表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
27/33

第26話 デート六回目(もう、水曜日に会うのはやめよう)

 重い。

 何かが乗っているのか、何かに沈みこんでいるのか。

 全身が重くて、重い。

 両目は開かず、暗い闇のなかで聞こえてくる。

 小さな、小さな、泣き声が聞こえてくる。

 俺は、知っている声に、とても重い瞼を開いた。


「おお、やっと目覚めたな、俺の勝ちな」


「園田さん、よけたほうが……、あ、言うの遅くてすみません」


 首をしめている片腕を、園田が「ギブギブ」と叩いてくる。

 腹の上を見ると、子供の頃から飽きもせず、弟が毎週買ってくるまんが雑誌が乗っている。


「……まえ、元気そうじゃねえか、……って、おい!」


 園田から手を離すと、ふらつく頭が枕へ沈んだ。


「園田さん、元気そうじゃないので、出て行きましょうか」


「ああ、じゃあ、あとで行くわ」


 「はい」と、雑誌を両手に積んで、弟は俺の部屋を出ていく。


「日曜からずっとなんだろ、明日、水曜日なの分かってるか」


「……園田、うつるかもしれんから、出ていけよ」


「もしかして、お前、お姉さんとうつるようなことしたのかよ」


 ぎろりと、俺をにらむ園田に、上半身を起こせない。

 土曜日、うちに帰って、日曜の朝から続く熱のせいだ。


「……『リブファン』、やったぞ」


「明日、俺ひとりで、いや、お姉さん誘って行ってこようか」


「……ああ、頼む」


 そう返すと、園田に頬を軽く叩かれた。


「弱ってるからって、そんなこと言うんじゃねえよ」


「……傷つくの、確定なんだよ」


「お前、それでもって、言ってたじゃねえか」


「……自分が、無理なことさせようとするな」


「何、子供みてえなこと言ってんだ」


「……子供だよ、俺は」


 「お前」と園田が途中で止め、俺は頭から布団をかぶる。


「……分かってるよ、……でも、どうしたらいいんだよ」


 日曜日から、今日、火曜日まで三日間寝込んで。

 ほとんどをベッドの上で過ごし、眠る以外の時間。

 回らない頭のなか、そこまで深く考えていなかったことでいっぱいになっていた。

 

 ……俺は、彼女と、これからどうなっていくのか。


 最初から、恋人が居るのは分かっていた。

 途中から、恋人が見つかったら会えなくなるのが分かっていた。

 回りから、俺たちがどう見えるのか薄々は分かっていた。

 

 ……俺の彼女への気持ちは、これから、どうなってしまうのか。


「健太郎は、どうなっても、そばに居たいんだろ」


 俺の気持ちを園田が言い、その気持ちをどうしたらいいのか分からない。


「じゃあさ、それをさ、俺はどうなっても応援してやるよ」


 嬉しいけれど、無責任なことを言うなとも思う。

 そんな風に思ってしまう自分は最悪だ。

 園田は野球で例えていたけれど、全然違う。

 練習して、作戦を立てて、反省をして、それらをくり返していれば自分が思うものに近づくことが出来た。

 

 ……彼女とのことは、どうしても、どうにもならないだろう。


「お前さ、ひとりでぐるぐるしてんなよ、俺のこと頼れよ」


 園田の声に、狭くなった喉から小さく返す。


「……頼ってるよ、……ありがとう」


 園田が居なければ、もっと、俺はぐるぐるしていただろう。

 そこまでは言えないでいると、立ち上がり扉に向かう気配がした。


「もうさ、甲子園行けねえしさ、お姉さんさらってどっか行っちゃえば」


 「あほ」と返すと部屋から出て行き、少ししてまた入ってくる。

 布団から出て、「忘れ物か」と声をかけたのは、園田ではなかった。


「お姉さんて、おじさんの喫茶店に来てた、車の運転してたひとのこと?」


 制服姿のリンが真面目な顔で言い、扉を閉める。


「健太郎、答えてよ、どうしてあの女の人と会ってるの」


 ベッドのそばに立ったリンに見下ろされ、ああ、久しぶりだなと思う。

 小学校までは俺のほうが小さかったのだ。


「ねえ、答えてよ、どうして」


「リン、試合どうだったんだ」


 「勝った」と返され、「良かったな」と返すと、きっとにらまれた。


「健太郎、答えてよ!」


「俺が、そばに居たいからだよ」


 リンが口を閉じて、両目を大きくしている。

 俺は、もう一度、自分に言い聞かせるために言った。


「だから、もうどうなっても、そばに居たい」


 園田には言えなかった言葉を吐くと、リンが下を向いて言う。


「……そんなの、ダメでしょ、……あんな、いきなり現れたひとに」


 「リン」と名前を呼ぶと、ゆっくり顔が上がり、驚く。


「健太郎をとられて、……ずっと好きだった、……私は、どうしたらいいの」


 くしゃりと崩れている顔は、今にも泣き出しそうで。

 もう一度名前を呼ぶと、背中を向けて出て行った。


「兄ちゃん、モテモテでうらやましいよ、電話」


 ぼんやりと扉を見つめていると、弟が現れ、子機を渡された。


『もしもし、健太郎君?』


 びくりと、初めての電話越しの彼女の声に、全身が震えた。


『携帯電話、メッセージを送っても返事なくて、電話してもだったから』


「日曜日から寝込んでて、携帯を見てませんでした」


 焦って言葉を吐いてから、しまったと思う。


『ごめん、私のせい……』


「違います、あの、何か用でしたか」


『あ、うん、明日なんだけど、大丈夫だから』


「あ、もう、俺、大丈夫で……」


『教えてもらえたの、待ち合わせ場所、だからもう大丈夫なの』


 俺の言葉をさえぎり、彼女は珍しい早口で続けて、通話を切った。


『もう、水曜日に会うのはやめよう、今までありがとう』




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ