第四十四話・精神疾患の患者とその家族を責めるな
精神疾患とその患者とその家族に漠然とした世間体というものを感じることがあります。今回はその話。私は精神医療機関に下っ端ですが在籍の経験があり、かつ近い親戚にAD/HDや精神疾患の患者がいます。しかし何分未熟者ですので、こういう表現が傷つく、頭にくるなどありましたらどうぞ教えてください。お願いします。
薬を入れる袋のことを、薬袋 ⇒ 「やくたい」 と読みます。さて精神科の患者さんで、薬袋に記名を印字することすら拒否する人がいます。住所も遠方からはるばる特急を使って診察に来たり……薬手帳も内科や整形外科なら処方内容が記載されたシールを張るが、精神科受診に関係する領収書や処方シールなどはその場で細かく破いて捨てる人がいます。電話など基本情報すら家族に内緒ですので絶対に電話をかけるなとまで念押しをされます。もしかしたら架空の電話番号を書いてやり過ごす人もいるかもしれません。この場合は、電話が通じないということで初めて判明します。もちろん電話番号の変更や引っ越しの可能性もありますけど。
私がかかわった範囲で、匿名で受診すると健康保険は使用できないのを理解したうえで自費診療で通院しておられた人がいました。遠方から日帰り旅行のようにしての受診です。そこまでしないといけないのかとも思います。気楽にカウンセリング気分で精神科や心療内科受診をしている人も多いですが、他人に知られないようにしている人には、こちらも気を使います。心が弱っている状態を治すためなのに、逆に神経をすりへらされていると思います。
また介護者で他家からきたお嫁さんの方が患者本人よりも弱っておられたことがあります。理由は「精神疾患になったのは、お前が嫁にきてからだ。あの子の精神病はお前のせいだ」 と責められたから。
それをいうのは、嫁ぎ先の同居の家族や親せきです。近所に住む義姉と義妹。介護が大変でしょうとねぎらうどころか、疫病神よばわり。もちろん手伝わない。言葉で責めるだけ。トドメは、患者本人からの暴力付き。立派な離婚案件ですが、放っておくと夫である患者自身が自殺すると思い責任感も強い人なので一人頑張っておられました。でも決定的なことがあり、人目もはばからず涙をこぼされました。
福祉の手を借りることすら姑から「家の体面を考えろ。みっともない。この家から精神病の患者は出せない。病気になったことを絶対に周囲に知られぬようにしろ」 と厳命されていました。
私は彼女に言いました。
「精神病は病気の一種というだけで、みっともなくない。今後のことを思えば周囲にばれてもいいから医師に言われた通り入院させたほうがいい。病気は誰の責任でもないから自分の時間も大事にしたほうがいい。一人でしょい込まずに患者家族の会もあるから参加してみて」
病院には専門医や対応に慣れた看護師他介護メンバー、精神保健福祉士など相談相手がいます。お嫁さんは彼らにまず相談し、夫を改めて診察させ即入院。その後はケアマネージャーがつき、退院後はデイケアや施設などのケアプランを作ってもらいました。お嫁さんは自分の時間が少しでももてるようになりました。義理の家族は患者を勝手に精神科に入院させたと怒っています。通院なら秘密にできてOKだが、入院はご近所さんにバレそうになるからダメらしい。お嫁さんは「これで私は婚家全員から完全に嫌われました」 という。私は彼女に言いました。
「言うだけで何もしない人は、たとえ肉親であっても患者のためになることを考えない。関わるだけあなたの時間がすり減るので相手にしないようにね」
数か月後、離婚を報告しに来られた時に、見違えるような笑顔を見せてくれました。私は「え、こんなにきれいな人だったのか」 とびっくり。それも、ちゃんと患者の介護施設の受け入れ先などを手配したうえでのこと。よい選択をされたと今でも思っています。
精神科の受診も入院も長いようで短い人生の一コマとして、アリです。必要悪ではなく、必要です。誰だって病気になる。誰だって心が弱る。だからそのための薬だって必要に応じて飲めばいいのです。精神疾患はみっともない? 世間体って誰のためのものなんですか? それは誰のための人生ですか、と私は問いたい。とかく精神疾患を恥ずかしがる人が一人でもいなくなりますようにと私は願っています。
(今回は精神疾患のせいで患者の親もしくは配偶者さんたちが、関係のない第三者から責められる人が減ることを願って書きました。患者自身が病識がない場合、周囲の理解がどうしても必要になってきますのに誰かを責めて病気が治るわけがないと思います)