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01 白の焦燥感

黒い空間に放り込まれて、焦燥感(しょうそうかん)が思考を支配する。

視界の端で、体の変化を凝視(ぎょうし)していた。

電子的に分解されていく四肢(しし)。失われる感覚。

焦燥感と恐怖が入り交じり、頭を埋め尽くす。

嵐のような感情の中で一つだけ、声が(ひび)く。

―――飲み込まれてたまるか。



 * * *



汗だくで目を開ける。

暗く、知らない天井が目の前に広がっていた。

夢を見ていたようだが、内容は思い出せない。

怒り、焦り、恐怖し、絶望する夢だった。


「ここは…?」


起き上がった高橋 海斗(かいと)はあたりを見渡した。

知らない部屋だ。

ベッド、机、カーテンで仕切られた向こうはトイレ。

四畳半程度の小さな部屋に押し込まれていた。

記憶にある自室は似ても似つかない。

窓はない。

しかし、閉じられた扉の向こう側からざわざわと人の話し声がした。


「ねぇ、本当にここがどこかわからないの?」

「なんでこんなところに集められないといけないんだ…」


知らない声、それに複数人いるようだ。

好奇心のまま、海斗は扉を開いた。


「誰か出てきたよ!」


出た場所は大きなアリーナと白いコンテナが並んでいた。

中央に集まる人々が一斉に海斗を見た。

振り返ってみると小さな部屋だと思っていたのは、白いコンテナだったらしい。

視線を戻すと、人々はまだ海斗をみていた。奥の方ではこそこそと何か(しゃべ)っている。


「こんにちは~」


一番近くに集まっていた人々の中から、一人の女性が手を振って挨拶(あいさつ)してきた。


「私、さくら。渡辺さくらっていうの。あなたのお名前は?」

「高橋…海斗…」


コミュニケーションお化け。

海斗は苦手なタイプだ。

すぐにプライベートスペースに入ってきて、こっちの気も知らずに去って行く人。

それでどれだけ人間関係を失敗してきたか。


「高橋くんね。ここ、どういう状況か知ってる?」


さくらに言われて、改めて見渡す。


殺風景(さっぷうけい)なアリーナ。

並べられた三十ほどの白いコンテナ。

一角に吊るされた巨大モニター。

どの光景も思い当たるものはない。


海斗はさくらに視線を戻す。


「何も知りませんが…」

「おいさくらぁ。そんな陰気(いんき)なやつに聞いても、知ってるわけねぇだろ?」


さくらの後ろから、体格のいい男が会話に入ってくる。


麻琴(まこと)くん!」


麻琴と呼ばれた男は、胸元からいれずみを垣間(かいま)見せる。

薄暗いアリーナなのに、金色のネックレスとブレスレットがやたら光った。

どう見ても普通の会社員ではない。


「こんなやつより、いざとなれば俺が壁ぶち壊して出してやるからさ」

「でも、できれば穏便(おんびん)にここから出たいよねー」


睨みをきかせる麻琴を気にしない様子でさくらが海斗に微笑んだ。


「そ、そうですね…」


あまり関わりたくないかもしれない。

海斗は逃げるように周りに目を渡らせた。


コンテナの扉をみるに、全ての扉が開いていた。

開いた扉から見たコンテナの中は同じ構造。

それ以外に出口と思われる扉は見当たらない。


『ギーンゴーン』

「な、なんだっ⁈」

「どうした⁈」

「何の音?」


突然のチャイムがアリーナ全体に響いた。

それと同時に、巨大スクリーンが煌々(こうこう)と白く輝いた。

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