1/21
序
度重なる戦乱に、大地は焼け尽くされ、海は汚された。人の怨嗟や大地の穢れが呪いを生み出し、呪いに冒された獣は狂って人に害をなした。
そこで人々は僅かに残った豊穣の地を島として空に浮かべ、地を捨てた。
体のどこかに紋章を抱いて生まれた者を、紋章者という。彼らの力は開花すれば様々であるが、開花する前に搾取され、豊穣の島を空に浮かべるというただ一点に使われた。
彼らは捨てられた大地に立つ灰色の工場に詰められ、能力を搾取され、次代の紋章者を生むために番わされた。しかし能力の酷使は命を削る。彼らは概して短命だった。
灰色の箱に窓はない。彼らはそこがどこであるのか、己が何者であるのか、外に何があるのか、全てを知らず、生涯を捧げる。
箱の中では、御伽噺だけが語り継がれている。
それは貧しい男と傲慢な姫の恋物語であったり、美しい緑に囲まれ澄んだ川の流れる楽園の話であったりした。
箱の中しか知らない人々は、誰が作ったとも知れぬ物語を語り継ぎ、そうして死んでいった。




