第32話 デート零回目(四年後)(END)
【来月、年末年始は帰ってくるんだろ。俺の白衣姿見せてやる】
【見ない】
【見ろよ、成人式まで居るんだろ】
【いない、練習】
【まじかよ、大学生の野球部って忙しいんだな】
【高校のが、ましだた】
【まじかよ、じゃあ、成人式にまた戻るのか】
【戻らない】
【そうか、じゃあ、高校の同窓会は欠席だな】
【頼む】
【おっけ、じゃあ、正月楽しみに待ってるわ。】
【おう】
【てか、それまでに、メッセージの練習しとけ(笑)】
【おう】
【おう、で済ますな(笑)】
教えてくれたスタンプを送ると、動いて、画面に迫ってくるのが送られてきた。
「終わった? 彼女とのメッセ」
持ってまだ二年の、慣れないスマホから顔を上げる。
「彼女はいません、田舎の友達とです」
「ふーん」と、ひとつ上で、野球部のマネージャをやってくれている女の先輩が続ける。
「ただの友達と、そんなに楽しそうにメッセするのに、私にはアドレス教えてくれないの」
「先輩には、携帯の番号を教えてるでしょう」
「電話じゃなくて、メッセのが便利だと思わないの」
「電話のほうが早いですよ、部活、行きましょうか」
講義室を出て、俺は、今更気づいた。
「廊下から楽しそうな姿が見えたの、前の席まで近づいても、全然気づいてくれなかった」
先輩が教室にいたのに納得し、「すみません」と返す。
「メッセ、全然慣れてなくて、集中しないと出来ないんですよ」
「嘘、『リブファン』、すごいやりこんでるんでしょ」
「メッセと、ゲームは違いますよ」
「何で、チーム戦のとき、チャットしながらするんでしょ」
「何で、知ってるんですか」
「部内のことは、マネージャーとして、全部把握しておくようにしてるの」
「なるほど」と返し、俺は、いつも言っていることを返す。
「パソコンとスマホって、全然違いますから」
「まだ十代のくせに、浅野君て落ちついてるよね」
「ありがとうございます」と返すと、「嫌みだよ」と返される。
「まあ、部の活動に支障ない様だからいいけど、来月、本当に『リブファン』の大会出るの?」
「本当に、何でも知ってるんですね」
ふふんと、胸を張る先輩に、俺は知らないだろうことを言いたくなった。
「俺、今、『リブファン』を運営しているひとに、会ったことがあるんです」
「へえ、どんなひとなの」
俺は止まり、四年前、俺の前から居なくなってしまった彼女を思い返す。
小さな町で出会って、色々なことを教えてくれた。
野球しかなくて、なくなった俺を、別のもので満たしてくれた。
綺麗で、かわいくて、大人のお姉さんなのに恥ずかしがり屋で。
恋人を探して、悩んで、色んな決着をひとりでつけてしまった。
……四年前、俺は、彼女だけがいなくなった場所に戻った。
おじさんの言う通りに学校に行き、覚悟して家に帰った。
夕飯、テレビ、両親は何も言ってくることなく、ひとり部屋に居るとノックが聞こえた。
父さんが少しいいかと入って、謝る前に、ほめられた。
惚れた女を守るのが男だ、よくやった。
でも、おじさんに迷惑と心配をかけたことはちゃんと反省しろと言われた。
彼女を訴えるのか聞くと、もう、この町からいなくなったので意味がないだろうと。
お母さんは何も知らないから、絶対に言うなよと約束をさせられた。
次の日の放課後、『うさぎ書房』に向かうと休業の看板が出ていた。
アパートに向かうと、マスクをして、見るからに弱っている宇佐美さんが出てきた。
言われたものを買い物して戻り、言われるとおりにおかゆを作って、食べ終えたあとで宇佐美さんは教えてくれる。
神社の町長は、色々なところに顔が利く。
だから、町の人間は、困ったことがあったときに相談をしに行く。
それを、八年前、町に留まっていた彼女の探し人は知り、話を聞きに行った。
色々な話をし、空路で海外に行けないときはお金を払えば航路を都合することを聞いた。
そんな、都市伝説のような話に自然溢れる地形を気に入り。
舞台にしたネットゲームを作り、『リトルブレイブファンタジー』は大ヒットした。
なのに、会社から濡れ衣を着せられることを知り。
八年後、自分が作ったゲームの様に、神社の町長を頼ることになった。
一時、姿を隠し、会社の不正をしかるべき場所に報告し、『リブファン』の権利を持って外国に恋人と渡る。
当初は、そういう、正しいことをするだけの予定だった。
だが、長年、安い給料で酷使されていた恨みを晴らしたくなった。
自分の開発したゲームで稼いだ金を、好きな様に使い込んだ結果、会社の経営を立ち行かなくさせた。
自分に濡れ衣を着せようとした、上司を脅すことを思いつく。
奥さんの実家が資産家だと知っていた。
自分にしていたことを思えば、それぐらいしてもいいだろう。
恋人の、彼女に話を持ちかけたが、聞き入れてはくれなかった。
彼女からも姿を消し、偽の帳簿を持って。
自分を受け入れると返事をもらえた会社へ、海外へ行こうとしていた。
そこで、恨みを晴らした後、好きな仕事をして生きてく。
その予定は、宇佐美さんと、恋人だった彼女に壊されてしまった。
警察を呼ばれ、脅迫についてと、会社の不正について話を長くすることになった。
宇佐美さんは、彼女も、警察に連れられ行ってしまったと教えてくれた。
俺は、落ち込む間もなく、冬休み前から部に復活することにした。
園田と神崎、他の部員達と、以前より仲が深まったからか。
『あいつら』がいなくても夏の甲子園に出場し、二回戦まで進むことが出来た。
ありがたいことに、声をかけてもらって、都会の大学に行くことが決まり。
無事に卒業して、春休み、俺は入学祝いに買ってもらったスマホで知った。
『リブファン』が、制作会社を変えて復活していた。
制作者として顔を出しているひとが、美人だと有名になっていた。
彼女、一条桃子さんは、ネットのインタビューで語っていた。
【会社がなくなって、もう『リブファン』と関わることはないと思っていました。
でも、応援にはいけなかったけれど、知り合いの頑張っている姿を見て。
私も、何かしたいと思って、信頼し尊敬する先輩が作った『リブファン』を復活をさせたいと思ったんです。
頑張っている知り合いに、いつか会うとき、恥ずかしくない自分で居たいと思ったんです。】
都会の大学に進学し、慣れないひとり暮らしと厳しい練習のなか。
何度も、隣町の『リブファン』の会社に行こうかと思った。
でも、まだ俺は大人でない。
だから、やれることをして、待った。
……大人になって、彼女を、迎えに行ける様に。
「ちょっと、もしかして、その運営って女の人なの」
「……先輩、知ってるんですか」
「知らないけど、君、今、どんな顔してるか分かってないでしょ」
分かっていないけれど、両頬が熱いのに気づく。
俺は、「先行きます」と頭を下げて、小走りで急ぐ。
ふと見た、窓の先には冬の薄い空が広がり、彼女も見ているのかと思う。
来月、会えたなら、俺は決めている。
……彼女を、水曜日の放課後以外も、デートに誘うことを。
多分、にやついてるだろう俺は、気味が悪いだろうから足早に向かった。
END




