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第32話「不穏な影」


 苔の青白い光に照らされた狭い通路を、俺たちは慎重に進んでいく。

 振動は徐々に強まり、地面の細かな砂が揺れているのが分かる。

 耳の奥に響く低い唸り声は、確実に近づいていた。


 やがて通路が開け、小さな広間に出る。

 中央には崩れた石柱がいくつも倒れ、足場は不安定だ。

 そこに、影が揺れた。


 最初に見えたのは、鉄色に光る巨大な肩甲。

 続いて、全身を覆う黒鉄の鎧。

 身の丈は三メートル近く、背中には異様に長い戦槌を背負っている。


「……鎧騎士系か」榊原が低く呟く。

 しかし前回の鎧騎士とは違い、兜には赤い縦線が刻まれている。

 それがわずかに光り、重低音のような声が広間に響いた。


「警戒を」俺は竹刀を構える。

 鎧騎士は一歩を踏み出すたび、地面を震わせた。

 その巨腕が振り上げられた瞬間、俺は前へ踏み込む。


 面を狙った一撃――だが、金属音が響くだけで、有効打突の感触が伝わらない。

 衝撃は受け止められた。

 鎧の表面がわずかに赤く光り、反撃の槌が迫る。


「下がれ!」榊原の声と同時に銃声が響き、槌の軌道がわずかに逸れる。

 水無瀬が背後から回り込み、脇下を狙って短剣を突き立てる――しかし刃は通らない。


 鎧騎士は俺たちを見下ろし、再び唸り声を上げた。

 重い空気と殺気が広間を満たす。

 このまま正面から続ければ、確実に押し潰される。


「撤退だ」

 俺の言葉に二人が即座に動く。

 榊原が弾幕を張り、俺が鎧騎士の注意を引く。

 水無瀬が先行して退路を確保し、俺たちは広間から通路へと飛び出した。


 背後で金属が石を砕く音が響く。

 その音は、俺たちを追うことなく徐々に遠ざかっていった。


 息を整えながら、俺は先程の感触を思い返す。

 確かに打った。だが、何かに阻まれた。

 あの光――あれが原因かもしれない。


「……次は、正面からじゃなくても倒せる方法を探す必要があるな」


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