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それから半月後、王と重臣たちを不安にさせる元凶ともいえる八重が王都に戻ってきた。
彼女は民衆の大歓声に迎えられ、まさに英雄として戻ってきたのである。
そんな八重が王都に戻って真っ先に向かったのは、言わずと知れた国王ウィートのもとだった。
そしてエヴァ以外の人々が予想していた通り、
「魔王を倒しましたよ。ついでに奴の息が掛かっていた連中もこれでもかというほどけちょんけちょんにして、二度と悪事に手を染められないようにしてきました。なので、約束通り日本へ送り返してくれますよね?」
という爆弾が投下されたのだ。
やはりそうきたか! と謁見の間にいた誰もが表情はそのままに、冷や汗を背中に流しながら心の中で思う。
だが約束は約束。
しかも王の名にかけて彼女の意思を優先すると約束した手前、否とはいえない。
「そうか…やはりニッポンに戻ることを選ぶか。それがヤエの意志であれば仕方がない。一両日中に送還の儀を行えるように取り計らうと約束しよう。……ところで一つ頼みがあるのだが聞いてはもらえないだろうか?」
「難しいことでなければいいですよ」
「ああ―――難しくは……ない、と思う。うむ…おそらく、大丈夫…だ」
八重の耳にはっきりしない言葉が飛び込んでくる。
「なんですか、そのはっきりしない物言いは。そんなんじゃ、何も聞かずにこのまま回れ右したくなるじゃありませんか」
一国の王に対するにはあまりに横柄な台詞だが、異世界人である八重がウィートを崇める必要はない。そのことについては、この世界に召喚されて間もない時にウィート本人から許可を得ていた。
「それは困る! では単刀直入に言おう。そなたがニッポンに帰ることは、ギリギリまでエヴァンジェリスタには黙っていてほしいのだ」
「……は?」
何か深刻な頼み事でもあるのかと肩を張っていた八重は、虚を突かれたように呆ける。
「いや、だからだな。そなたがニッポンに帰るとなると、エヴァンジェリスタは絶対に反対するだろう。いや、それよりも、眠ることなくそなたに張り付いて『帰らないで~』と叫んで泣き続けるやもしれぬ。そうなった場合、ヤエはエヴァンジェリスタを振りほどけるのか?」
「………」
ウィートの指摘に言葉をなくす八重。
「父である私が言うのもなんだが、アレは本当にそなたのことを誰よりも慕っておる。そなたの心の片隅に、ほんの僅かでもここに残ってもいいという気持ちがあるのなら最悪の事態も想定した上で話してもよいと思う。だが絶対に戻りたいのであれば…」
「はいっ、言いません! エヴァのことは本当に可愛いと思ってるし、大好きですよ。お別れするときは絶対に泣いちゃうくらい悲しいと思いますけど、それでも私は絶対に家に帰りたいんです。エヴァには悪いけど、これだけは譲れません。王様の言う通り、ギリギリ隠し通せる時まで隠し通します。だから一秒でも早く私を家に帰して!」
家に帰りたい―――それが八重の揺るがぬ願いだった。
「わかった」
そう言ってウィートは立ち上がり、その場にいた人々をぐるりと見回した。
「聞いての通りだ。勇者送還の儀を執り行う件については箝口令を敷くものとする。よいな」
ウィートが言い終わった次の瞬間、ヤエと王妃を除くすべての者たちが一斉に腰を折り、服従の意を表したのだった。
そして迎えた送還の儀、当日。
早朝から城内に第一級魔道士たちが集められ、重々しい空気が立ち込め始めていた。
箝口令が敷かれているとはいえ、普段滅多なことではお目にかかることのない第一級魔道士がウジョウジョ城内を闊歩しているのである。
まともな思考力の持ち主であれば、それが何を意味するのかは漠然とではあっても想像できた。
『あり得ない、そんなこと、あり得ない!』
ようやく手の届くところに最愛の人が帰ってきてくれたというのにこれはどういうことだ、とエヴァは愕然とする。
昨日、父王との謁見を済ませて彼のもとに顔を出してくれたヤエはアラーニャ王国に出立する前と何ら変わったところは見受けられなかった。
久しぶりの再会に感極まって、彼女に正面から抱きつけば抱きしめ返して頭も撫でてくれたし、久しぶりに告げた愛の告白にも普段と変わらぬ返答が返ってきたはずだ。
ヤエは自分の傍にずっといてくれるはずなのに、この展開はどういうことだ?
これはどう考えても……
「ヤエはどこにいる?」
ある可能性に考えが及んだエヴァはハッとして後ろを振り返ると、王太子付き侍従に冷たい声で問うたが、エヴァの傍に常に控えている侍従が彼女の所在を知るはずもなく、期待通りの返答は得られなかった。
軽く舌打ちしつつエヴァは侍従に背を向けると、「父上のもとへ行くぞ!」と怒鳴るように告げて、駆けだした。




