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恥を知りなさい!

 「え? 本当に来たのですか? 正直言って馬鹿ですね……。ルーヴィヒ・オマスペさん?」

私は眉をひそめてルーヴィヒさんを一瞥した。

私の発言と態度に、ルーヴィヒさんの顔が真っ赤になる。

「王に向かって『馬鹿』とはなんだ‼ 失礼だぞ! 陛下と呼べ‼」

あら、自覚が無いのですね。

では、教えてやるわ。

「だって、国を見捨てて私のもとへ来るなんて、馬鹿じゃないですか。それに――ルーヴィヒさんはもう王にはなれませんから」

私の発言に、ルーヴィヒさんはさっきより憤慨する。

「国を見捨てるだと! わしは国のためにお前を捕まえに来たのだぞ! 王になれないとはどの口が言っているんだ‼」

ああ、もう本当にこう言えばああ言う人だわ……。

「では質問をします。どうしてあなたは少し痩せているのです?」

「わしがここに行こうとすると、元宰相は『国の方が大切だー』と王宮を出て行って、その後誰もついてこなかったわい。だから二日間飲まず食わず食わずで歩いてきた。うーむ、あの元宰相には一年間拷問させるか」

まあ、それで倒れてない方が驚きだわ。

執念って怖いのね。

そう少し驚きつつルーヴィヒさんの発言に、私はクスリと笑う。

こんな事に気付かないとは、無能という言葉が一番似合うでしょうね。

「そうやって誰も王の身を案じないという事は既に国民に見放されているのではなくて? 国王が出かけるとなると普通は誰かが護衛としてついてくるものでしょう?」

私の読み通り、ルーヴィヒさんは目を見開く。

この王って、こんなに無能だったのね……。

なんでこんな王に仕えようと思うのかしら……?

「……ぐぬっ……」

ルーヴィヒさんは分かりやすく言葉に詰まる。

それを見て私は、口角を上げた。

 「さて言葉に詰まったところで、オマスペルマスの惨状を見てもらいましょう」

私は高らかにそう宣言する。

そして愚かな元王は私が放った餌に食いついてくる。

「惨状だと!? 国がそのようなことになっているわけがないだろう‼」

ああ、この人はどこまでも変わらないのね。

「では見せてあげますわ。〖クリスタール(水晶)〗」

私は手のひらに水晶を出現させる。

「はっ、そんなもので何ができる。アンジュは所詮魔力なしだからな」

はいはい、どんどん嘲っていて下さい。

たくさん嘲れば、現実を見た時のショックは大きくなるはずだわ。

にしても、なぜ私が魔力なし?

今水晶を出したのは聖女だけの使える立派な魔法だというのに……。

これは魔法の勉強不足なのかしら?

「オノジュサント・ショルクリスタール・レッタドゥオマスペルマス・ヴイエポシュティー!」

そう唱えると、水晶の中に景色が映る。

 そこには、魔物に噛まれてようやく斬りかかる騎士団、「食糧が無いからペルミルンに逃げろ!」と叫ぶ貴族達、城下町に攻め入る魔物の姿。

「わっ……わしはこんなもの信じぬぞ!」

強がり……ですか?

聖女の代名詞とも言える、水晶にどこかの様子を映す魔法を信じないなんて……もう無知の範囲じゃないわ。

「まあいいです。きっと後で、嫌ほど知ることになりますから」

「戯言を言うな! この魔力なし役立たず聖女が‼」

あら……まだ聖女の力を信じていないのですか。

これも、証明させますか。

 「では証明しましょう。あなたが信じなかった『結界』の事について。手始めに――こちらに魔物を少し呼びます」

「‼ 馬鹿かお前は!」

あら。魔物が攻めてきて苦労でもしたのかしら?

それなら尚更聖女の力を信じさせやすいわ。

アッペルドゥ(魔物)モンスタ(呼び)〗」

魔力を少し風に乗せ、魔物のほうへ流す。

これは魔物は魔力を感じて人を襲う、という性質を生かした魔法。

ルーヴィヒさんはどんどん青ざめていった。

 だいぶ結界に近づいてきた。これは黒いオオカミのような魔物ね。

そして、聖女にだけ見える結界に触れると――魔物たちは白い粒になって消えた。

「!? アンジュは何もしていないのに!」

「これが、聖女の力です」

その言葉を聞くと、ルーヴィヒさんはガタガタと震え始めた。

「わ、わかった……聖女の力は認めるからもう帰らせてくれ……」

そう言うルーヴィヒさんに、私はニンマリと笑って見せた。

「それは無理ですね」

 


 「!? 何故だ‼ なんでそんなに酷い事をするんだ!」

「それは、あなたがそれ位酷い事をしているからですよ」

その声は、私の後ろから聞こえた。

それは――エイミだった。

丁度良い所に。エイミ、言ってやりなさい。

「なっ、わしが酷い事だと!? 何をふざけ――」

「自覚しろ‼ この酷王(こくおう)!」

 それは、普段のエイミじゃなかった。

 普段の弱気なエイミじゃない。

 おどおどとしている瞳はつりあがり、顔は怒りで満ちていて、とても強気だった。

「外見の違うものにはどうして何も権利が無いの‼ 外見がほかの人と少し違うだけで差別するなんて、王のすることじゃないわ! すぐに拷問拷問! 国民のこと考えて行動しなさいよ‼ どれだけつらい思いしてるか……考えなさいよっ‼ 恥を知りなさい!」

「……っ‼」

ルーヴィヒ――否、酷王はとても動揺している。

まるで悪戯(いたずら)がばれた様に。

あら、意外に酷い事をしているって自覚があったのね。

「っ‼ その口塞いでやるっ‼ 〖コント……(コントロール)〗」

酷王は憤慨して、呪文を唱えかけた。

あら、酷王って〖コントーリ(コントロール)〗使えたのね。

でも――魔法で私とエイミに敵うわけない。

「〖アリティー(ストップ)〗」

一瞬、呪文を唱える声が止まった。

一瞬だけ。

でもエイミにはこれで十分。

一瞬でエイミは、酷王が唱えようとしていた魔法を打ち込んだ。

「〖コントーリ(コントロール)〗」

アリティー(ストップ)〗の効果が切れた、と思い酷王は口を開いた。

「リ……」

けれど〖コントローリ(コントロール)〗の効果で、口を閉じた。

口を塞がれるのは、あなたの方でしたね。

これは実におもしろいです。

「さてエイミ。養分を与えて国に帰しましょ。滅ぶ様子は長く見せたいし」

「ええ、どうぞ」

「〖アジェクトティ(養分を)ディスニュリモ(注入)〗」

私が国王に養分を注入すると、国王のお腹が膨れ上がった。

そういえばこれくらいお腹は膨らんでいたわね。

結構太っているのね。

酷王のお腹が膨らむのを見て、エイミは呪文を唱える。

「〖テレポティセ(この人を)ットペッソーム(瞬間移動)〗」

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