第四十三話・自己診断を主張する人はクレーマーと同じ
今回は医療の知識はないのに、自己流の診断を言う人を取り上げてみます。極端な場合ですが、信仰している霊能者のお告げによると堂々と言われたことがあります。
気短な医師はその類の話を聞くなり「出てけ」 と言うでしょう。穏やかな医師でも、「病院まで出向いて治療を受ける必要はないかと思う」 と言います。もしくは、セカンドオピニオンの話をしてよその病院へ行ってもらうべくさりげなく誘導するでしょう。
私はその類の患者もしくはその家族に出会うと、医学的な根拠がない単なる自己主張をいっていると判断します。そして怒らせないように気をつかいつつ、治療上に必要な薬を飲んでいただくように言います。とかく処方された薬を安心して飲んでいただき、次の治療につなげるのが大事だからです。昔はともかく現在では医療者が患者様に向かって「治してやるから、文句を言うな」 というのはないですね。皆優しいです。
先日認知症の診断が下りたばかりのCの友人Dがそうでした。その診断は間違っていると医療機関へクレームをつけました。認知症であることはC本人は知りません。告げても本人には自覚がないので家族も教えません。これは結構多いです。そのためDも知りません。クレームの内容は、Cに対してある介護士が侮辱をしたというもの。個室内での話なので真偽は誰にもわかりません。
ここでのポイントは「認知症の診断が下りたこと」 をC自身は理解しない。ということはCの知人、Dも知らない。つまりDはCを認知症だとは思ってない。
認知症といっても個人差が大きい。Cの場合は元来おしゃべり好きで社交的な人ですが同居している家族だけが違和感を感じて受診に至りました。薬の処方なし。現在は認知症を治す薬はなく、進行を遅らせるものしかありません。薬がないから認知症ではないというのは短絡的思考です。
Cの家族もDに認知症をカミングアウトすれば問題がおきないわけですが、世間体もあり、なかなか公表できない事情がありました。結果、ある介護士に侮辱されたというCの訴えを黙殺する家族にかわり、Dがクレームを入れた。Cはつらい目にあったのに、家族が相手にしてくれない、冷たいとも告げていました。
DはCのことをまったくの正常でしっかりしていると思っている。これ、私も義母が認知症の初期の時期に似たような経験があって、遠方のある親戚から電話でも異常が感じられないのに、認知症だと大袈裟にしてはかわいそうですよ、と言われてびっくりした経験があります。その時は家に宿泊してもらい理解していただきました。
介護機関側も認知症があるのは理解しているのでDのクレームを黙殺しました。契約しているのはDではなく、Cの家族でもあるのですから当然です。するとDは、相手にしてくれない、バカにしているのかという発想になり、施設開設許可をした公的機関までクレームをつけにいきました。ここまでされてさすがにCの家族はDにカミングアウトしました。
「認知症による妄想の可能性があります」
ところがDは信じない。
「誤診ですよ。認知症というとCがかわいそう」
Cはいわゆるまだらボケで、電話や他人との話ではある程度の緊張を強いられるのでやりすごせる。でも思い込みが強く、娘たちに宝石や株を取られたと思って返してと訴えたりする。それを知らぬDの行為は善意からだが空回りをしている。でもいずれわかる話。
問題の介護士はCを怒らせたということに対し、怒らせないようにすべきであったという反省にたってC本人には謝罪しました。それが効してCの感情も落ち着いた。認知症があってもプライドはある。対応に気を使わないといけません。認知症患者には若い時のように行動をしようにも体力がなく怒りの感情だけが独り歩きをすることがあります。しかしそのことがきっかけでDとCの家族が対立することになりました。
Cの家族から見ればDのやったことは「でしゃばり」 です。私はCさんの家族側としか話をしませんので、Dについてどういう人かと聞いてみたら、やはり悠々自適の生活で時間とお金に余裕を持っている人でした。だから己のことでもない、Cについて過度の介入をしてきたのです。友情からの行動ではあっても、実際に介護にあたっているのはCの家族です。Dは、Cの家族に対してもCに対しての言い分しか聞かないので、もっと優しく接してあげなさいと説教しました。何も知らないくせにと、Cの家族からは嫌われました。特にCのお嫁さんはDについて嫌悪感を隠しません。CとCの家族に溝ができたのも当然の結末だと思います。
しかしDのように医師の診断書があるのに誤診だと言い切る人も珍しい。自己判断を大事にするのも結構なことですが、認知症の診断にはちゃんと診断のための統一された調査法が確立されています。それを誤診だと言い切る感覚をお持ちの人はどう説明すればわかってもらえるのだろうかと思います。




