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第一夜【ブランコから始まる出会い】

「…ああ、またこの夢か。スタート地点が家の前なの、どうにかならないかな」


学校が夏休みに入ってから、同じ夢をよく見る。見慣れたいつもの街なのに、人っ子一人いない夢だ。夜ということもあって、少し不気味にも感じてくる。


「うーむ、今日はどうするか」


最初の頃は明晰夢だ何だとはしゃいだものだが、何度も見ると流石に慣れてくる。目覚めようと思っても簡単には目覚められないので、最近はその辺りを適当にぶらついて時間を潰すようにもなってきた。


「そろそろ知り合いの家巡りも飽きて来たし、久しぶりに公園にでも行くか」


公園に行けば、大抵はブランコなんかの遊具がある。中学生が乗るのにしてはサイズが小さめだが、細身なほうなのでまだまだ乗れる。


(そういえば、この世界って人がいないのに電気はあるんだよな。夢特有のご都合主義ってやつかな)


答えのない問いをぼやっとした頭で考えながら歩いていると、公園についた。子供たちはおらず、そこには空白だけが静かに居座っている。

二つが横並びになったブランコはチェーンが錆びついており、乗るとキィキィと音を立てる。座面は冷たく硬いので、あまり座り心地はよくない。


「静かでいい夜だな…毎日そうか」


「ほーんと、退屈な夜だよね〜」


「っうぇ!?」


まさか独り言に回答が貰えると思ってなかった俺はバランスを崩して座面から転げ落ち、地面に尻もちをついた。慌てて顔を上げると、さっきまで乗っていたブランコの隣に、女性が座っていた。


「ちょっと、流石にビビりすぎじゃない?失礼だと思わないの?」


女性は銀髪碧眼の美人という外国人離れした容姿をして、ダボダボのジャケットとオフショルダーのトップスをうまく着こなしていた。サラサラのロングヘアは清楚さと純粋さをこちらに演出するが、発言とのギャップがままあった。年はかなり若く、高校生か大学生くらいだろう。

女性から目が離せない。心臓がドクドクと煩い。脈が早まり、脳にガツンと衝撃が来る。全身に電流が走ったようなショックを感じ、そして知った。


ああ、これが一目惚れか。


一目惚れと言うのは、大変にロマンチックではある。しかし、現実には決して存在しない、フィクションのものだとばかり思っていた。だが、確かにあったのだ。一目惚れは。


「ねえ、聞いてるの?」


「え?ああ、はい……?」


一目惚れのショックでふわっとしながら返答すると、女性は怪訝そうに顔を覗き込んだ。


「どったの、君。鳩が豆鉄砲食らったような顔して……。大丈夫?」


まだ少し混乱してはいるが、だんだんと頭が冴えてきたので無事に返答することができた。もっとも、恋のショックかブランコから落ちた衝撃か、あるいはその両方の影響によって俺は足に力が入れられなくなってしまったが。


「はい、大丈夫です」


「ふーん、ならいいけど。さて、改めましてこんばんは。貴方の名前は?」


「えっと、夢見シンです」


「そ。いい名前ね。よろしく、シン君。立てる?」


「あ、はい。ありがとうございます」


彼女が手を差し伸べて来たので、その手を引いて何とか立ち上がる。そして、体の砂を少し払ってからブランコに座り直した。


「えーと、貴女の名前を聞いても…?」


今のうちに聞いておかないと、タイミングを逃しそうだったので名前を聞くことにした。初めましてのコミュニケーションは基本的に自己紹介からだ。


「あたしは…ヨルって呼んで」


「分かりました。ヨルさんですね」


初対面の相手なので敬称をつけて呼ぶも、彼女は少し不機嫌そうな顔をした。


「敬語はいいよ、あたしは別に偉い立場でもないし」


「そんなものですかね」


「そんなものなの。敬語とか敬語じゃないとか、なんだってよくない?」


まあ、敬語を使わなくていいと言うんだったらそれはそれで楽になってありがたいし、距離を詰めることができるので、俺は素直にタメ口で話すことにした。


「まあ…確かに。ところで質問なんだけど、いいか?」


「何?なんでも聞いてよ、おねーさんがバッチリ解決したげる」


「この世界ってどんなところか分かるか?」


何気に、俺はこの世界で初めて他人と会った。第一村人発見!という奴だ。その土地のことを知るのなら、まずはその土地にいる人に聞いたほうがいいだろう。


「あー、んとね、あんまり分からないかな」


ヨルは少し悩み、そう答えた。分からないということは、俺と同じで夢を見ているだけなんだろうか。或いは、俺の想像で作り出した空想上の人間という可能性もある。というかそっちの方が可能性は高い。銀髪碧眼だし。あれ?すると俺は自分で自分の恋人を作り出したことになるんでは…?

よし、このことについて考えるのはよそう。精神を病みそうだ。


「あでも、この世界の区切りみたいなものは分かるよ」


区切り。終わりと言ってもいいだろう。確かに、夢というのはずっと続くわけではない。現実で寝ている自分がいるかぎり、朝が来ればこの夢は終わるのだ。今まで俺はなんとなく終わるまで暇をつぶしていたが、終わる兆候のようなものがあるんだろうか。


「それはね、朝が来る時。東の空がだんだん明るくなって、意識がぼやっとしてきたらそこが区切り。また次の夜まで待つだけ」


成る程、この世界の時間は現実となんとなくリンクしていたらしい。通りでなかなか夢から覚めないわけだ。しかし、今まで俺は何故気が付かなかったのだろうか。


「うーむ…謎が謎を呼ぶな」


「あとは、この世界は何処まで行っても夢でしかないから、見てる人の眠りが深いところまで行くと世界は途切れちゃうかな」


ああ、それなら合点がいく。恐らく今までの俺は、夜が明ける前に深い眠りについたことで夢を中断していたのだろう。


「なるほど、ありがとう。助かった」


「あたしが力になれたようで何より。ね、私からも質問いい?」


ヨルから質問されるとは思っていなかったが、二度も聞いたので俺はできるだけ答えようと思った。


「答えられる範囲ならできるだけ」


「じゃあ…シン君って彼女とかいないの?」


「……は?」


まさか初対面でこんなにぶっ込んだ質問が来るとは。俺は思わず聞き返してしまった。


「いやね、あたしもこの質問がどうかしてることは分かってるの。でも、気になっちゃったんだからしょうがなくない?」


「え…はあ?」


「まぁまぁ、ひとまず居るか居ないかだけおねーさんに教えてよ。ダメ?」


「ウッソだろお前………はあ、一つ答えるとするんなら、今も昔も俺に彼女なんていねえよ。そもそも、恋愛なんて今するメリットがない」


「えー、つまんないなー。男の子なんだから、彼女の一人くらい作ったらどう?」


「いらんいらん。中学生同士の恋愛なんてどうせ高校行ったらすぐ解消されるし、金と時間の無駄だろ」


「あ、もしかして彼氏の方だったり?」


「ねぇよ!よくもまあそんなにズケズケと質問できるなぁお前!」


この多様性の時代によくこんなに攻めた質問が出来たものだ。ひょっとするとこの人はバカなのかもしれない。


「だって気になっちゃったんだし、しょうがなくない?それに、もし居たらそれはそれで会話のネタになるし。いい?シン君。人と人が手っ取り早く仲良くなるにはね、恋の話か愚痴が一番手っ取り早いんだよ」


「何だそのイヤな二択。もっとなんかあるだろ、アニメの話とかゲームの話とか」


「あー、そういう時にオタッキーな趣味が出てくる辺りが彼女できなそうだね」


何ということだ、こんなところでもオタクへの風当たりが強い。やはりオタクに優しい女の子は居ないんだな…夢の中でくらい、フィクションなんだから居てもいいと思う。


「余計なお世話だ。人の趣味にどうこう言うな」


「別にオタクが悪いだなんて言ってないよ?勝手にどうこう言われたと勘違いしてるのはそっちじゃない?」


「なにおう」


そんな風にやいのやいのと喚いていると、ヨルは何かに気づいたように空を見上げた。


「だいたいねぇ、最近の若い子は……あ、見て見て。東の空が明るくなってるよ」


ヨルが指さした方を見ると、東の空は橙色に染まってきている。空は青と橙で二分化され、色のコントラストがよく映えている。


「もうじき夜明けか。この世界では初めて見たけど、結構綺麗だな」


「でしょ?お気に入りなんだ、この景色」


現実ではなかなか目にはいることの少ない、美しく広がる橙の空に見惚れていると、何だか意識がぼやっとしてきた。これが俗に言う"終わり"というやつだろうか。


「っと、そろそろタイムリミットかな。シン君、こっち見て」


ブランコから飛び降りたヨルの方へ顔を向ける。朝日にぼんやりと照らされたヨルの姿は、さっきまでより一段と綺麗で、幻想的に見える。


「じゃあ、シン君。またね」


「ああ、また明日」


意識が遠ざかっていく。朝焼けの空と、ヨルの微笑みが遠ざかっていく。まるで、微睡んでいくように。

シン君とヨルの第一夜、読んでいただきありがとうございます!

私自身なろうに小説を投稿するのは初めてで、分からないことが沢山ありつつも楽しんで執筆させていただいてますが、もし改善点等ありましたらコメントで教えてくださると幸いです!

面白いな、と少しでも思ってくださいましたら是非とも評価してくださると今後の執筆の励みになりますので、よろしくお願いします!

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