決意の改め
学園マカナの校門前、授業も終わり、日が沈む空の下にナーシャは歩いていた。
「ルナちゃん、修行頑張っているかなー」
ルナの心配事を考えながら寮まで歩いていると、寮の前にボロボロになっているルナが倒れていた。
「ルナちゃん!? どうしたのその怪我! 後、なんでジャージ姿!?」
「あ……にく……おはよう……」
「肉!?今夕方だよ!? しっかりしてよルナちゃん!」
余程疲れているのか、声は掠れており、立ち上がる気配もない。また、疲れているのはルナだけではなく……。
「流石に、フレンズだけでここまで運ぶのは骨が折れた……。すまないが、ルナを部屋の前まで運んでくれないか。そのあとは何とかするから……」
「う、うん……。わかった。でも何があったか移動しながら教えて」
「ああ……わかった。あれは昼過ぎくらいのことだ――」
時は少し前に遡る。
「さっきの闘い見てたよー。コテンパンにやられていたねー」
と、クルシュはルナの姿を見てクスクスと笑う。
「そんなはっきりと言わなくていいじゃないですか。私だって悔しいんですよ」
「うん、顔を見ればそれくらい分かるよ。それで貴方は一体どうしたいの?」
クルシュがルナに訊ねる。
「特訓してもう一回あの子と勝負して勝つ」
「うん、それでいいと思う。でもただ特訓したってまた負けるだけ。だから――」
クルシュはルナに向かって紙袋を投げる。中を見てみるとジャージが入っていた。
「その服じゃ動きづらいでしょ。予備に買った物だけど、特別にあげるよ。私も交流会の為に貴方にはもっと強くなってもらわないと」
「あの〜。唐突過ぎて話についていけないんですが」
「つまり、私が特訓の相手をしてあげるってこと」
クルシュの発言を聞いてルナは目を丸くする。
「ええっ!?」
「ほらほら、驚いている部屋があったらさっさと着替えてくる!」
クルシュに急かされ、ルナは慌てて着替えに行く。そして十分後、ルナは赤いジャージを着て広場に戻ってくる。
「よしっ、じゃあ始めようか」
「あれ? クルシュさんはそのままですか?」
「あー、服の事? 大丈夫、多分一度も攻撃喰らわないと思うから」
そう聞いてルナはムッとする。
「分かりましたー。ボルガノン!」
ルナはクルシュの構えが完全に整う前に魔法を放つ。そして火球はクルシュに当たり、広範囲に爆風が広がる。
「せっけー……」
「いつ始めるかは言われてないもーん。それに闘いに遠慮は不要だよ」
「そのとーり! 遠慮なんか要らないよ! まぁ、ちょっと驚いたけどね」
爆風がなくなり、立っていたのは大剣を構え、汚れ一つ付いていないクルシュであった。
「うそっ……」
「じゃあ今度はこっちの番だ」
クルシュは力強く地面を蹴り、一気にルナに近寄る。
「……っ!」
ルナは後退りしようとして、足を引っ掛けその場で尻餅をつく。
「ふんっ!」
クルシュの大剣がルナに振り下ろされる。しかし、大剣はルナの顔に当たるギリギリのところで静止する。そしてクルシュは大剣をしまい、代わりにルナにデコピンをする。
「痛っ!」
「今のは初回限定サービス。だから次からはないよ」
クルシュはルナから離れ、構えを取る。
「さ! 始めよ!」
クルシュはルナに呼びかける。
「ねぇ、ハンス」
「ん? なんだ?」
しかし、ルナは少し考えてから立ち上がり、
「いや、やっぱ後ででいいや! クルシュさん、もう一度お願いします!」
この日、ルナはクルシュにダメージを与えることなく、今日の特訓は終わった。
「それじゃ、また明日ここで」
クルシュが広場から立ち去り、うつ伏せになったまま気を失っているルナと、何故か地面に突き刺さっているハンスが残った。
「――というわけだ」
「た、大変だったんだね。あ、じゃあルナちゃんここに置いておくから」
「ああ、ありがとう。おやすみ」
「うん。おやすみ」
ナーシャは自分の部屋に戻って行った。
「さて、おいルナ。そろそろ立つことくらいは出来るだろ」
ハンスの呼びかけを聞いて、ルナは壁に手を置きながらなんとか立つことができた。そしてドアを開け、足取りはフラつきながらベッドのところまで行き、バタッと倒れた。
「――今日は負けてばっかりだったなぁ」
「そうだな」
自然とルナの目から涙が溢れ落ちる。
「やっぱり負けるのは嫌だなぁ。もし交流会でも負けたら引きこもっちゃうかも」
「そんなことは俺がさせねーよ」
「でも今日のことでハンスに頼ってばっかりじゃダメだってわかって良かった。クルシュさんの特訓で私の力だけで何とかするようにしなくちゃ」
ルナの言葉を聞いて、ハンスは自分が言った言葉を訂正しようと思った。そして、
「なあルナ。明日の特訓のことだが、少し俺に策がある――」
ハンスはルナに自分の考えた策について一通り話した。
「――そんなこと出来るの?」
「ああ、しかし多分明日出来るのは無理だ。最短で三日後くらいだが――」
「明後日、明後日で出来るようにする! だから今のうちにコツ教えて!」
「よし! それじゃあ一番分かりやすいのは――」
「うん、分かった! それじゃあ、私喉乾いたから飲み物飲んでから寝るね、おやすみ」
ルナはハンスをタンスの一番下に入れ、キッチンへと向かった。
「まさか、ルナがあんな事を言うとはな。俺もしっかりしないとな」
ハンスはタンスの中でそう呟いた。
「――でも、タンスの中に入れるのはどうかと思うなぁ」