セシリスの婚活状況
出版を知人に知らせる際、「どんな女性が苦手?」と訊いてみた結果を詰め込みました。
皆さん、色々思うところがあって興味深かったです。
「セシリス様、クラリスからも少し聞いたけど、その後婚活はいかが?」
我が家のサロン、お母様が趣向を凝らしたご自慢の一角で、エステル様が優雅にティーカップを持ち上げて尋ねる。
隣のお姉様を窺うが、我関せずとばかりにこちらを見ない。
これは、自分の好きに話していいと言うことね!
「目星は付けました!成績優秀で品行方正、容姿は可愛い系ですが伸びしろありです!ただいま絶賛仲良くなる計画遂行中です!」
「赤裸々過ぎるわセシリス!」
お姉様に怒られた。
ご自分が『好きに話していい』と示されたのに。
不満の意を表すと、エステル様がクスクスと笑う。
「順調なら良かったわ。でも、こう言っちゃなんだけど、よく好条件の方が残ってたわね?」
不思議そうに言われたが、疑問に思うのはわかる。
なにせ、エステル様と初めてお会いした頃も、殿方がどんどん婚約をしてしまう!と私が嘆いていたのだ。
だがしかし!今回は条件が違う!
「残ったのではなく、現れたのです!それまで婚約対象範囲として見做されていなかった方が、成長して婚活市場に登場してきたのですわ!」
私はドヤ!としていたが、お姉様とエステル様は目で何かを伝え合っていた。
「……対象範囲外、と言うのは能力?身分?それとも」
「年齢ですわエステル様!と言っても、婚約対象範囲内ではあったのですけど、幼すぎたのです。それが成長期を迎え、夫候補として立派に立てるようになりましたの!」
「……クラリス、年下ってありなの?」
「……別に年上か同級生に拘っていた訳ではないわ。相手の方が年上のセシリスでも良いと仰ってくださるなら……?」
何か心配されてますわね、お二方。
でもご安心ください!
「大丈夫ですわお姉様!『人の能力に年齢は関係ないですよね』と、リヒト様が仰ってましたもの」
自慢の友達ーーまだ友達だーーの名言を披露することが、誇らしく感じる。
私の自慢気な顔に、お二人はクスッと笑った。
「まあ、真理ですわね。セシリス様より年下でいらっしゃるのに、しっかりなさってること」
「はい!リヒト様はとてもしっかりした方です!」
「リヒト様、と言うのね。どこのおうちの方?」
笑ってくださった二人を安心させるように、私は言い切る。
「ワルロー子爵令息です!リヒト・ワルロー様は、以前お世話になったアサト様の弟さんです!」
お姉様とエステル様は、それは見事にビシィっ!と固まった。
◇◇◇◇◇◇◇
私、子爵令嬢:セシリス・ムーサルクは、半年前に訳あって婚約破棄した。
原因は相手の不貞ーーではなく、能力不足だ。
私は次女だが、将来お母様の実家である男爵家を継ぐことになっている。
なので、一緒に家を盛り立ててくれる婿として選んだのだったが……優先事項のわからない男だったのだ。
婚約者である私を放っておいてまで幼馴染の見舞いを優先するなんて、どうかしてる。
結局仮病だったし。
長らくそのままの状態だったのが、お姉様の仕事仲間であるエステル様が、私の状況を聞きつけて乗り込んできた。
と言うか、一緒にお見舞い現場へ乗り込んだ。
結果、令嬢の仮病と婚約者の欺瞞を詳らかにし、晴れて婚約破棄となった。
その後、お母様やお姉様が私の好みを反映した婿候補を探してくれたけど、今ひとつ条件が当て嵌まらず苦戦した。
私も学園内でそれとなく調査したが、やはり好条件の男性には皆婚約者がいる。
ガックリしているところに声を掛けてきたのが、2個下で同じ経営学を学ぶリヒト様、と言う訳だ。
「…………わる、ろー、って言った?」
「はい」
「ワルロー様の、弟さん?」
「はい!」
「「腹黒じゃないの!」」
二人の声が揃う。すごいわ、息ピッタリ!
叫んでからはた、と気付いたらしい。
「待って、弟と言っても腹黒とは限らないのでは?」
「いえ、本人が『僕は兄に似て腹黒ですよ』と言ってました」
「「やっぱり!」」
「でも、優しいですよ?」
「そうゆうものなのよセシリス様……」
「そうなんですか?」
「でも、セシリスに優しければいいのかしら……?」
「まあ、セシリス様はね……。クラリス、このままだとワルロー様と縁戚になるわね」
「…………!」
お姉様は引き攣った顔になる。
「お姉様?お嫌なの?」
「いえ……そんなに警戒することはないはずなのに、なんでか体が強張るわ……」
「なんでかしら。アサト様は怖い方なの?」
「ある意味ね……」
一度だけお見掛けした時は、頼りになる青年と言う印象だったのだけど。
リヒト様に聞いてみた方が良いかしら?
でも、あまり他の殿方のお話は好まれないのよね。
お姉様はひとつ咳払いをした。
「とにかく。条件としては悪くないわね。もちろん調査はするけれど、セシリスとワルロー令息がふたりで納得するなら反対はしないわ」
「ありがとうございます、お姉様!」
声が跳ね上がってしまう。
これで話を進められるわ。なにしろ、リヒト様は急にカッコよくなられているので、他の令嬢からも声を掛けられ始めているのだ。
「まぁ、ワルロー様の弟なら能力に心配はいらないわよね。能力には」
エステル様がしみじみと仰るけど、何か含みがあるような?
「エステル様?」
「何でもないのよセシリス様。では、リヒト様?に対象を絞られるのね。セシリス様の対象は良いとして、逆に玉の輿狙いの令息に声を掛けられることはない?」
玉の輿。確かに、嫡男ではない令息からしたら男爵家を継ぐ私の伴侶になることは、玉の輿になるだろう。
「婚約破棄後には何人か声を掛けてきましたが、リヒト様と交流を持つようになってからは、パタッと止みました」
「……そう」
「そうなの……」
「ただ、変わった令嬢には声を掛けられるようになりました」
「「ん?」」
お姉様とエステル様が、揃って首を傾げる。
私はわかりやすく伝わることを心掛けて、話を続ける。
「ひとつ上の先輩なのですけど。『私は令嬢の味方だから!なんでも頼って!』と主張して、構ってくる方がいらっしゃるのです」
◇◇◇◇◇◇◇◇
「アサト兄様。珍しいですね、こちらに寄られるなんて。ターレス嬢と喧嘩しました?」
「顔見るなり可愛くないことを言うなリヒト。後悔しても知らないぞ?」
「後悔?僕がですか?」
「セシリス・ムーサルク嬢」
「?!」
「後悔するか?」
「兄様、ようこそいらっしゃいました。僕の部屋でゆっくりお話ししませんか?」
「……お前の掌返し、お兄様は割と好きだよ……」
「さぁ、ちゃっちゃとお話しください!セシリス嬢がどうされました??」
「そこも掌返しか……いや、今日会ってきたんだ」
「はあ?婚約者のいらっしゃる身分で、何をなさっているのです?ターレス嬢に密告しますよ」
「だから!お前、情緒大丈夫か?!ふたりきりで会ってた訳無いだろう?シャーロットもクラリス嬢もいたよ!」
「アサト兄様、落ち着いてください。話がわかりません」
「お前のせいだよ……」
「何をどうして、セシリス嬢とお会いすることになったんです?」
「はぁ……本当にマイペースだなお前は。シャーロットとクラリス嬢と、彼女らの同僚に頼まれたんだ。内容は秘匿だが、可愛い弟のためにひとつだけ漏らしてやる。セシリス嬢の今の婚約は、十中八九破棄されるぞ」
「〜〜〜〜〜!よっしゃあ!兄貴よくやった!」
「だから、お前はもう……」
「あ、可愛く言った方が良いですか?アサトお兄様、ありがとうございます!僕、本当に嬉しいです!」
「兄にシナを作るな気色悪い!これ隠しておいて万が一誰かに抜け駆けされたら、お前俺を一生恨み続けるだろう?!だからだよ!」
「当たり前じゃないですか!そんなことになったら、何がなんでも兄上とターレス嬢を破局させます!なんならそのままターレス嬢に次の縁を繋ぎます!」
「やめろ!13歳が兄の破局を計画するな!」
「よし、父上と母上には言ってあるし!調査は完了してますので、セシリス嬢に近付くプランを選定しなければ!忙しくなりますよ兄様!」
「待て!忙しくなるのはお前だろう?お前だけだよな?!」
「え、アサト兄様、可愛い弟の恋に協力は当たり前では?」
「自分で可愛いとか言うな!一人で出来るだろ?お前なら!」
「まあ出来ますけど。アサト兄様、この機会に僕に恩を売っておいた方がよろしくないですか?」
「それを自分で言うか?!お前本当に13歳か!?」
「何を今更。僕をずっと見守ってくださったのは、兄様達じゃないですか」
「13年見てきたけど、未だに謎だよ……」




