第33話「迂回路」
広間を抜け、来た道を数十メートル戻ったところで立ち止まる。
息は整っているが、背後の気配が消えた今も緊張は解けない。
先ほどの鎧騎士――あの質量、あの防御。正面突破は不可能だ。
「別ルートを探しましょう」水無瀬が地図端末を起動する。
表示された第四層の地図は一部が赤く塗りつぶされ、鎧騎士がいた広間はその中央に位置していた。
「ここから南西に伸びる通路がある。ただし、この先は未踏破」
「行くしかないな」榊原が即答する。
俺も頷き、進行方向を切り替えた。
南西ルートは天井が低く、湿気が濃い。
壁にびっしりと苔が張り付き、時折小さな光の粒が宙を漂っている。
視界は悪く、足元はぬかるんでいた。
しばらく進むと、前方に水音が響き始める。
角を曲がった先、小さな地下水脈が通路を横切っていた。
幅は二メートルほど、水深は膝下。
「足音で気付かれるな」榊原が警告する。
俺たちは慎重に渡り始めた――その瞬間、水面が盛り上がった。
水飛沫とともに現れたのは、魚の頭と人型の胴を持つ魔物――リザード系の変種だ。
鋭い爪と歯が月光のように光る。
群れで襲ってくる性質があり、すでに三体が水から姿を現していた。
俺は竹刀を構え、一体目の突進を面で迎え撃つ。
打突の感触とともに、魔物が水面に崩れ落ちる。
榊原の射撃が二体目の肩を撃ち抜き、水無瀬がその隙に首元へ刃を滑らせた。
三体目が背後から跳びかかってくる。
足元の水で動きが鈍ったが、振り返りざまに胴を打ち抜く。
水しぶきとともに、最後の一体が沈んだ。
静けさが戻り、再び水音だけが響く。
俺たちは無言で頷き合い、川を渡り切った。
先には、まだ暗闇が続いている。
だが、その奥に何が待つかは分からない。
――鎧騎士を避けたはずなのに、胸の奥には同じ重さの緊張が残っていた。




