自分の国と私を捕まえる事、どっちが重要なのでしょう?
……ふぅ。
全く、あの王は自分の国と私を捕まえる事、どっちが重要なのでしょう?
国が亡ぶのはさすがに嫌だと思って〖テレパティー〗で助言してあげたのに……。
「だれがお前の脅しに屈するか‼ わしはこの国のためにお前を捕まえるのだ‼」とはね。
国が大切なら、オマスペルマスに戻った方が……。
まあ、私のところに着いたら現実を見せてざまぁしてやりますけど。
楽しみになってきたわ!
あら? 私って性格悪くなったかしら?
まあ――それはどうにかするわ。魔法とかで……。
それよりも今はパーティーを楽しまなくては。
パーティーを抜け出してしまったし……。
今頃心配されているかしら?
「〖テレポーテーション〗」
玉座の間に着くと、大きな円形のテーブルを中心にワインを飲んだり、食事を楽しんでいるのが見えた。
「ああアンジュ――いや、アンジュ嬢。トイレにでも行っていたのかな?」
中心の大きな円形テーブルのほうに一歩進むと、陛下がササッと近づいてきた。
陛下、地獄耳! じゃなくて、地獄目‼
でも、トイレに行ったくらいの心配でよかったわ。
誘拐だとか心配されたら、一から話さないといけなくなってしまいそうで。
「オマスペルマス王と〖テレパティー〗で話していた」なんて、祖国を捨てていて関わらないと陛下に宣言したのを、覆すことになってしまうわ……。
それでは陛下に迷惑がかかってしまうわ、きっと。
でも、なんで今更「アンジュ」から「アンジュ嬢」に呼び方を変えたのかしら?
「ええ、そのとおりです。ご心配お掛けしました」
「いやだいじょうぶだよ。そこにセオドアたちもいるから混ざりな」
あら? なんで私は「アンジュ嬢」なのに、お父様は「セオドア卿」じゃないのかしら?
まあいいわ。お父様のところに行こう。
「お姉様ぁ、トイレにぃ行っていらぁしたぁんですかぁ? 料理もぉ、ワインもぉおいしいですわよぉ……ウフッフフゥ‼」
なんかおかしいわね。
……エイミがワイン?
エイミって、15歳よね。
私の今年の誕生日に初めてお酒を飲んだから――
「エイミは飲めないじゃない‼」
ボソッと、私はつぶやく。独り言にしては少し大きいけれど。
お父様は、エイミから少し離れているから気付かなかったのね……。きっと。
でも、なぜ飲んだのかしら?
お酒は16歳からってきつく教えてもらっているのに……。
ワイン……紫色……お酒……ぶどう……あっ‼
エイミはブドウジュースが大好きなのよ!
ワインとブドウジュースは材料が同じからか、見た目がとても似ているわ。
それで、テーブルの上にあるワインを、ブドウジュースと勘違いして――飲んでしまったのだわ。
初めてのパーティーで舞い上がっていただろうし……。
私は、エイミの細い腕に触れる。
「〖イッテンニラルアルコール〗」
聖魔法で、体内に蓄積したアルコールを消す魔法があるのよね。
あまり使う機会はないけど、酔っぱらった人が襲ってきたら使ったりするのよ。
「ウフッウフッフフ……あら? 私はいったい……」
アルコールが、無事に消えたみたいね。
「ワインを飲んだのよ。少し休んだらどう? 陛下は夜が明けるまでやるつもりだそうですし、少しなら大丈夫よ」
「ええ、そうさせていただきますわ」
にしても、エイミにも結構お茶目なところがあるのね。
普段は「最強魔法使い‼」っていうイメージしかしないのに。