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黄金の夜明け

「なるほど、報告ご苦労。下がっていいぞ」

「ハッ!」


エリカの報告によると、サルマトとその他30名の死亡を確認。生存者は科学者二名が奇跡的に生存するも重症。新型爆弾は回収されたが、中身のコアが行方不明。


死亡したサルマト氏の近くには、特徴的な白い龍の刺青が入った神官が死んでいたとのこと。


「そう言えば、最近の報告にも上がっていたな」

「ええ、神話崇拝者たちのですよね」


西の帝国と東エルフ共和国は水と油の関係だが、東エルフの国民の大半はエルフ種。今でこそ勢力が衰えているものの、いまだに神話信仰者はいる。

古代聖書の神話時代の生物、特に白龍を信仰する教団。


「アヴェスター教団か」

「ええ、こちらを」


昨日、就任式を終えたビーゴ宰相がユーキに

一枚の葉書を渡した。


「稲妻に巨木、目が描かれているな」

「これは、一週間前に故サルマト氏に宛て教団から送られたものです。おそらく、神話時代の目覚めを宣言したものかと」


ビーゴ宰相によると、彼らの聖書には人類とエルフとの間で最終戦争が始まると、魔力の雷で大地を揺るがし、その号令を聞いた神話時代の神が順に目覚め、世界を浄化するのだとか。


「つまり、あの大爆発が意図的なもので、神話時代の神々を目覚めさせる号令になったと?バカバカしい。そんなものあるわけがない。」


「しかし、アルゴンの森に多くの血を与えることも目覚めの必須条件でして、、」


まじか。確か初戦で、アルゴンの森では両軍合わせて数十万人規模の死者を出した。あの地には、数多くの血が染み渡っている。


最近かなり地震も増えてきているような。


「わたくしビーゴは聖書を信じてはおりませんが、教団が裏で動き始めている以上、古代兵器の巨人のような存在があっても何ら不思議ではないはずです」


「確かに。仮に神話時代の生物が存在していて、それらが甦ったとしたら、、、」


「カタストロフィ。まさに、この世の終わりですな」


考えただけでも恐ろしい。

ビーゴが開いた聖書には、軟体生物の特徴を持つ人形をした異形の化け物、全知全能の爬虫類人間。治癒をつかさどる昆虫の女王など。絶対に復活してほしくない怪物たちが数多く書かれていた。


(そういえば20年前、帝都の王宮を占領した際、同じ本をみたっけか。いやはや、歳をとるとそんな記憶も薄れていくもんなんだな)


「大変ですユーキ参謀!中立を保っていた精霊の国が突如宣戦布告!南方方面から20万以上の異形たちが突っ込んできます!」


「なに?!」


エルフと人類の生存権があるちょうど真南に位置する、精霊国が遂に沈黙を破った。奴らは人類に対して宣戦布告。異形の怪物たちを従え、フリードベルク南方方面にあらわれた。


南方に配備されていた帝国軍の部隊が一斉に西方へと退却し、がら空きになった南方から精霊たちの軍団が押し寄せてくる。



~15キロ地点、防衛戦~

「うわぁぁぁ!何だあいつら!頭吹っ飛ばしても突っ込んで来るぞ!」

「悪魔だ!悪魔の軍団だぁ!」


ウォォォオオオオオン!キケケケケケケッッ


「よく狙って撃て!あれは精霊国の精霊工学が生んだ改造魔獣だ!魔角を潰さない限り死なないぞ!」

「うわぁ、堀を超えて乗り込んできたぞ!」

「こいつ、俺の足を食いやがった!」

おい!あいつ噛まれた足が腐りはじめてゾンビになったぞ!?


南側の戦線は大混乱に陥った。

怪物たちが堀を泳ぎ、石垣を登り、城壁の内側に侵入、兵たちを食い殺して行く。


橋は既に爆破しているはずなのに、怪物たちは次々とこちらに渡ってくる。


「しかし、およそ知性があるようには見えない。音と光には敏感に過剰に反応しているような。」

「攻撃パターンも単調だな」


(集団行動を取らず、単体で突っ込んでくる。どうやらこいつらには知性がない。恐らく遠隔操作している精霊がいるはずだ。そいつらを殺れば。)


エリカは双眼鏡を覗き込み敵の後方を探す。

エルトは魔力探知を行う。


「いたぞ!10キロ先。妖精十体確認!」

エリカは急いで指示を出す。

「新型野戦砲用意!装填!撃て!」


新型野戦砲は口径が7cm程だが、精密射撃が可能で、高速弾は硬い防壁を突破できる威力を持つ。

また、飛距離が18キロ以上ある優秀なものだ。

打ち出された砲弾は、妖精たちの貼った結界をぶち破り内部で炸裂した。


指揮者を失った怪物たちは、本能のままに互いに殺し合い共食いを始めた。

その数はみるみると減って行き、全滅した。


「なんという恐ろしい兵器だ。」

「精霊たちの人口はとても少ない。だからこれからもああいった人造兵器がわんさか来るぞ」


エリカと前線に復帰したエルトは対精霊戦闘を任され、フリードベルク南方の防衛を担当することとなった。






「もうね、あっちこっちで問題ばかり起きて嫌になるよほんと。なんとかとかならんかねアルト君」

「参謀、新型爆弾の使用も視野に入れた方がいいかもしれませんね。」


現在、さらに西方の地では我が海軍が帝都の港湾都市を奪取した。だが、軍船の物資だけでは占領地を維持し続けるほどの食料、弾薬の備蓄は無い。

エリゼ女王率いる部隊は海岸から東部に進み、港湾都市近郊の物資集積拠点を占拠。

おそらく、港湾都市で籠城戦をやるつもりだろう。向こうの心配をする必要はないだろう。


問題は三方を敵に囲まれた、我らのフリードベルク防衛か。しかも、精霊たちの宣戦布告、人的資源で圧倒的に不利。


(どうすんのよこれ。新型爆弾は残り一発だから脅しにしろ、実戦にしろ使えばおしまい。)

ユーキ参謀は内心焦り散らかしていたが、ある作戦を実行するため、本国から優秀な人材を呼んでいた



「ユーキ参謀。お待たせしました」


「おお、エディンよく来てくれた。」

エルゼ国から今朝方到着したエディンは、俺がエリゼ中隊に所属していたとき、ともに戦った最初期のメンバーのうちの一人だ。

そして、もう一人。


「お久しぶりです。参謀」


彼は戦車隊を創設期から前線で指揮を取ってきた古参兵士のエーベルト大佐だ。


「戦友諸君、ちょうど昼時だ。飯でも食いながら」

「いえ、わたくしは早速作戦の細案と部隊の視察に行きます。」


相変わらず、エーベルト大佐は仕事熱心だな。社交的ではないからあまり昇進できないタイプだが、彼の戦車戦の知識と能力はピカイチだ。


「わかった。まず、大佐の乗る戦車はこれだ。」

ユーキは作戦の書面を棚から取り出す。


「市内の地下に温存されている、通常の7.5cm砲の戦車が25両。ガトリング砲戦車が5両。そして、今回作られた新型戦車10両。君が乗るのは新型車。」


新型戦車の砲口径は18cm重榴弾砲。敵の要塞や陣地を一撃で粉砕可能。射程は4キロと短いが、機動性は高い。


「なるほど、砲塔は無し、正面の装甲が200㎜。他は40㎜。正面からではまず敵弾は貫通しないですね。」


エーベルト大佐はこの正面装甲の分厚い新型車両を前にサイドを従来の戦車で固める運用法を打ち出した。


「ほんと、君は戦車戦において右に出るものはいないな。では次は部隊員と顔合わせか。今ちょうど地下で機械整備が行われている時間だ。行ってくるといい」


「わかりました。失礼します」


エーベルト大佐は要件を聞き、説明が終わると颯爽と退室していった。


「相変わらずですね。あの人」


「あぁ、硬派な軍人って感じだよな。現場指揮官としては有能だがあの人の下では働きたくないね」


「同感です」






~ 地下戦車隊用防空壕 ~


「気をーつけ!かしら右」

「なんだこれは、、子供たちじゃないか。戦場を知らない新兵ばかり」


初戦で古参の戦車兵の大半は戦死、今この場に残っている兵の大半は訓練過程をほとんど終えていない、軍学校の訓練兵たちだった。


「戦車兵は経験豊富。百戦錬磨の鬼神でなければならない。ここにいる者たちのつらはなんだ。温室育ちの子供たちじゃないか」


その時、誰かが戦車隊の唄を歌い始めた。

唄は一子乱れぬ軍靴のリズムで淡々と歌われた。


「我々の団結と忠義は永遠なれ、寒い夜も熱い昼も揺るぐことのない我が戦車隊の団結」


歌は後半になるほど声量が上がり、新兵たちの表情が引き締まっていくのを大佐は見た。

そして、大佐は一言。


「わかった指示を待て。整備を続けろ」






~ 大広間での昼食会 ~


ユーキ「今頃大佐は新兵たちとうまくやってるかね」

アルト「あの方は色々と言われてますが、カリスマ性があるので大丈夫かと思います」


エディン「私もそう思います。あ、ユーキさん午後からの要塞砲の動力源、蒸気機関の再建が可能か確認しますので」


ユーキ「わかった、任せる。我が国で腕のたつボイラー技士はエディンくらいしか俺は知らんからな」


こうして、起死回生を狙った戦車隊による作戦の下準備と完全に頓挫していた砲台の修復がほぼ同時に行われる事となった。





~ 戦車訓練場 ~

「よぉ、大佐調子はどうだ?」

「ええ、何とか」

敵軍のいないフリードベルク東部の演習場で、戦車隊の訓練が行われている。


「射撃訓練はしてないのか?」

「ええ。弾の節約もありますが、まずは車両が大破しない立ち回り、フォーメーションの訓練に重点を置いています。射撃訓練はその後です。」


戦車隊は砲や銃火器を持たない精霊たちの南方へ進出。敵を粉砕し、その後一気に西方へ敵軍を押し出し殲滅。領地奪還を目指す。

戦車隊に随伴する部隊の編成が行われ、エリカ、エルトの姿もその中にいた。


「エルト君、久しぶりあれからどうだい?」

「ハッ!左目の視力は回復し、右目は義眼に。問題ありません」


「エリカ君はどうかな?」

「ハッ!新しい経験に胸を高鳴らせております!」


「そうか、なら存分にやって来なさい」

エリカ・エルト「ハッ!頑張ります!」


俺はエーベルト大佐に戦車戦の指揮権を移譲、激励を送り訓練場をあとにした。


「ユーキ参謀。御嬢さんをこのまま戦場に送っていいんですか?」

「エーベルト君。君珍しく私情を言うね。」


「申し訳ないです。私の次女はバウンデン高地で戦死したもので、、、」

「初戦で全滅したバウンデンか、お悔やみ申し上げる。私はね、あの子がやりたいと言うなら、やりたいようにさせてやるだけだ」


「ユーキ参謀、以外とドライなんですね」

「いや、むしろ君がウエットな感じだったのに俺は凄い衝撃を受けたのだが?」


エーベルト大佐が厳しいながらも、部下から慕われる理由が何となくわかった気がした。

作戦は一週間後の日の出前に開始、エディンが設計、開発した即席の桟橋を堀にかけ、開始の予定だ。






~ 要塞砲地下、蒸気機関動力室 ~


アルト「おーい、エディン!この修理、一週間後の総攻撃に間に合うんか?」

エディン「無理だな。ピストンと圧力弁が全部、ひとつ残らず吹きとんでら。」


ドワーフの親方なら3日もあれば圧力弁はなんとかなるだろうが、蒸気ピストンだけはどうも厳しい。そんなとき、アルトが閃いた。


「そうだ!第二砲台の蒸気機関から必要なパーツを取ればいいのでは?」

「アホか。あれは規格がこっちより一回り大きくて合わないんだよ、、、」


アルト&エディン「なら削ればいいじゃん!」






~ 参謀執務室 ~


「え、マジで?要塞砲動くの?6日ぐらいで?今までの苦労は何だったの?」


ユーキ参謀は改めて、分野のスペシャリスト育成がどれだけ重要であるかを痛感した。


「もし、第二砲台からパーツの流用ができるってわかってれば戦線も後退せずにすんだし」ブツブッ


アルト&エディン(あー、またこのひとネチネチモードに入ったよめんどくせぇ)


「ま、過ぎたことは仕方ない。やると決めたからには頼んだぞ。エディン技術将校」


「ハッ!頑張ります!」


作戦の最終案が提出された。

こちらが冊子です。ほーい、ありがとう。


『極秘 バルジ作戦』

南方の精霊たちを戦車隊で殲滅。これを確認した要塞砲とロケット砲弾で西方の近代化した帝国軍に打撃を与る。砲撃後、部隊は回り込み殲滅。


「よろしい。この作戦を承認します。」







~ 一週間後、作戦開始前日の昼過ぎ ~


出陣前のささやかな催しを開いた。

「作戦開始が3日遅れてるぞ」

「どうも、弾薬の生産が遅れてるらしいぜ」


兵たちの食卓には、何時もの固い乾パンではなく、挽き肉のハンバーグにワインとビール。ハムにキャベツのサラダ。魚のフライなど。量は多くないが、数多くの品が兵たちの食事に振る舞われた。


食べ終えた兵は、ライフルと弾薬を担ぎ、前線に向かった。南方には敵の偵察を欺くカモフラージュが施された戦車が集結し始めた。


南、北、西の三方面に守備兵たちが配備され、街は厳戒態勢に移行。

その日の夜、辺り一帯が不気味なほど静まり返っていた。


「なぁエリカ、あの世ってあると思うか?」

「なんだ?宗教勧誘はお断りだぞ」


「いや、そうじゃなくて。死ぬ覚悟を決めるための言い訳みたいなの必要じゃねって話。」

「アホか。我々は生き残り、勝って、また新たな戦場で戦うんだよ」


バーサーカーに聞いたのが間違いだった。俺がため息をついたとき、誰かが後ろから言った。


「私は信じる。地獄で戦友たちと再び会えることをずっと待っているからな」


「こっ、た、大佐殿!」ビシッ

「そんな改まらなくていい」


大佐は深い溜め息をして、女性物??のブローチを取り出し少し眺めていた。


「君たちは、未来の事を考えればいい。死ぬことは私の年になればいくらでも考えられる」


そう言うと、大佐は自分の車両に戻っていった。

「何だったんだろう。今のは」

「おそらくあれは戒めだな」

エリカはそう答えるとはるか遠く、西の空を見て何か思いに耽った。





~ 作戦当日 ~


朝陽が地平線に顔を出し始めた。

草原は日の光で黄金に輝いている。今から戦闘が始まる場所になるとは思えないほど美しく見えた。


「渡河ようの桟橋設置完了しました!」


「よし!戦車前進!全車前へ!」


戦車のキャタピラ音が朝の静けさをかき消し、辺りに轟音を轟かせる。

6つの仮設桟橋を通り、戦車隊が前面に出た。我々随伴の歩兵も戦車の後ろを前進開始。

後方から長距離火砲が掩護射撃を開始。

前方で砲弾が炸裂し、沸いて出てきた敵の怪物どもを吹き飛ばす。

しかし、四肢をもがれてもなお、怪物たちは動きつづける。そこらじゅうに散らばる怪物一つ一つのコアを歩兵が破壊して進む。


途中、ゴーレム型の巨大モンスターが出現し投石を開始。先頭を行く新型戦車は散弾のように飛んでくるバスケットボールサイズの岩石を装甲で弾き飛ばす。


後方に続く歩兵たちは、飛んでくる岩石と戦車が弾き返した跳弾に気をつけ、姿勢を低くして進んだ。


敵陣に近づき、四キロ地点に到達すると

戦車隊は散開。一時停車し、砲弾をモンスターに撃ち込んだ。18cm砲は砲身が短く、弾道も山なりで照準が難しいが、爆薬てんこ盛りの砲弾が全てを解決する。


着弾と同時に大きな爆発がおこり、モンスターがパラバラになって吹き飛んだ。


うぉぉお!!やったぞぉ!!!


歩兵たちから歓声が上がる。

戦車隊は前進を再開し、敵陣に肉薄。

ガトリング砲を積んでいる車両が前に出て、精霊たち本体を狙い撃ちにし、なぎ倒していく。


南方の戦闘は二時間ほどで終結し、合図の狼煙が上がる。後方から追加支援で来た歩兵たちは残存敵勢力を排除し、土嚢で特設のトーチカを作りはじめた。


戦車隊と随伴歩兵部隊は西方に向きを変え前進を再開した。

時刻は午前8:00過ぎ。フリードベルク西方部隊による最後の一斉砲撃を確認。続いて辺りに要塞砲の轟音も轟いた。


敵の塹壕地帯に猛烈な爆発と黒煙が次々と上がり始める。戦車軍団はその方角に向かって前進。


敵は数日前、偶然兵員の入れ換えを行っていたらしく、前線にいるそのほとんどが新兵たちだった。奴らは凄まじい砲火に正気を失い。

逃走するもの、恐怖でその場で硬直するものなど様々な反応を見せた。統率がとれていないようすだった。


先頭のエーベルト大佐が乗る車両に大きな赤いフラッグが上がる。

"我コレヨリ突撃ス、援護砲撃ヤメ" の合図だ。


先程まで大地に鳴り響いていた砲撃音がピタリと止まる。巧妙に隠され、破壊を免れた敵陣からガトリング砲が連射を始め、対戦車砲が火を吹き始めた。


ガンガンガンガンガン

「大佐!凄まじい音ですね!誰かノックしてるんですか?」

「ハハハ!ここは便所だってか?!」


「お前たち。少し静かにしろ」


先頭の新型車両目掛け、正面から大量の弾丸が撃ち込まれ続ける。


「ウワァァァア、死ぬ!今度こそ死ぬ!」

「ばか野郎!伏せろ。戦車の後ろに張り付け!跳弾にあたって頭吹っ飛ぶぞ!」


ビュィィーーン。

耳元で物凄い風切り音がした。

敵の銃撃や砲火から身を隠すものがほとんどない。聞いたこともない風切り音がなり続けて、気が狂いそうだ。


この状況に耐えかね、戦車の影から飛び出たものが一瞬にして肉塊になった。


「だから、下手に動くなって」

「いつまでも続くんだよぉ」

「勝つまでだ。エルト」


新型戦車砲の射程距離に敵陣が入り、前進しながら戦車は砲撃を開始。初弾はほとんど命中しなかったが、敵を驚かせ射撃を中断させる効果はあった。


続いて、小口径の戦車が敵陣に精密射撃を開始。塹壕やトーチカ。隠された戦車砲をドンドン撃破していく。


「大佐!敵の戦車です!数は60以上!」

「こちらは40両です!」


「そのうち5両がガトリング砲で対戦車は不可か。よし、各車両に向けて手信号送れ。各車両2両は撃破せよ。機関砲車両は後ろへ!」


敵の先頭車両が発砲。

砲弾が命中した通常車両が爆発炎上。


「あれが敵の魔鉱石を使った徹甲弾か」


ガンンンッ!!

車両に物凄い衝撃が走る。


「大佐!弾き返しましたぜ!敵の砲弾!」

確かに弾き返したが、かなり装甲が抉れている。同じところに数発連続で命中したら分厚い正面装甲もカチ割れるだろう。


大佐の車両は熟練の動きでたちまち12両撃破。大口径榴弾砲は命中しなくとも、至近弾で敵車両を行動不能、大破させた。


1両だけ黄色い六芒星が描かれた車両を視認。


「あれが敵の隊長車両か。狙え、撃て」


帝国側の戦車指揮官が乗る車両を木っ端微塵に吹き飛ばした。統制を失った敵の45両は散り散りになって逃走を開始した。



「敵の戦車に構うな!前進!」

戦車と歩兵部隊は前進し、敵の塹壕地帯に突入していった。



「エーベルト大佐は、敵塹壕地帯を突破。フリードベルクから25キロ圏内の敵軍を一掃。」

「大戦果じゃないか。」


現在、戦車軍団は30キロ地点で停止。

戦車隊の損失は通常車両6、機銃車2の8両のみ。


「やはり、新型車の大口径砲による近接射撃は凄まじいな。(ほぼ、シュトルムタイガーの小型版だもんな)」

「ええ、敵のコンクリート製のトーチカを一撃で吹き飛ばしたとか」


「これで、塹壕戦における戦車隊の有効性は証明されたわけだ。」

敵軍を一時的に押し出せたのはでかい。


「しかし、これはまずいな」


「女王も不在ですからね」


精霊たちの国は、エルフと人類の戦争に中立的な立場を示していたが、ここに来て本格的な参戦。

エルゼ本国は南方から襲来した精霊国の改造生物の大軍による攻撃を受け被害甚大、南部の領土を失っていた。


西部の新要塞は南部から距離がある。

比較的、南部に近い南西部の旧式ガトー砦は戦場に近いが防衛火力不足。


エルゼ本国は東エルフ共和国と比べ防衛施設が少なく、南部の防衛はほとんどない空白地帯。


「エルゼの正規軍を本国に後退させるしかないか」


「参謀。ここは我々が食い止めますので、正規軍とともに本国へ戻ってください」

アルト司令はそういうと、東エルフの軍で帝国と第三勢力の精霊たちを相手にした防衛戦の準備を始めた。



~ フリードベルク郊外最前線 ~

エリカ「大佐、随伴歩兵部隊の消耗が激しく、これ以上の行軍は難しいかと」


エーベルト大佐「そうか。戦車隊もだいぶ装甲が削れ、これ以上の被弾に耐えられそうもない。前進はここまでだ」


比較的無傷な8両は戦線にとどめ、残りは地下の整備場へと送られた。現在、我々のいる地点は要塞砲の射程外。

最大火力による掩護射撃は期待できないが、敵の残していった広大な塹壕と防衛陣地はそのまま活用できる。


大佐「敵の残していった弾薬を集積しろ」


今回の攻勢で弾薬を激しく消費した我々は、敵の大砲や銃、爆薬を使わなければならない。


大佐「使い方はわかるな」


「ハッ!存じております!」


一時的な大勝利の後は、奪還した地域を再びとられぬよう防衛するかが問題だ。

そんなとき、後方から命令書が届く。


「前線のエルゼ国の正規兵は戦車隊を残し速やかに後退せよ。本国の防衛戦に向かえるよう、速やかに部隊の再編を行うべし」



「な?!それでは、我々東エルフの二十万名ほどで敵の大軍と対峙しろと?!」

東エルフの兵たちに動揺が広がる。


有事の際に、東エルフ共和国で徴兵され、後方支援に従事していた国民突撃隊(満18歳から500歳まで)が武装を始め。弾薬や食料補給に影響が出るが、前線に約12万近い兵員として補充され始めた。


(彼らが来ても約32万人。しかも開戦以来一度の射撃訓練もしていない後方部隊が果たして前線で戦えるのだろうか。)

大佐の表情が曇る。


「大佐、申し訳ないですが。お供できるのはここまでのようです。」


「ああ、エリカ中佐。エルト中佐。本国を頼む」


「あとそうだ、エリカ中佐。これを」

大佐は、弾丸のめり込んだ女性もののブローチを渡した。


「大佐、これは?」

「お守りだ。」


前線での引き継ぎを終えた、エルゼ国の兵隊たちがフリードベルク市街に集結。

フリードベルク駅には機関車が既に待機しており、客車や貨車に到着した下級兵をぎゅうぎゅうに押し込み、本国への輸送が始まった。


一等客車に乗り込むユーキ参謀とそれを見送るアルト司令。

将校も複数乗車した第一陣が、フリーベルク駅を主発した。







~ ガルマニア帝都 港湾都市 ~


帝都で破壊活動を行っていたエリゼ率いる陸戦隊は、フリードベルクから引き抜かられた50万の軍団が迫ってくるのを確認した。


「エリゼ女王。敵の本隊が迫って来ております。後数分で後退を援護するための艦砲射撃が始まります!」


「わかっている。」


エリゼ率いる連合艦隊と陸戦隊は、港湾都市にある空中戦艦のドック、弾薬工場を破壊し後退を開始した。当初の目的通り敵の後方支援を断ち、フリードベルク包囲網を弱体化させることに成功した。


「大変です女王!王都からです。」

「そうか、精霊どもがきたか。艦隊を反転!精霊どもの湾岸都市に艦砲射撃を行いながら帰還する!」






~ 将官専用 一等客室 ~


エリカ、エルトを含めたエルゼ国の軍は列車に乗り込み西方へ転進。


「今入っていいか?」

「おう」

返事があったので、エリカに呼ばれたエルトは部屋のドアを開けた。


「酒は、ドワーフに貰った年代物でいいか?」

「おいおい。年齢的にアウトだろ。」


何をいってる?この世界では大丈夫なんだぞー。メタいこと言わせんな。


「さて、今回の南方からの襲撃。お前はどう見る?」

「精霊たちの動きが気になるな。奴らは帝国側と連携しているようにも見えない」


エリカは解答を聞いて頷き、一つの仮説を立てた。

もし、精霊の連中が古代魔術や古代神話を本気で信じていたとしたら、今の状況をどう考えるのだろうか??


ユーキ「流石、我が娘ながら古代神話まで知ってるとはな」


エルト「参謀!」


ユーキは、防音対策の施された客車に二人を呼び、話し始めた。


さーて、エルゼ国の未来を担う君たちには話しておこうか。


精霊たちは恐らく、今回の戦争を聖書にある、人類とエルフの最終戦争が起こったと考えているのだろう。だから、生命の樹レーベンスバウムの化石がある、アルデンの森を占拠し。古代神話の生物を復活させるつもりだ。


「で、あればフリードベルクを見捨てるような今回の移動は不味いのでは??」


エルトの発言にユーキが頷く。

フリードベルクは最早、都市機能が不全を起こし、普通なら残り数週間で街は陥落するだろう。だが、それは敵も同じだ。

首都に防御要塞を作らず慢心していた帝国側は、我が軍の艦砲射撃と陸戦隊の強襲で疲弊しきっている。


帝国側から停戦案を携えた使者との交渉も秘密裏に進んでいる。


「そんな時に精霊国がせめて来るとなると、おそらく戦争を終わらせた大義名分を振りかざし、古代の遺物を強奪する算段か」


その通り、エリカお前は賢い。


もしもの時に備え、古代兵器の巨人から出来る限りの魔力と肉片を抽出し、それを輸送させている。この機関車にも厳重に警備された車両にそれらが保管、輸送されている。


新型爆弾7発分相当の魔力をエルゼ本国に持ち帰る計画だ。そして、サルマトたちから押収した爆弾一発にはすでに魔力が充填され、もしもの時に使用できるようフリードベルクにある。


「まさか、、、」


そのまさかだ。我々は本国で新型爆弾を数発量産、交渉失敗時はフリードベルクには時間稼ぎの盾になってもらう。


「そ、そんな親父が、、、」


エルト君には申し訳ないと思ってる。


「アルト司令官が、、しかし、ユーキ参謀。残った巨人の肉片はどうするの?フリードベルクを手放せば巨人の肉片も敵の手に落ちます!」


フリードベルクが陥落すれば、特殊部隊が管理されている魔力制御装置を破壊し、魔力を暴発させ、跡形もなく残骸もろとも吹き飛ばしてくれる手はずだ。


エリカとエルトの表情は凍るが、仕方ない。

これは最終手段だと言うとこを告げ、そうならないためのあらゆる努力が行われていることを説明した。


少なくとも、我々エルゼの連合国だけでなく帝国側もかなり疲弊していることから、停戦の和平案が現実的だろう。


問題は漁夫の利を狙う、精霊国の動きが喫緊の課題だ。


そこまでを二人に話し、将来を担う新しい世代の育成と戦争で失われた現場指揮官の補充が急務であることも説明した。

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