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第18話 デート四回目(調べる3)

 じゃれあいながら家まで戻ると、一限目に遅刻ぎりぎりになった。

 久々に身体を動かしたので、午前中はほとんど居眠りをして昼休憩になり。

 作戦会議だと、購買部に寄ったあと空き教室へ園田と向かう。


「さすが、健太郎の弟、するどいこと言うな」


 みっつめのパンをほおばりながら、園田が言い、俺はひとつを半分残した。


「いらないならくれ、うーん、不吉な場所ってどこだろ」


 渡すと、園田は食べながら考える。

 俺は、椅子と机が重なって置かれているのを見つめ、考える。


【僕のことが忘れられないのなら、二ヶ月後に、僕の故郷を訪ねてきて下さい。

 水曜日、午後六時、永遠に八時を指す壊れた時計台の下。

 僕は君を待っています。】


 そう、もの覚えの悪い俺が、きちんと覚えている言葉。


 ……彼女の、恋人が残した言葉。


 確かに、不吉な場所を指すような気もする。


「とりあえず、時計台だな。健太郎、心当たりないか」

 

 首を横に振ると、「俺もないわ」と園田が言う。


「……駅、農協、……小学校、中学、高校、……うーん、中庭とかに、小さいのならあったような気はするけど」


 両目を閉じてうなる園田と、同じことを思った俺は言った。


「あったけど、壊れてなかっただろ」


 「あー」と、園田が言い、坊主頭を片手で抱える。


「永遠に八時を指す、壊れた時計台の下、……下って、どこだよ」


「……地面、……地面の下、……土の下」


「おい、墓場かよ」


 俺がつぶやいた言葉に、園田が顔色を変えて言う。


「まじかよ、……墓場って、時計台あったか」


 祖父の眠る場所を思い返し、「分からない」と返す。


「まじかよ、……じゃあ、行くしかねえのかよ」


 園田に「すまん」と言うと、「あーっ」と叫んで立ち上がる。


「俺、怖いのめちゃくちゃ嫌いなんだぞ、特別だからな」


 「すまん」と返すと、園田が両手で俺の頭をつかんだ。


「こんなに髪の毛伸ばして、色ボケしすぎだろが」


 ぐわんぐわんと左右に振ってから手を離す。

 まだスポーツ刈りくらいだと思う俺は、もう一度「すまん」と言った。

 昼休みが終わり、午後の授業も俺は寝て、放課後、園田と一緒に学校を出て向かう。


「……ここ、なんか、出るって噂なかったっけ」


 神社から少し先にある山の中、整備された霊園に着くと園田が聞いてきた。


「あったと思う、今、思い出す」


 「やめろよ」と、駐輪場から先に出た園田を追い、思い出す。


「雨の日、うしろからがさがさ音がしたら、振り向いたらいけない」


 隣に並ぶと、「やめろよ」と、園田が前を向いたまま言う。


「子供が好きなやつが、くわえて逃げていくから」


 墓石が並ぶ場所の入り口に立ち、園田が止まる。


「……それって、雨の日の、話だよ、な」


「ああ、死んだじいさんが、たまに俺に言ってた」


「……雨の日の、話だよ、な」


 「ああ」と、俺は、眩しい夕日を見上げて返す。


「……じゃあ、……何で、……うしろから音がすんだ?」


 園田が口を閉じ、言うとおり、がさがさと音が聞こえた。

 振り返ろうとしたと同時、がしりと首に太いものが巻かれ、聞こえた。


「なーに、こんなとこに男子高生がふたり、何の用事?」


 園田が言葉になっていない声を上げ、俺は知っている声に口を開く。


「宇佐美さん、お化けかと思いました」


「ひどーい!」と大きく言う、俺より大きな身体から離れる。


「園田、このひとは人間だ、うさ……」


 真っ白な顔で固まっている園田に説明をしようとしたら、また、片腕が首に巻き付く。


「園田君、私は漁港近くでバーを開いてるの、大人になったら来なさいよ」


 「じゃないと」と続けたあと、宇佐美さんはぶちゅっと俺の頬を食べた。


「真面目なはなし、どうして、こんなところにあんたたち居るの」


 俺を解放してくれ、がさがさの正体、花束を持つ宇佐美さんが俺たちを見下ろして言う。

 頭に包帯はなく、つるりとした頭は黒いキャップで隠され、真っ黒なサングラスにぴったりした黒いティシャツと黒いワークパンツと黒いブーツ。

 季節とか、この町に不似合いとかどうでもいい様に見える、宇佐美さんは「んっ?」と首を傾げる。


「宇佐美さんは、お墓参りですか」


「健太郎君、話をそらすの下手ねえ」


 ふふっと笑い、宇佐美さんはサングラスをとる。

 眉毛がなく、細い瞳を見て、園田は「ひっ」と小さく言った。


「園田君、君たちは、ここに何をしに来たのかな?」


「一条さんの、こい……捜している人との、待ち合わせ場所を探しにきました」


 俺が代わりに答えると、「ふーん」と、宇佐美さんはサングラスのつるを噛んで言う。


「それ、桃子ちゃんが頼んできたの? 違うわよね?」


「はい、俺が、一条さんの役に立ちたくて探してます」


「そう、桃子ちゃん、なかなか罪な女ねえ」


 「私ほどじゃないけど」と、宇佐美さんは大きく息を吐いてから言う。

「初恋は叶わないのが古来からのセオリーよ、なぐさめて欲しくなったら、お昼でも夜でも待ってるわね」

 ばちんと片目を閉じ、俺が口を開く前に続ける。


「ほらほら、こんなところに居たら怖いおかまじゃなくて、お化けが来るわよ」


 「さっさと、お家に帰りなさい」と俺の横を通り、


「桃子ちゃんに、本屋のお店番頼んでるから、水曜日以外にも遊びに来たら?」


 そう、小さく言って、ふふっと墓石のなかへと進んでいった。



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