第36話「湖畔の脱出戦」
湖面を割って、水蛇が二体、立て続けに躍り出た。
鱗が青白い光を反射し、全身に水飛沫を纏っている。
狭い足場を選ばせず、湖畔全域を支配するように動き回っていた。
「右、任せろ!」榊原が射撃姿勢に入り、連続で火花を散らす。
一体が首をひねって回避し、弾丸が鱗をかすめた。
もう一体が低く潜り込み、こちらの足元へ飛びかかる。
俺は竹刀を下段に構え、その頭部を胴の間合いで打ち抜く。
骨を砕く感触とともに、水蛇が弛緩して湖に沈んだ。
だが残る一体は素早い。
湖面下を滑るように移動し、背後から水無瀬を狙う。
「下!」俺の声に合わせ、水無瀬が横に跳び、爪が岩を抉った。
榊原がすかさず銃撃。
弾丸が鱗の隙間を突き、血飛沫が水面に広がる。
それでも奴は動きを止めず、湖面を走るように俺へ突進してくる。
間合いは一瞬。
上段に構え、振り下ろす。
面――有効打突の感触。
水蛇の動きが途切れ、そのまま巨体が倒れ込んだ。
湖畔に再び静けさが訪れる。
だが、通路奥からはまだ複数の足音が響いていた。
「時間がない。ここを離れるぞ」榊原が促す。
俺たちは湖を背に、来た道とは別の細い通路へ飛び込む。
壁の苔が光を放ち、足元だけを照らす中、全力で駆け抜けた。
振り返れば、湖畔はすでに闇に沈み、あの祭壇も見えなくなっていた。
胸のポーチには、まだ解き明かせていない古文書――『心気の理』。
その意味を知るとき、きっとまた、あの鎧騎士と向き合うことになる。




