスの目線にハンスと倒れたシャービスが現れる。
「ゴホッ……これで解決か」
ハンスはゆっくりと二人の学園長の元に歩く。
「生徒たちは無事ですか?」
「ああ、生徒は今ごろここの兵士達に保護されているだろう。――それで君は誰だ?」
ハンスは深いため息を吐く。
「まぁ、そう来るよな。少しばかり長くなるけど――」
ふと、ハンスは後ろを振り返る。――ハンスは目を見開く。シャービスは段々と黒く変色する。さらにシャービスだけでなく、会場の至るところが黒く変色する。
「まさか――!」
黒く変色した場所から、あの黒い生物が湧き出てくる。その数は街の中での比ではなく、ざっと数百はいるだろう。
「なんだなんだ?」
「新手か!?」
ギリスとロイドは背中を合わせ、会場の全体を見渡す。
「……っ! くそっ!」
ハンスは剣を構えようとするが、ふらついて膝をついてしまう。黒い生物は三人を視認すると、一斉に襲いかかる。
「ロイドさん! 頼みますよ!」
「お前もやるんだよ! サンダーウィップ!」
ロイドは手に雷で出来た鞭を生成し、辺りの黒い生物を蹴散らす。しかし、数が減った様子はなく、次々と襲いかかる。
「もう少しだけ持ってくれよ……! ゴホッ! ゴホッ!」
ハンスは立ち上がろうとするが、先程の戦闘で上手く体が動かない。
「まだ……諦めんぞ……!」
――次の瞬間、天井に巨大な魔法陣が展開される。
「何ですか、あれ?」
ギリスが疑問に持つ間に、魔法陣から時計の針ようなものが雨のように降り注ぐ。
「……! まずい!」
ハンスは力を振り絞り、ギリスとロイドの頭上に氷の盾を作る。
降り注がれた針は次々と黒い生物を突き刺し、黒い生物は次第に消滅する。黒い生物が全て居なくなるのに二分もかからなかっただろう。
黒い生物が全て居なくなると入り口からルナ達を運び出した男が現れる。
「はいはーい。殲滅に定評のあるおじさんだよー」
「はぁ……もう少し周りを気遣って下さい――ダイールさん」
「はっはっは、久しぶり……かな? ハンス」
ダイールは笑いながらハンスに近寄る。
「あ、ハンスがお世話になっております」
ダイールはギリス達にお辞儀をする。
「ああ、いや、私達も初対面のようなものなので」
「ふん、ちょうどいい。君達が何者か教えてもらおうか」
ロイドは飛び降りてハンス達に近づく。
「いやぁ、あまり外部の人達に話すのは――」
「いや、この人達には話した方がいい」
ハンスの言葉にダイールは少し驚く。
「――おや? どうして?」
「訳は後で話す。とりあえず手っ取り早く話してあげてくれ」
「まぁ君が言うなら何かあるのだろう」
ダイールはその言うと壁に背中を付ける。
「私達はここから違う世界から来た。言わば転移者というところかな? 今はちょっと野暮用でここに来ているが、他にも別の世界を行き来してるね」
「成る程、あんたらがこの世界の人間でないことはわかった。しかし、何故ここに来る必要があった?」
「あの黒い生物を見ただろう? あれは錆といって、あの状態のままならあなた達にも対処出来る。しかし錆は生きる物すべてに取り憑くことができ、そうなったら普通の人にはどうすることも出来ない。ああ、あの人も錆に取り憑かれた例だね」
ダイールは黒炭のようになったシャービスを見て言う。
「しかし、私もあのような現象は初めてだな……調べなくては!」
ダイールは急に走り出して会場を出る。
「お、おい!」
「あーそうそう。あの二人は命に別状は無いから安心してねー!」
去り側にダイールは言った。
「行っちゃいましたね」
「おい、俺はラグレッドを見てくる。お前はどうする。」
「ああ、私も後で行きますので先に行ってください」
ギリスはロイドにそう伝えると、ロイドは先に出て行く。
「さてハンス君、君はどうするんだい?」
ハンスは少し考える。
「そうですね。正直ダイールのことがあるから今はここに滞在しますが、いかんせん泊まる所が決まってませんね。何せ先程まで杖でしたので」
「なら私の所に泊まって行きなさい。まだ聞きたいことは山ほどあるのでね」
「……分かりました。俺もちょっとあれを何とかしてから医療室に行くので」
「よしっ。ではまた」
ギリスはガッツポーズをして会場を飛び出す。
「――もういいですよ。ダイールさん」
ハンスがそう言うと入り口からダイールが現れる。
「いやぁ、ありがとう。どうやってあの人達を退出させるか考えていたから」
「それにしたって少し雑ですよ」
「でも彼女が無事って分かった時、安心したでしょう?」
「当たり前だろ。俺の目の前で人が死なれたら後味が悪い」
ハンスは呆れて言う。
「ははっ、でもハンスも少し雑ですよ。魔法陣を凍りつかすのはいいですけど、あのまま生徒達が一斉に魔法を使ったらお互いの魔法が接触してそれこそ大惨事ですよ」
「悪かったな。……ゴホッ」
「ああ、再会した時に渡そうと思ってたんだ。ホレ、薬だ」
ダイールはハンスに紙袋を渡す。中には錠剤の薬が沢山入っていた。
「ああ、ありがとう。杖の時は調子が良かったんだけどな。元に戻るとこれだ。――さて、雑談はそれくらいにしておいて、そっちはどうだ?」
ダイールは一度咳払いをして、
「とりあえず、時空の塔の復興だな。今、他の世界のワールド・ギアを拝借して集めている」
「上からの情報は?」
「今は特にない。――そうそう、十二の席に臨時で新しいのが入った」
「――本当か!?」
ハンスはその事を聞いて驚く。
「ああ。しかし、マルクの推薦で来た人だから皆警戒してる」
ハンスはふと、何かを思い出したかの様な反応をして、少し考える。
「どうした?」
「なあ、交流会、観てたんだろ?」
「ああ、ちょっと兵士になりすましてね」
「あのシャービスっていう奴、俺の事を知っていた」
ダイールの表情が険しくなる。
「おい、まさか――」
「ああ、俺を反逆者って言ってたよ。――後は想像通りだよ」
「ハンスが逃亡したことは私達や上層部などごく僅か――つまり」
「俺が杖になったこと、この世界にいることを知っている奴が居る」
ハンスは静かに言った。
「裏切り者は別に居たか」
ダイールはゆっくりと出入り口に向かう。
「そういや、どうするんだ? 俺の事をチクるか?」
ダイールはフッと笑い、
「ハンスの場所を知っていながら、公表しない裏切り者さんの意図も読めずに、言いふらすのは少しまずい」
「――そうか。後、これ」
ハンスはダイールに黒炭の入った小瓶を投げ渡す。ダイールはそれを受け取り、ハンスの方を見る。
「お前に会えてよかった。――頑張れよ」
ダイールは会場を去った。
ハンスはダイールに貰った薬を飲み、医療室に向かった。
「――そういや、医療室ってどこだ?」




