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第24話 デート五回目(初めての彼女の部屋2)

 サンドウィッチ、鍋の卵かゆ全部、ゼリー、りんごと柿をひとつづつ。

 驚く量を食べて、風邪薬を飲み歯を磨いてから。

 彼女は磨りガラスの扉の向こうで、静かな寝息を立て続けている。

 俺は、洗い物をしたあと、冷蔵庫に食材を入れて。

 何もすることなく、食卓に座ってぼんやりしている。

 少しだけ開けた、台所の窓の向こうから鳥の声を聞き。

 差し込んでくる光を見て、なんとかテーブルの上にあるものから意識をそらしている。

 いつでも出ていっていいと、眠る前に彼女は部屋の鍵を渡してくれ。

 テレビはないから自由に使っていいと貸してくれた。

 薄型のタブレットとイヤホン。

 ネットと、『リブファン』をしてもいいと言われた。

 使い方は分かるけれど、俺は、タブレットを手にしない。

 

 ……『リブファン』、彼女の、……恋人が作ったものに触れたくないのだ。


 そう思うのは、彼女の恋人を思うといらつくのを感じるのは、なんなんだろう。

 考えていると、ポケットが震えて部屋の外に出る。


『お前、今、綺麗なお姉さんの部屋に居るのか』


  「何で分かった」と返すと、耳元で、園田の叫び声が聞こえた。


『お前! 本当に! 上手くいってんならちゃんと話せよ!』


 廊下の手すりによっかかり、くわんくわんする耳で「何か用か」と聞く。


『お前から、今の状況話せよ! まさか、昨日から泊ってたわけじゃ……』


  「そんなわけないだろ」と、自分でも驚くぐらい、大きな声が出た。


「……頼まれて、看病をしに来てるだけだ」


『そうか、あ、そうだよ、俺、分かっちゃったんだよ!』


 弾んだ声に、なぜか、いらつく俺は「何が」と返す。


『水曜日、午後六時、永遠に八時を指す壊れた時計台の下』


 言葉に、もっといらつき、そんなこと分かっていないだろう園田が続ける。


『『リブファン』、序盤に出てくるんだよ、お前スマホじゃないから俺が代わりにやって……』


「頼んでないこと、するな」


『健太郎、お前、その言い草はないと思うぞ』


 変わった声色に、俺は口を閉じる。


『俺は、嫉妬で、よく相手を知ろうともしないお前の代わりに見つけてやったんだぞ』


 珍しい、本当に怒るときの、園田の声を黙って聞く。


『相手を知って作戦を立てないと、試合を制することは出来ないだろうが』


 「あほ」と、明るく変わった声に言われ、「すまん」と見えてないのに頭を下げる。


『まあ、俺も、お前みたいな状態なら『リブファン』するの無理だと思うわ』


「俺みたいなって、どういう……」


『野球に使ってたもの全部、お姉さんに使ってる状態だってこと自覚しろ』


 「そんなには」という言葉を返せなかった。

 少し考えたら、そのとおりだったからだ。


『例えて言うなら、お姉さんの探してるひとは、私立の装備もメンバーもばっちりそろってる都会の私立高校って感じじゃね』


「……例えが、分かりにくい」


『ほぼ毎年、甲子園に出場出来てる、後輩が先輩の言うこと素直に聞くチーム』


「……それは、すごくうらやましいな」


『うらやましくて、憎たらしいだろ、うちにはないものだからな』


 「ああ」と返すと、園田が小さく笑ってから言った。


『そういうのをさ、お前はお姉さんが探してるひとに感じてんの、嫉妬してんの』


 先ほども言われたが、やっと意味が分かった。


 ……彼女と居るとき感じる、もやもやして、いらつく、この気持ちは嫉妬だった。


「お姉さんは、俺と居ても、恋人と居るからな」


 思っていたことを口にすると、すっとした。


『まあ、そりゃ、都会からこんな小さな町に来るぐらいだから』


 「相当」と、とても小さく言ってくれた言葉に、俺も同意する。


「分かってるよ、俺なんか敵わないって」


『でもさ、そういうとき、お前はなんとかしてきただろ』


「野球と、一緒にすんなよ」


『仕方ねえだろ、俺、恋愛の経験って片想いしかねえもん』


「俺も、片想いだよ」


『健太郎のは、俺の遊びみたいなのとは違うぞ』


「何だそれ、よく知らんけど種類があるのか」


『あるんだよ、健太郎のは、俺はまだしたくない』


 「何だそれ」と返す前に、園田が真面目な声で言った。


『本当に好きだろ、それってすげえ怖いよ、健太郎はよく耐えられると思う』


 耐えられてないと思う。

 すごく怖いと、何で、こんな気持ちを抱えることになったのかと思う。


「すごいだろ、恋人いるひと好きになるって」


 まだ、強がりは言えるみたいで、ほっとした。

 最近、布団に入ると、考えるようになってしまった。

 

……俺は、俺の気持ちは、彼女にとって何なんだろう。


伝えていないので、分かってはいないだろう。

なのに、被害者の様に俺は考えてしまっている。

最悪だと、辛いならもう会わなければいいと、分かっているのに。

それは出来ず、少しでも役に立てるように振る舞うしかない。


『お前、今、どんな顔でそんな恥ずかしいセリフ吐いてんだよ』


 「あほ」と言われ、その通りの俺は、顔を歪めるしかない。


『話、それたけど、今日、見つけた場所なんだけどさ……』


「園田、俺、今『リブファン』出来るから、どこに出てくるか教えてくれないか」


 「大丈夫か」と聞かれ、俺は、「あほだからな」と返した。


「だから、もうどうなっても、そばに居たい」


 園田に「あほ」と返され、俺は「早く教えろ」と笑いながら返した。




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