【33話】林の秘策
何週間ぶりだろうか。
俺はついに、トータム王国へと戻ってきた。
見慣れた城壁に、行き交う人々。以前訪れたときと変わらない光景が、目の前に広がっている。
だが、俺の心境はあの頃とは大きく違っていた。
あのときは坂口に敗北し、林に助けられた。
そして今、俺はその坂口を倒すために、この国へ戻ってきたのだ。
「とりあえず、宿に向かうか……」
長旅で身体も疲れている。まずは宿を確保して、今後の行動について考えよう。
そう思って歩き出した、そのときだった。
「正弘? 正弘なのか?」
後ろから、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
(この声は……)
俺は慌てて振り返る。
「林!」
そこに立っていたのは、紛れもなく林だった。
「おお! やっぱり正弘じゃねえか!」
久しぶりの再会だ。
まさか、こんなところで再び会えるとは思ってもいなかった。
「正弘、お前どこ行ってたんだよ?」
林は驚いたような表情で尋ねてくる。
無理もない。
あの日、朝起きたら俺が忽然と姿を消していたのだから。
「悪かったな。新しいスキルが欲しかったもんで、ちょっと遠出してたんだ」
「新しいスキルって……相変わらずだな」
林は呆れたように笑った。
「まあ、無事だったならいいんだが……」
その言葉を聞いて、俺も少しだけ安心した。
だが、今は久しぶりの再会を喜んでいる場合じゃない。
俺には、どうしても確認しておきたいことがあった。
「なあ、林」
「ん?」
「今……坂口はどうなってるんだ?」
俺は真剣な表情で尋ねた。
坂口がまだ生きていることは、おそらく間違いない。
しかし、あいつがいつまでもこの国に留まっているとは限らない。もしかしたら、すでに別の場所へ移動している可能性もある。
俺が探している間に逃げられてしまえば、元も子もない。
すると林は、少し考えるような仕草をしてから口を開いた。
「坂口はここにはいない。スタンレイド大坑道にいるって噂だ」
「スタンレイド大坑道? そんな場所、聞いたことがないぞ」
「それは当たり前だ。地図にも載っていない場所にあるからな」
「地図にも載っていない……?」
なるほど。
地図に載っていない場所なら、普通の冒険者が見つけるのは難しい。人目につきにくいという点でも、身を隠すにはちょうどいい場所なのだろう。
「坂口を殺すなら、早めに動いた方がいいぜ?」
「……それはなぜだ?」
俺が尋ねると、林は周囲を確認してから話し始めた。
そして、そこから約五分。
林の説明を聞いた俺は、思わず驚いた。
なんと、クラスメイト十九人で結成された、坂口を倒すための連合が存在するらしい。
そのリーダーを務めているのは、生徒会長の岡田勝也。
岡田を中心に十九人ものクラスメイトが集まり、一週間後にスタンレイド大坑道へ攻め込む計画を立てているという。
「十九人もいるのか……」
「ああ。かなりの人数が集まっているらしい」
「それで、一週間後に攻め込むってわけか」
「そういうことだ」
俺は腕を組み、考え込んだ。
坂口の持つ九命の剣は、九度攻撃を受ければ相手の命を奪うという、とんでもない能力を持っている。
それに、坂口自身も決して弱くない。
だが、いくらあいつでも十九人ものクラスメイトを相手にするのは無理があるだろう。
一対一ならともかく、複数人で連携して攻め込まれれば、さすがに勝ち目は薄い。
「……まずいな」
「だろ?」
そこで、俺はふと疑問に思った。
「それにしても、なんで林はそんなに詳しいんだよ?」
「えっ?」
林の表情が一瞬だけ固まった。
「あ、いや……それは、その……」
珍しく歯切れが悪い。
そして、少し焦ったように答えた。
「そいつは……企業秘密ってやつだ」
(つまり、秘密ってことね……)
まあ、無理に聞き出すつもりはない。
今はそれよりも、坂口のことが重要だ。
このまま何もしなければ、坂口は連合に倒されてしまう。
そして、九命の剣も、あいつが持っている財産も、すべて連合に奪われることになるだろう。
そんなことは絶対に避けなければならない。
何がなんでも、連合より先に坂口を倒す必要がある。
「その大坑道までは、どれくらいかかるんだ?」
俺が尋ねると、林は神妙な顔つきになった。
「今の状態だと……最速でも十日はかかる」
「十日!?」
思わず声が大きくなる。
一週間後には連合が攻め込むというのに、これではどう考えても間に合わない。
俺が坂口のもとへたどり着く頃には、すでに決着がついている可能性だってある。
だが……。
「待てよ。今の状態ってことは、何か別の策があるんだろ?」
俺がそう尋ねると、林は一瞬だけ目を見開いた。
そして、口元をニヤリと歪める。
「ああ。俺が考えている方法を使えば……二日で行ける!」
「二日!?」
十日かかる道のりを、たった二日で?
いったいどんな方法を使うつもりなのだろうか。
「なるほど……で、その方法は?」
俺が尋ねると、林は満面の笑みを浮かべた。
そして、自信満々に言い放った。
「俺たちは……空を飛ぶんだ!!」




