堕慰死話《だいしわ》
「ああ・・・。」
雨だ・・・。
昔は大嫌いだった。
勿論、今は好きだ。
邪魔な奴らが帰ってくれる。
風邪ひきそう。
ああ・・。
血、流し過ぎたかな。
頭が回らねえ。
まさか、都会のど真ん中で死にかけるとは思わなかった。
これが、誰か庇ってとかだったらカッコいいんだけど、自分のナンパした女にやられたっていうから締まらないね。
あいつら、俺の顔見た途端にシャーペン刺して来た。
一体、学校でどんな教育受けてんだか。
これが犯罪にすらならないってのがムカつくね。
(なにあいつ。銀髪に角生やして。何かのコスプレ?)
(バカだね〜。アレは鬼だよ。ここら辺では有名なの。レンジだっけ。)
(バカはどっちだよ。一昔前の家電か。噂は聞いてたけど、あいつが白羽麗瓷?)
(そうそう。それだ。最近、話しかけられたら持ってるものぶっ刺してやるっていう遊びやってるの。)
(それであんなボロボロなの?懲りないね〜。)
(ハハハ。)
聞こえてないとでも思っているのだろうか。
わざと聞こえるように言うことも考えつかない連中だ。
めんどくせ。
「クソガキ。何してんだ。」
もっとめんどくさいのきた。
酔っぱらったオヤジ。
泣く子と地頭には勝てぬ、とかいうけど、泣く子よりこっちの方が絶対厄介だと思う。
「さっさと家帰んな、ここは人間の住むところだ。」
いるんだね。こういう人。
とっくに時代遅れだと思ってた。
「何とか言えよ。」
言っていいの?
なら、遠慮なく。
「おじさん、仕事うまくいってないでしょ。スーツ古いし。ストレスから酒に逃げちゃダメだよ。みっともない。」
オヤジは肩怒らせて怒鳴った。
「言いたい放題言いやがって。仕事すら就けない鬼が何言ってんだ。一度痛い目見ないと分からないか?」
いきなり殴りかかってきた。
いったー。
逃げときゃよかったな。
人と話すとどうしても怒らしてしまう。
言われた通りに何か言ったのに何が不満なんですかねー。
もっとみっともないことしちゃって。
家帰りつけるかな。
やっぱ来るんじゃなかったな。
どいつもこいつもバカばっかし。
「ねえねえ。君、麗瓷君?」
「血、出過ぎじゃない?気、失っちゃうよ。」
女二人が覗きこんで来てた。
こいつらも刺してくる口か?
下手すりゃ死ぬかもな。
「そうだけど何?逆ナンて奴?」
また挑発するようなことを。
ふざけ過ぎたかな。
「面白い人!元気有り余ってるね!」
「どう見ても、半死半生なのに。別にそれでもいいけど、死なないように応急手当てはしといた方がいいよ!」
この反応は予想外だったな。
期待させといて裏切られると思ってたと言うのに。
「大丈夫、応急手当ては慣れてるから!」
「誇れることじゃないね!」
素早く包帯巻いて消毒された。
「「さあ、行こう!」」
「死んじゃう!?」
まあ、自業自得だけど。 というか。
「俺でいいの?」
彼女らは素できょとんとしてた。
「?誘ったのはそっちだよね?」
「?他の人とチェンジ?」
いや、そうではなくて。
「気にしなくていいよ。私達も鬼だから!」
「隠す気すらないね!」 うーん。毒気抜かれる。
片方の子は左手が蟹の鋏となっていて。
もう片方の子は赤い羽と鳥の足をしていた。
「ま、いいや。家まで送るよ!」
「家どこ?」
明るい奴らだ。
ネガティブが悪いことではないが、ポジティブな奴は好きだ。
結局、家まで送ってもらい、玄関で別れた。
「お茶のみに行くのはまた今度ね!」
「はい、連絡先!」
どうしよう。今更冗談だって言えない。
「「またね!」」
「じゃね・・・。」
家知られたから逃げられねえ。
「ふう・・・。」
「傷だらけで帰ってきたと思ったら、女二人に翻弄されてる。一体何があったんだ?」
ドアを閉めてほっとしてたら、背後から声がした。
「父さん!いつ帰ってきたの!?」
「ついさっきだ。」
「何か誤解があると思うけど・・」
必死に弁解しようとしたが。
「何だ?嫌な事だったか?」
「・・・いや。」
「なら、お前は堂々としていればいい。」
「・・・・。」
「私は金の為に生きてきた。
お前にはそんなものに縛られず、好きな様に生きて欲しい。
やりたいことがあるなら、出来る限り協力しよう。
時間がない私に出来ることはそれだけだからな。」
「・・・十分だよ。何でそんなにしてくれるのさ。」
「親が子の為に尽くすのは当然だろう?私はその為には日本を買収する事さえ辞さない。」
「・・・洒落になんないからやめてね?」
この父は出来てしまうから怖い。