第39話「三つの役割」
石碑の前で立ち止まった瞬間、榊原が周囲を一瞥し、短く指示を出した。
「真は石碑を見ろ。水無瀬は周辺構造の確認、俺は警戒に回る」
「了解です」
「分かった」
俺は石碑に近づき、表面の古い文字を指でなぞった。
刻まれているのは、剣と盾を交差させた紋章と、その下に並ぶ文字列。
書体は、湖畔で見つけた『心気の理』と同じだ。
――『気は刃を通し、盾を裂く。心はそれを導く』
読みながら、脳裏に先日の鎧騎士戦がよみがえる。
有効打突の感触を与えられなかった、あの硬い防御。
もしこの一文が正しいなら、盾を破るための条件もまた、心気の理に隠されているのかもしれない。
「真さん、こちらは細い通路が南に伸びています。ただし半分崩れており、通過できるのは一人ずつです」水無瀬の落ち着いた声が響く。
「天井は低いですが、進めば広間に出る可能性があります」
榊原は通路の入口に伏せ、銃口を構えていた。
「南東方向、微かな接近音あり。距離はまだあるが、油断はできない」
その声は落ち着いているが、引き金にかけた指はいつでも撃てる位置にある。
俺はさらに石碑の下部を読み進めた。
――『二度重ねて果たすとき、門は開かれん』
また「二度重ねて」という文だ。湖畔の古文書と符号する。
「真、急げ。音が近づいてる」榊原の声が低く鋭くなる。
「分かった。もう少しだ」
最後の行には、ほとんど消えかけた文字があった。
――『ただし、その理を乱す者、己を滅す』
冷たい感覚が背筋を走る。
「調査終了です。撤収しましょう」水無瀬の声に、俺は石碑から手を離した。
互いに目で合図し、細い通路へと移動を開始する。
背後から、硬質な足音が確かに近づいてきていた。




