冬将軍
「むむむ、どうするか」
エリザ団長は占拠したエルフビレー砦の一等客室、現臨時執務室内で悩んでいた。
予定どおり10月が終わる前にビレー砦を占拠した。
我が軍団1万名のうち2000名が今ここにいて、残りは新要塞に待機している。
ビレー砦を足掛かりに軍団をエルフのガルマニア帝国東部のフリードベルグに進める予定だ。
フリードベルクは二十ある小さな貴族領の一つで、我々エルゼ国から見てアルドー山脈を越えたすぐの領地だ。
え?何?今回の作戦にガルマニア進攻は書いてないだろって?馬鹿かお前たちは。我が軍師を半年間ガトー砦にこもらせてこんな小さな砦ひとつなわけないだろ。
エルゼ国家保安長官との密談で、先のエルフ戦で降伏したサルマト長官。中央政府に恨みを持つ彼を利用し、占領地にサルマトを君主とした傀儡政権の国家樹立を決定した。
情報漏えいを嫌う国家保安局の意向は無視できず、我が軍師にはこの件を昨夜説明した。
いきなりの展開に少し怒っていたな。
ほんとすまないと思っている。
新要塞に残る兵を全てここに呼び、一万名の軍団を持って、早ければ11月内に山脈を通過、12月頃にはフリードベルク近郊に進出、占領を目指すはずだったが、、、
ピュオオオオオオオォォォォ
だかなぁー、予想以上に早く雪が降るなんて聞いてないよぉぉぉーー。
そう、12月に初雪が降るはずのアルドー山脈ではいつもより早い初雪が観測されていた。
コンコンコン、入ってイイゾー
「失礼しますエリザ団長」
「やっと来たか5分遅刻だ」
「すみません気をつけます」
「我が軍師よ外の天気を見てどう思う??」
「この天気で進軍すれば全て失いますよ」
「だよなぁぁ。どーしよう。」
冬に行う強硬な進軍ほど危険なものはない。
ナポレオンやドイツ軍のロシア遠征、日本のシベリア遠征や八甲田山事件など。冬を舐めていると多くの人的被害が出た過去の出来事は沢山ある。
ましてや、アルドー山脈の初雪はしょっぱなからブリザード級なのが有名。
この世界ではちょうど200年前の12月、当時のエルゼ国王が初雪の降る中ガルマニア遠征を実施し、ここアルドー山脈で五万の兵とともに凍死した前例がある。
急激な気温低下がおこる12月上旬の最低平均気温が-25度とか無理でしょ。真夏の業務用冷蔵庫でも死ぬレベルだぞ。
賢者は歴史に学ぶか、偉大な軍人の言葉だ。
作戦は一時中断され、来年の雪解け(3月後半)を目処に侵攻を行うことに決まった。
~ 翌日 ~
「マジでありますか。」
「あぁ、まじでありますよ。」
この雪の中、進軍を強行するのは自殺行為だということは誰にでもわかる。確かに、200年前の遠征と比べれば冬季装備の防寒性能は向上しているのだろうが、、、
エリザ団長の表情から察するに、おそらく昨日の夕方に届いた手紙が原因。大方政治家や貴族連中が吹っ掛けてきたのだろう。
最悪エリザ団長が揚げ足取りどもの策略で失脚したら、我々の立場も失くなり、何処かの部署に吸収された末の権限剥奪もありうる。
「わかりました、やります。一か八かの賭けになる可能性もありますが御了承下さい。」
「すまない、お願いする。」
こうして、軍団のガルマニアへの冬季侵攻が決定した、、、。
この時、要塞に残っていた軍団はすでにここを目指し出発していた。荷物は馬車に詰め、隊員たちは軽装で長距離マラソン。スピード重視の大移動だ。
工兵隊はビレー砦近辺の松や白樺など、油を多く含みよく燃える木々を伐採、大量の薪の調達を開始。冬季遠征への備えを急ピッチで行う。
ユーキの日記帳
11月1日、軍団の到着は早くて5日後、山越えに多く見積もって2週間弱。我、急激な気温低下前の11月内山脈通過を目指す。
それから3日後の昼過ぎ、軍団が到着した。
ほんと体力自慢を多く採用しただけはある。
予想より早い到着で、予想通り脱落者も出たが隊員数は全て足して9800名か。
よしよし、問題はないな。
「諸君!よくここまで来てくれた!団長のかわりに礼をする!山越えは明日の早朝から開始する!ゆっくり休め!」
隊員たちは一時の休みに入った。ビレー渓谷は火山帯に属しており温泉が沸いている。兵たちは温泉に浸かり、疲れを癒した。
夕方には工兵隊の視察に出ていたエリザ団長が執務室に戻り俺は軍団の到着を報告した。
「報告します!軍団が到着、現在は休息を取らせております!」
「ふむ、ご苦労。では我々も今日はこれで終了とするか」
「では、我々も温泉につかりにいきますか、エリザ団長」
「破廉恥な!断る!」
破廉恥って、別に男同士背中流すくらいいいじゃん。
~翌日の早朝~
パーパパパーパパパーッッ!!
ラッパの合図で進軍開始。
比較的緩やかな山道を縦二列で進む。やはり、大砲以外の臼砲を造らせておいて正解だった。先日までの雪が半分解け、泥で道がぬかるんでいた。
大砲なんか持ってきてたら、タイヤが泥にはまって動けなくなっていただろう。
山を越えるごとに、開けた土地で食事、休息を取った。
ヒャッハぁぁぁ!!!
こっちだ!敵陣をおとせぇぇ!
行進が止まると手すきの兵たちは雪合戦を始める。まぁ、飽きもせず毎度毎度。あいつらどんだけ体力あるんだよ。
道中五メートル近いブラットベアーが出現、6名負傷するも改良した手のひらサイズの炸裂弾で撃退に成功した。
アルドー山脈の四分の三を通過し、エルフのガルマニア帝国との国境線が近づいてきた。
ここからが本当の地獄の始まりだった。
「寒い、、、雪がァアヒャヒャヒャ!!」
「気をしっかり持て!早く最後の山を越えるぞ!」
ユーキの日記帳
11月中旬にも関わらず、12月なみの寒波が到来。あまりの過酷さに発狂する兵士多数。
「な!なんだこれは!!!」我々の前には地図にない深い谷が出現。今登ってきた山を下り、迂回しなければならない。
「天は我々を見放した??」
大雪で視界が2メートル先も見えない。
幸いアルドー山脈出身の兵が何名かいたため、その土地感を頼りに道なき道を進んだ。
「団長!しっかりしてください!」
ユーキの日記帳
最後の山を迂回開始。
団長エリザ発熱、かぜ症状。
日中気温-15度、水筒の水、肉や穀物凍る。
隊員数は9800名から8000名まで減少し、砲兵隊に人的被害はないが、臼砲一門を崖したに落とし喪失。臼砲は残り一九門。
テント内の気温は砲兵隊の薪で温かくすることができたが、薪も残りあとわずか。
近くの木を切り出したはいいものの、生木で火が弱まってしまう。
「うぅぅ、、、苦しいもう帰りたい」
エリザ団長が珍しく弱音を吐いた。
俺は、エリザの寝袋に入り温めた。
「お父さん、、」
うなされているエリザを抱き締めた。
あったかい、俺も眠くなってきたな、、、
「おい!朝だボケナス!早く起きろ!」
日の出前、エリザ団長は起床していた。
耳と顔がまだ赤い。まだ熱があるのだろう。
「まだ休まれてた方がいいのでは?」
「う、うるひゃい!指揮を取らねばアツッッ!」
エリザ団長は沸いたヤカンを素手で掴んで悶絶した。
「ほら、まだ空間把握ができるほど回復してないじゃないですか。」
隊員たちが起床すると最後の峠道を進む準備を開始させた。俺は隊員に命じ、エリザ団長を担架で運ばせた。
さぁ、アルドー山脈最後の道のりだ!
進軍開始から16日目の昼
山脈を越えたゾォぉ!
うぉぉぉぉおおお!
あれがフリードベルクだぁぁあ!!
我々は冬のアルドー山脈をこえた。
兵力は軍団兵8000名、砲兵500名の8500名。
俺とエリゼ団長を含む将官級10名とその他冬国出身の荷物運びの行商人たちだ。
臼砲を3門峠道で落としたのは痛手だが残り17門あるから問題はない。
エリゼ団長は回復し、なぜかいつもより
元気(?)そうだった。
今いる小高い山の中腹から、ガルマニア帝国最東端の小都市フリードベルクが見える。
「みなよくやった!臨時の配給を行う!」
団長の号令で肉と酒が配給された。
火の使用は敵に位置を悟られるため、極力控えることになったが、やはり暖かい肉入りのスープは堪らない。
「これより、脱落した戦友たちに黙祷を行う。黙祷、、、」
食事前に団長が一本のワインを撒き、黙祷を行った。
わはははははは!飲め飲め!!
酒が振る舞われた事で、軍隊恒例のバカ騒ぎが所々で始まった。団長はこれを黙認。
聞けば捕虜のエルフからの情報で、神聖な山への立ち入りは11月ごろから禁止されるそう。多少のハメをはずして大声出してもバレなければいいのだ。
11月の入山禁止か、どこの世界もそー言うのあるんだなぁ。おそらく冬山での遭難防止を意図したものだろう。だが、そんな甘い想像はすぐにかき消された。
バキッ!バキバキバキ!!
グオオオオオー!!!
「うわぁああ!!!」
「ほ!報告します!ブラッティベアーの群れです!数は10!!」
(くそ!立ち入り禁止はこれが理由か!)
爆弾の使用や発砲は位置バレする!
だが、これ以上兵隊の数を減らすわけには?!
手榴弾の導火線に火をつけようとしたその時
ブ!フグッッオオオオオオオ!!!
(ブラッティベアが逃げていく??)
「うっ、クッさ!」
ブラッティベアーが逃げた原因。
それは、エリゼ団長の持つ瓶から漂う強烈なアンモニア臭だ!
「だ!団長!今すぐ蓋を!何ですかそれ!」
鼻がもげそうだ。人間でこれなら犬の300倍の嗅覚を持つ異世界の熊公どもには毒ガス兵器レベルだな。
聞けば、フェンリルの小便を煮詰めた貴重な魔獣避けだそうだ。
「ふふふ、いいだろー特注品だぞ!」フフン
(この人を知らない人が見たら、犬のションベン誇らしげに持ってる顔だけは良いヤバイやつだな)
何はともあれ、Aランク級の驚異を退けることに成功した。陣地のまわりには薄めたフェンリルのオシッコを浸した綿を巻き、夜営の準備が進められた。
俺は捕虜のエルフたちから得た地図をもとに、進攻ルートを再確認した。都市は正方形で周囲に城壁や堀はない。これは過去に山を越えた軍団による軍事侵略を受けたことがないからだろう。
「だが、あれは何だ??陸上に船?」
「あれは魔道戦艦ですよ。」
「あ、あなたは!!」
そこには遅れて到着したエルフのサルマト元長官の姿があった。周囲をエルゼの保安局員20名で固められ、暗殺と逃亡を防いでいた。
「あの時は、応急処置をしていただき。今回はわたくしの復讐にも協力をしていただき、何と感謝を申し上げれば」
「そんな、畏まらないでください。それで、魔道戦艦とは、、、」
サルマト元長官の説明によると、ガルマニア帝国にいる10人の強力な魔道師のみが操れる空飛ぶ戦艦。建造されたのは現段階で10隻。
南の精霊たちの国から技術支援を受け10年前から運用を開始。前回臨時要塞で戦ったエルフの大軍たちは途中まであれに乗り、山脈を越えてきたとのことだ。
空飛ぶ戦艦の存在は重要機密のため、ドワーフの国や人類はおろか、同盟国の国民もその存在を知りません。
(なるほど、だから前回の戦闘でも直接投入はなかったわけか。それにガルマニア帝国の東側は山脈に囲まれ陸の孤島、鎖国状態だから情報も出ないと)
(にしても恨みって恐いなぁー。)
背後で自分を裏切ったエルフの宰相を呪うサルマト氏が何かブツブツ唱えていた。
さーて、どうしたもんか。町の占領が最優先事項だが、魔道戦艦の存在がなぁ。空から攻撃されるのは厄介だし、あの規模の戦艦を臼砲で破壊するのは無理だし。
だからと言って、そのまま放置って訳にいかない。
「破壊できないなら、燃やせばいいじゃない!」
「エリゼ団長、そんなパンがなければお菓子食えばいいじゃん的なノリで言われて困る。あの船体は木造だがそう簡単には燃えないだろう。」
軍艦の事はひとまず保留にして、俺は都市制圧の準備に取り掛かる事にした。




