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戦闘力ゼロの元社畜事務員、前世の管理術で辺境ギルドを大改革!〜追放した最強クランが自滅して泣きついてきたが、もう遅い〜  作者: ハンバーグ伯爵


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第1話「最高峰の玉座から落ちた影」

登場人物紹介


◇アルド

 前世は現代日本の企業で中間管理職として激務に追われていた男。

 過労で倒れた後、異世界へ転生した。

 現在は30代後半。

 戦闘スキルを持たないため無能扱いされていたが、確かな事務処理能力とプロジェクト管理のノウハウを持つ。

 常に冷静で感情を表に出さないが、面倒見が良い。


◇セリア

 辺境の街にある小さなギルドのマスター。

 20代前半。

 若くしてギルドを引き継いだが、膨大な書類仕事と経営の重圧に押し潰されそうになっていた。

 生真面目で責任感が強い。

 アルドの仕事ぶりに最初は驚愕するが、次第に彼に全幅の信頼を寄せるようになる。


◇ガイル

 辺境ギルドに身を置く大柄な剣士。

 かつては王都でも名の知れた実力者だったが、ある任務での失敗から自信を喪失し、酒に逃げる日々を送っていた。

 アルドの徹底した装備のメンテナンス管理と的確な指示により、再び剣を握る理由を見出す。


◇リュカ

 若き天才魔法使い。

 魔力の制御が不安定で、過去に周囲を巻き込む事故を起こして以来、魔法を使うことを恐れていた。

 アルドから提案された、魔法陣の構造をタスク分解して管理するという論理的なアプローチにより、己の力を制御する術を学んでいく。


◇レオン

 アルドを追放した王都の最大クランのリーダー。

 見栄えの良い戦闘スキルと並外れた武力を持つが、組織の運営や裏方の労力には全く無頓着。

 アルドが抜けたことでクランが崩壊していく現実を受け入れられず、責任を他者に押し付けようとする。

 革張りの長椅子が、座り直すたびに低く軋む音を立てた。

 広い部屋の窓からは、王都を一望できる美しい景色が広がっている。

 しかし、室内に漂う空気は冷え切っていた。

 机を挟んだ向こう側で、華やかな金糸の刺繍が施された上着を着た青年が、退屈そうに指先で木の手すりを叩いている。

 彼が指を動かすたびに、乾いた音が室内に響いた。

 アルドは自分の前に置かれた一枚の羊皮紙を見つめる。

 そこには、これまで自分が築き上げてきた組織の名前と、それを取り消すという文言が並んでいる。

 インクの匂いが、心なしかいつもより鼻を突いた。


「要するに、もう君の席はないということだ」


 レオンは視線をアルドに合わせることなく、爪の手入れを始めた。

 その声には、長年ともに歩んできた者への敬意はひとかけらも含まれていない。

 ただ、不要になった道具を片付けるかのような淡々とした響きだけがあった。


「今回の遠征でわかっただろう。僕たちの戦いは、もう次の段階へ入っている。戦闘の規模が大きくなれば、それだけ後方の支援も複雑になる」


 アルドは静かに声を返した。

 感情を交えず、ただ事実だけを伝えるためのトーンだった。


「物資の調達、人員の配置、各ギルドとの交渉。それらが滞れば、どれほど強力な剣があっても錆びる」


「そんなものは、誰がやっても同じさ」


 レオンは可笑しそうに鼻で笑う。

 その目は、アルドの言葉の背後にある労力を全く理解していないことを示していた。


「僕たちが魔物を倒し、名声を高める。その結果として金が集まる。簡単な理屈だ。君のように剣も振れず、魔法も使えない男が、いつまでもこのクランの幹部に居座っていること自体が、周囲の士気を下げているんだよ」


 アルドはそれ以上、言葉を重ねるのをやめた。

 前世の記憶を持つ彼は、このような組織の硬直化を何度も見てきた。

 成果を上げる前線だけが評価され、それを支える土台が見えなくなる。

 そうなった組織がどのような結末を迎えるか、彼は身をもって知っている。


『これ以上の議論は、お互いの時間を浪費するだけか』


 胸の奥で小さなため息を一つ。

 アルドは立ち上がり、衣服の皺を伸ばした。

 長年愛用してきたペンを胸のポケットに差し込む。

 それだけが、この部屋から彼が持ち出す私物だった。


「わかった。退職の手続きはこれで完了とさせてもらう」


「おや、引き止めるとでも思っていたのかい。物分かりが良くて助かるよ」


 レオンは満足そうに口元を歪め、ようやくアルドを見た。

 その目は、すでに次の華やかな戦場のことだけを捉えているようだった。

 アルドは一礼すると、重い扉へと歩み寄る。

 背後から、レオンが新しい書類をめくる音が聞こえてきた。

 しかし、その書類が正しく分類されていないことに、今の彼は気づく由もない。

 扉を開けると、廊下にはかつての仲間たちが立っていた。

 彼らはアルドと視線が合うと、気まずそうに顔を背ける。

 声をかける者は誰一人としていない。

 アルドは彼らの横を通り過ぎ、階段を降りていった。


 外に出ると、王都の賑やかな雑踏が彼を出迎えた。

 行き交う人々、並ぶ露店、立ち上る美味そうな煙。

 そのどれもが、アルドにとっては遠い世界の出来事のように感じられた。

 彼は一度だけ振り返り、巨大なクランの拠点を見上げる。

 白壁の美しい建物は、今日も日の光を浴びて輝いている。


『あの書類の山を、明日から誰が処理するのか』


 ほんの少しの懸念が頭をよぎったが、すぐにそれを振り払った。

 もう自分には関係のないことだ。

 アルドは荷物をまとめるため、自分の宿へと足を向けた。

 部屋に戻ると、簡素な机の上にいくつかのノートが残されている。

 前世の知識を活かし、業務の効率化を図るために書き溜めたものだ。

 日付ごとのタスク、在庫の管理表、緊急時の対応マニュアル。

 それらを一つずつ手に取り、カバンに詰めていく。

 重くなったカバンを肩にかけ、彼は部屋の鍵をフロントに返した。


 王都の門を出るとき、兵士が怪訝そうな顔で彼を見た。

 いつもなら多くの書類を抱えて馬車に乗っている男が、たった一つのカバンを持って歩いているからだ。

 アルドは小さく会釈をし、門をくぐった。

 目の前には、どこまでも続く一本の道が延びている。


 風が草を揺らす音が聞こえた。

 王都のざわめきが、一歩進むごとに遠ざかっていく。

 アルドの足取りは、不思議なほど軽かった。

 長年の激務から解放された肉体が、心地よい疲労感を訴えている。

 これからどこへ行くべきか、具体的な計画はなかった。

 ただ、誰も自分を知らない静かな場所へ行きたい、という思いだけが彼を動かしていた。


 街道を進む馬車を拾い、アルドは揺られながら外の景色を眺めた。

 街から村へ、そしてさらに緑の深い景色へと変わっていく。

 車内に揺られていると、前世での終わりのない残業の日々が脳裏をよぎった。

 あのときも、気づけばすべてを失っていた。

 この世界に転生し、今度こそは組織のためにと尽力したが、結局は同じような結末を迎えた。


『だが、今回はまだ生きている』


 アルドは手のひらを見つめる。

 剣だこもない、ペンのインクで少し汚れただけの、事務員の手だ。

 それでも、この手には積み重ねてきた経験がある。

 馬車が速度を落とし、小さな街の入り口が見えてきた。

 看板には、王都から遠く離れた辺境の街の名が刻まれている。

 アルドはカバンを握り直し、馬車から降りる準備を始めた。

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