表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
貴女に永遠の愛を 《 改訂版 》  作者: aki
序章   勇者 《 ヤエ・トゥノ 》
3/20

 八重が勇者になることを承諾する前に、あるべき世界へ彼女を戻す―――という当初のもくろみは彼女との出会いによってあっさりと撤回され、以後、エヴァは彼女をこの世界に引きとめるべく策略を巡らすことになった。


 父王をはじめとする重臣、そして母や姉たちに自分の本性を決して八重に知られないようにしてほしいと脅し半分で要求し、六歳児の無邪気さを全開にして彼女に纏わりつき続けた。


 これに対して三人姉弟の長子でもある八重は、実の弟など足元にも及ばないほど可愛らしく素直なエヴァにメロメロになり、どれほど彼が纏わりついても、『エヴァって、本当に可愛いね』と過多なスキンシップを容認してくれたので、彼の行為がエスカレートし続けたのは公然の秘密である。


 初めて彼女に抱きついた時、頬に当たった胸の感触に驚き、彼女が十も年上の十六歳だと知った時は驚愕したが、その程度で引くエヴァではない。


 なぜなら八重は一目見た瞬間に、“愛と命を捧げる”に値すると認めた女性なのだ。


 子どもの頃の十歳差は大きいが、大人になればたいした年齢差ではないと自己完結して、その後は彼女の傍にあり続けた。


『ヤエ、大好き』

『いつも一緒にいたいよ』

『大きくなったら僕のお嫁さんになって』


 ありとあらゆる口説き文句を並べ立て、自分の本気を伝えた。


 そんなエヴァの申し出に、八重は無視をすることなく、


『私もエヴァが大、大、大好きだよ』

『うんうん。私もエヴァと一緒にいたいよ(子犬みたいで可愛いもん)』

『お嫁さんって年離れすぎてるでしょ~。でも、うーん、そうねぇ…エヴァがこの国の男性平均結婚年齢過ぎてもそう思ってくれていたらなってあげてもいいわよ? あ、でもその頃には私、完璧おばさんだわ。ってことは、エヴァが成長するのを待たず結婚しちゃってるかも』


 などと嬉しくもあり、恐ろしくもある答えを返してくれた。


 さすがに自分以外の男と結婚しているかも、と言われた時には心臓が止まるかと思ったが、そこは『僕以外のお婿さんなんてヤダー』と泣き落としで前言を撤回してもらった。


 とにかく勇者となるか否かを決める半年間、八重なりに葛藤はあったようだが、最終的に彼女はエヴァのために(八重に言わせればこの世界のために)勇者になる決断を下し、打倒魔王を自らの合言葉に変えて、魔力を自在に使いこなすための訓練を開始したのである。


 魔王を倒す勇者が召喚されたことは魔王にも知れ、八重に対しても刺客が送られるようになっていたが、召喚後七か月目に訓練の一環で八重が城の周囲に張った刺客よけの結界の威力はすさまじく、ファーノ王家の人間を狙うすべての刺客は結界を超えることはできなかった。


 そして彼女がこの世界に召喚されて四年目。


 この頃になると王城内における八重の立場は、本人が知らないうちに“勇者”から“未来の王太子妃”に変わっていたのだが、それに全く気づいていなかった八重は魔力を完璧に使いこなせるようになったことを確信すると、当初の目的通り『魔王打倒の時来たれり』と一人悦に入り、誰にも告げることなく勇者の従者(側近)に指名されていたモレノら六名の魔道兵士たちを連れ、魔王の住むアラーニャ王国へと旅立ってしまったのである。


 彼女が旅立った翌日、そのことを知ったエヴァがショックのあまり数分間、直立不動のまま意識を飛ばしてしまったことはまた別の話になるのだが。






 エヴァの本気の恋心を、子どもの戯言としか受け取っていなかった八重が家出同然で城を飛び出し、魔王を倒したという思念波が響き渡ったのち、世界中の反魔王派の国々で歓喜の声が上がった。


 だが世界にただ一か所、歓喜の声を表だってあげられない場所があった。


 言わずと知れたファーノ王国の王太子宮である。


 もともと八重は魔王を倒すために召喚された存在だ。目的を達したならば、あるべき世界へ帰ることを望むのは目に見えていたし、それに異を唱える資格は誰にもない。


 問題なのは、最強(現在封印中)の魔力を持つであろう王太子(エヴァンジェリスタ)が出会った瞬間に八重を生涯の伴侶にすると自己決定してしまった、という点だ。


 八重の前では全身をすっぽり覆いかくすほどの猫を被って年相応の子どもらしく振舞っているが、十歳になったエヴァはいまや父王すら圧倒するほどに完璧な少年に成長してしまっていたのである。


 そんな彼の大切な女性が異世界へ還ってしまう―――考えるだけで誰もが背筋が凍るほどの恐怖を感じた。


 このままファーノ王国へ残ってくれれば、何も問題はない。


 しかし八重はエヴァ以外の人々が見る限り、彼の言葉を本気で受け止めているようには見えないのだ。

 彼女にとってエヴァは年の離れた可愛い弟。

 エヴァが毎日告げてきた『結婚してね』という言葉は、幼い弟が優しい姉を慕って、その意味もわからず口走っている通過儀礼のようなものとしか思っていない。


 他人事であれば、『あれはただの社交辞令だ。本気にするなど愚かな奴だな』と辛辣な台詞を口にするはずのエヴァだが、私事になるとそうは思えないらしい。


『僕と結婚してね』

『いいわよ、大人になったらね』


 というやり取りを本気にしているのは、間違いない。


 なぜなら、三年前エヴァ自身が御前会議に顔を出し、その場で八重を“勇者”ではなく“未来の王太子妃となる女性”として扱うようにと指示したのだから。


 しかし、しかしである。

 どう考えても、彼女がここに残るとはエヴァ以外は誰も思えなかった。 


 この先、何が起こるのか?


 ウィート王をはじめとする重臣たちは魔王が世界を恐怖させていた時同様―――いや、それ以上の不安を感じずにはいられなかった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ