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マイーのマズいレストラン


「今日料理作るから、来てね」


 授業中なのに携帯に送られてくるメール、カチンという携帯が開く音を出さないように中途半端に開いて確認する。確実に料理を粗末に作って自分の体を壊す気だ。麻衣は粗末だと思っていないのだが、専門家からしたら「聖山国のまい料理」――聖山国に入国したくない自分は亡国する事にしよう、今日だけは逃げたい。強制入国を拒否する。自分は家に帰ってゲームでもしたい。早く帰ろう!


「ブイッ」


 斜め右の麻衣は脇に手を挟んでピースサインを出すけど凄い謎な行動に見られるぞ。自分は携帯で「バカ」とでも送っておこう。



  ※  ※  ※  ※



 ホームルーム終わった後に「トイレ行くから」って麻衣に言ってから廊下に出る。勿論トイレに直進するわけでも無く下駄箱まで走る。ちょっと浮かれた気持ちになって靴を履いて逃げようとするが


「羽海様、本日は麻衣様のお料理ですよ」

「誰だお前!?」


 黒服の男が目の前を立ち塞いできた。麻衣様のお料理ってなんでお前が様付けでちょっと偉そうに――急に脇を掴まれて黒いバンに乗せられそうになる。


「ご同行願います」

「やっ、テメェ! おい! バイクどうすんだ!」

「後ほど送らせて頂きます」

「乗るのは許さんぞ! ――外にレッカー車待たせてるのかよ! 卑怯だぞ!」

「鍵はここですか?」

「クッソ!」


 ここまで手が回されてるとはどんだけ自分に飯を食わせたいんだ! マズいのは知ってるんだよ! だから逃げたのに亡国を許されなかった。そしてポーンとバンに投げ飛ばされて鍵を閉められる。既に拉致されて次は何処かに監禁されるてい。そんな流暢な事は言ってられないからとにかくドアのレバーを何回も引く。勿論鍵が閉められてるしドアの解除レバーを上に引いても運転手の人がタイミングを見計らって施錠する。音ゲーとかうまそう。


 次にやってきたのは舞弥……! だ、駄目だ駄目だ! 被害者を増やすな麻衣! 一般人にあの料理を食べさせたら悶絶物。よっぽどの芸人じゃなきゃ次の日位に倒れる。

 そんな事も知らずに舞弥は黒服にエスコートされながら近づいてくる、窓は黒いスモークで見えなくなってるから中に誰が入ってるかわからないのだろう、気づいてくれない。――ああ、入ってきた。


「あれ? 羽海殿、招待を受けたんですか?」

「そうだな、地獄への片道切符だ。お疲れ」

「えっ」


 舞弥の顔が歪む、そりゃ初めての人にとっては料理と言われたら美味しいとかイメージするだろうけど、惜しい事に麻衣の料理は口の中で破裂する爆弾みたいなものだ。今日は厄日だな舞弥、ここまでスムーズに来たのが悪い。


「あの、降りていいですか?」

「無理」

「なんで羽海殿が言うんですか」

「もうドア閉まってるし……このまま麻衣の家一直線でしょ」

「そんな――」


 唖然とした舞弥を見るのは初めてだ。そういう事なの舞弥。


 ついにやってきた張本人、聖山国の麻衣姫が料理を振る舞ってくれる為に黒服を雇って車を使ってまで食べさせてくれるそうです。麻衣が車の中に入ってくる。


「やぁ羽海ちゃん、舞弥ちゃん。食べさせるよ」

「うるせぇ! 帰らせろ」

「もうこのまま行くから」

「嫌です! 帰らせて下さい!」


 反抗的な自分達の頼みは聞きもせずに運転手は車を走らせる、アンタも人の良さそうな顔してそんなエグい事をするんだね。やっぱり人間は顔じゃないよ。


「絶対麻衣許さないからな」

「今回は由里様が厨房とか全部用意してくれたから」

「なんで由里様が提供してるんだよ! ……もしかしてこの車と黒服も?」

「そう」


 由里様も共犯か。あの人だったら確かに提供者になれるなぁ。いや、そう感心してる場合じゃなくて。どうやって説得したんだ麻衣は。由里様の姿が見えたが手を振るだけで帰るそうだ。いやいや、提供者なのにどうしてこの車に乗っていかないんだ。


「由里様も乗せろよ!」

「由里様はあくまでも庶民の生活を覚えるが為、電車で帰ってるのです」

「車ここまで来てるんだから迎えに行けばいいでしょうに黒服ゥ!」

「それは私達が言うべき事ではありません、お友達として言いに行けばいいのでは」

「そう言ってもドア開けてくれないじゃん!」


 結構的確な事を言ってるくせに抜けたことも同時に言いやがって。でも自分が歯向かった所でこの人達は訓練を受けた最強の男達。自分はどうすることも出来なかった。


「それじゃ、出発するから」

「……」


 もう何も言えなかった。

 早く時が過ぎてしまえと思うばかりだった。



  ※  ※  ※  ※



 テーブルに座らされて刻々と時間が過ぎる。某市内の某レストラン、しかも貸し切り。言うなると由里様のお父様のレストランらしい。今まで疑問に思っていた事が一つ解決した、百合様は金持ちのボンボンだ。……多分麻衣の料理経験を知らずしてのこの豪華絢爛なのだろう。多分食材を無駄にするだけだと思うんだけど。でも貸し切りとはいえシェフくらいはいるでしょう、テーブルから立ち上がって厨房の方を見る。


「上手く……回しって……」


 黄色いのを回してるのが見えた。だし巻き卵? 流石にそれぐらいだったらマシな程度で食べられるはず。しかし、凄い食材の量だけどよくこんなに提供出来たな、自分だったら控えめにチャーハンだけ作って終わりそうだ。だって無駄にしそうだもん。


「何を作ってるんですか……」


 舞弥もゆっくりと後ろから様子を伺ってきた。


「だし巻き卵っぽい、これだったら大丈夫だと思う」

「なんでちょっと不安を煽るんですか……」

「信頼してないから」

「あ、そうですか……」


 出来上がったのか麻衣が厨房から出てきた、良作なのか嬉しそうだ。


「はい、だし巻き卵」

「はいはい……」

「なにその反応、もしかして厨房見てた――」

「見てない! 見てないからとっとと食わせろ!」

「まぁそんなに嬉しそうに。じゃあはい」


 ちょっと焦げてるだし巻き卵を出される、自分は食べる前に舞弥に「どうぞどうぞ」と勧めるが先程の話を聞いた舞弥も遠慮をする「羽海殿が先に食べたらいいじゃないですか」って先輩に向かっていう言葉か?


「しょうがない、食べるぞーーんっ……あ、はい」


 そんなに気を入れる事も無くアッサリ食べられた。まぁ卵料理なんだからよっぽどのことがない限りはね、ちょっと味が薄い気もするけど体に優しいってことで。七点を付けましょう。


「舞弥、食べてみて。美味しいよ、悪くない」

「本当ですか? はむっ……本当だ、美味しい」

「良かったぁ!」


 自分達は安心してるけどこれは束の間の休息に過ぎない。何故なら一品で終わるわけが無いのだから。次が不安だ。




 またテーブルから立って厨房を確認する。これは最重要確認事項であるからやらなくてはならない行為だ。最も、入口からじゃ微妙に見えない所とかもあるから意味があるのかと言われると無い。舞弥と一緒に様子を見てみる。


「スープ……ですかね?」

「中華鍋を取り出して汁を中に入れたな、中華料理か?」


 ここからじゃ何を入れてるか分からないけど、カーブを描いたハチミツ色の何かを砕いていた。


「羽海殿、アレフカヒレですよ! かなりデカいです!」

「はーっ!? フカヒレ? なんてこった、高級食材をヤツに使わせちゃ駄目だ!」


 テーブルに戻って自分達はまた待つ、高級食材を無駄に使いそうで自分は百合様に申し訳ないと思う。思ったけど、前回に買った食材達はなんだったんだ。かなり買い込んだ癖に今回ここで使わないのはどうしてなんだ。


「おまたっせ!」


 気分が良さそうだけど自分達は気分が悪いぞ。舞弥もだし巻き卵とこの出てきたフカヒレスープを見て気分上々してるみたいだけど自分は過去の経験上全部信頼出来ない。それじゃ食べるとするか。


「フカヒレかってぇ」

「歯ごたえがあると思えば……」


「スープがマズいですぅ、麻衣様……」

「それは……」


 言い訳出来ない事実が一つ出来た、フカヒレよりもスープがマズいと出たか。完食出来ない、だってまず色が泥水みたいで気分が削がれる。これはお店じゃ出せないよ麻衣……。


「次もう出さないで貰えますか」

「舞弥そう来たか……」




 舞弥はこのフカヒレスープを飲んでから天を仰いで「帰りたい」と呟いていた。自分だって帰りたいけど麻衣は悪気無しに料理を作っているから帰れるに帰れない。後たまに美味しいのが来るから油断出来ない。結局料理の腕は上か下かというと中くらい?

 じゃあ早速その中くらいの腕の麻衣の厨房を見てみよう。


「アレは……カツオ?」

「見開きにしてますね、もう嫌です……」


 今回の料理はノンジャンルで行くつもりなのか? 今の所は和中和というジャンルが滅茶苦茶。食べたい物をリクエストしてそれを食べるのじゃ駄目なのか、レストランといったらこの注文を受けて食べるのが一番安心で一番満足出来るんじゃないの。そう言った面で麻衣はちょっと頭硬い気がする。


わらを敷き詰めて――何をするつもりなんだ」

「もしかして、羽海殿。カツオのたたきを作るつもりなのでは?」

「たたき?」

「はい、たたきって藁でやると瞬間的に火が通って中は生の状態で残る事が多くなるのでこれが正しい方法なんです」

「へー、でもかなり燃えてるんだけどあそこにぶち込むの?」


 火の手が凄い上がってるんだけど用意したカツオをまだクシに刺してる時点で手際の悪さを感じる。燃えやすいんだったら先にクシを刺しておけよ。

 ――あーあ、燃え尽きた。


「もう一回あの作業をやるのか……」

「麻衣様、酷いですね」

「元から酷い」


 様子が見れた所でまたテーブルに戻る。自分達はテーブルでダレる。間違いない、アレは失敗作になりつつある。カツオをさばいたのはセンスがあるとして、そこからの手際の悪さといったらもう評価的に悪くなる。燃え尽きた藁達が可哀想、何の為の藁なのか。


「おまたせー……ってどうしたの? お腹すいたの?」

「いや、帰りたい……」

「これは大丈夫だと思うよ、カツオのたたき」


 舞弥は出されてテンションが下がった気がした。


「私、カツオ駄目なんですよ――」

「大丈夫だって、食べてみて」


 ついでに出されたのがポン酢とマヨネーズみたいな半固体の物、マヨネーズの匂いがしたから自分の拒絶反応が出る。自分は小学生か幼稚園生の頃にマヨネーズ丼みたいのを出されてから拒絶反応が出るようになってしまった。我慢すれば食べられるレベルだけど、基本的には鳥肌が立ってしまう。


「はぐっ……あれ、美味しいな? あれあれ、はぐっ、悪くない……」


 火の通しも悪くなくって美味しい。舞弥も嫌いとは言ってたものの――


「美味しいです、カツオこんなに美味しいんですね」


 どんどん舞弥は口に持っていった。珍しい事に麻衣の料理が当たっていた。正解の方の当たり、自分はポン酢の方で食べていくけど舞弥は麻衣特製のソースで食べていく。それを見た麻衣はガッツポーズ。でも、カツオのたたきぐらいだったら焼き加減を間違えなければ美味しくなる気がする。簡単とは言ってないけど、基本さえ知ってれば楽に出来る料理だと思う。


「ふふん、私もやれば出来る」

「麻衣は自慢げに言ってるけどお前、料理の腕はまだ下手だぞ」


 調子口でイラッと来た自分は頭を掻く。




 携帯で「麻衣 殺す方法」と検索したら、蛆虫うじむしを殺す方法が出てきて麻衣イコール蛆虫と想像してしまって吹いてしまった。まだ料理の腕前は蛆虫という事か、さすが聖山ウジムシ。

 いつものように厨房の確認。――鉄板を温めている、ということは肉料理と来たか。ユッケじゃないよな? 前回のユッケのせいで自分は腹を下して何日も休んだんだから……でも、鉄板ということは今回は熱を通してくれるんだろうな。それだけでちょっとマシ、本当にマシ。ユッケは絶対に許さない。


「熱くなったかな? ……アッツ! アッツツ! クッソ! ファ○ク!」


 鉄板に手を触れた麻衣がそんな言動に出るとは思わなかった。ファ○クなんて麻衣がいう言葉じゃないよ。普段の麻衣しか大体見てない訳だけど、一人の麻衣を見ると色々変わってる。二重人格か何かか?

 とりあえずと言わんばかりにハンバーグとミートパスタを乗せて完成らしい。

 自分はテーブルに戻る事にしよう。


「おまたせ! パスタとハンバーグしか無かったけどいい?」

「それしか無かっただろ」


 ジュージューのハンバーグを出してくれる麻衣、定番と定番のダブルジューシー。これがハズレな訳無い……よね?


「はぐっ……はぐっ……?」


 一口目は悪くなかったが二口目はどうしてか口が止まった。そう、何処かで感じた触感だった。これは――ユッケ? ハンバーグの断面図を見てみる。 ……生焼けだった。鉄板を温めてくれたのはありがたいけど、鉄板は演出なだけでメインのハンバーグはちゃんと焼かないと生焼けなのも絶対だ。


「麻衣、食べる?」

「え? 全部食べなよ」

「一口だけ」

「うん、パクっと……!?」


 麻衣もその違和感に気づいた。生焼けだもん。




 舞弥もこの食事に飽きたのか。「帰りたい帰りたい……」とうつむいて呟いている。麻衣は「この後用事があるから次が最後」って言って厨房に戻った。遊びだったら「えー」ってなるけどこのマズい料理食べさせられている今は「やったー」っていう言葉しか出ない。

 もう厨房の確認もしない。もうこれで最後だから――


「はい、石焼ビビンバ」

「お? ――マトモじゃん。どしたの?」

「いつもマトモでしょ」

「いやいや……」


 マトモっていう言葉が出る時点でマトモじゃない麻衣、石焼ビビンバ。凄く美味しそう。


「じゃあ頂きま――」

「ちょっと待って! これ掛けて」


 そう言って持ち出してきたのは駅の階段で見かけるブツみたいなの……なんてこった、これを上に掛けるのか……もぉーやだぁー、これを掛けるのぉ……麻衣は早速掛けようとするが、自分は必死に抵抗する。


「まった! マジで止めて! まずそれ何だよ!」

「これ麻婆豆腐。 美味しそうでしょ?」

「自分は嫌だから! 先に舞弥が掛けろ!」

「なんでですか! 先に羽海殿が掛けて下さい!」


 ブツの譲り合い、その麻婆豆腐を掛けるのは本当に嫌だ。そんな言葉も気にせずに麻衣はビビンバに麻婆豆腐を掛ける。


「「ああああああ――」」


 麻衣は嬉しそうに掛けるけど自分達はただの石焼ビビンバで食べたかった。――そう、唯一マトモに思えた暖かい食べ物、石焼ビビンバを食べたかった。その麻婆豆腐は余計だったんだ。でも無慈悲に石焼ビビンバは麻婆豆腐掛け石焼ビビンバになった。石焼ビビンバ。


「はい、どうぞ♡」

「凄く、食べたくないです……」

「勿体無いから食べて」


 勿体無くしたのは麻衣だろ、自分達はどんだけ嫌がってたのか。


「う、羽海殿……先にどうぞ」

「あ、うん」


 自分は諦めて食べることにした。


「はぐっ、はぐっ……辛い」

「辛いんですか……はぐ……」


「はぐっ……はぐっ……」

「……」


 特に抵抗も無く食べ進める。見た目はエグいのにどうしてだろう、食べ進めてしまう。


「舞弥――美味しい……よね?」

「美味しい……ですね」


 そう、美味しかった。辛いんだけど、ご飯と一緒に食べると凄い美味しい、辛さと白米は凄い合う。自分はコレはアリだなと思った。

 自分はコレをマジカルマーボーと名付けよう。レシピは分からないけど豆腐が凄いグチャグチャで茶色い。後でこれ貰えないかなとか思う。ビビンバの野菜と混ざり合う事によって凄い美味しくなる。


「あの、麻衣様。後で底が深いお皿でこれ貰えませんか?」

「あ、自分も」

「そう? まだ残ってるからいいよ」


 やったー。マジカルマーボーが欲しかったんだ。このマジカルマーボーは伝説になるであろう。




「さて、第二回目でしたけど、名柄川羽海様。如何でしたか?」

「うん、鋸山の崖の間からバンジーしてください」

「あ、ちょっとマシになった……」

「まぁ今回はマシだった――」

「では三回目をお楽しみに」


「「もう行かないわ!」」


 自分達はハモりながら否定する。本当にマシになるんだったら次回もってなるけどさ、今の腕だと本当に人に出しちゃ駄目なレベル。由里様は麻衣の腕が分からないから貸し切ったのだろうけど、次回からは由里様にもしっかりと言っておかないと駄目だな。麻衣の自由度が増えてしまうから。特にカツオを一本出すのはおかしいと思う。


 ――お腹、大丈夫かな。

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